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日本の大学発ベンチャー‐転換点を迎えた産官学のイノベーション‐

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Abstract

本書は,日本,イギリス,アメリカの大学発ベンチャー,及び,関係機関へのヒヤリング,質問票調査等をもとに,日本の大学発ベンチャーが直面する“成長の壁”について,主要な経営課題「顧客・販路」「資金調達」「人材」ごとに分析を行い,その上で,日本の大学発ベンチャーにおける”サポートリソース”との連携の現状と課題を分析すると共に,“成長の壁”を克服し,新たな成長を実現するため,社外の関係ネットワーク資産としての”サポートリソース”との効果的且効率的な連携の在り方についての含意を提供することを目的としたものである. 本書では,日本の大学発ベンチャーが“成長の壁”に直面しており,その背景には,日本の大学発ベンチャーに特有のキャズム問題,デスバレー問題,相互補完的経営陣の欠如などの要因が存在する,また,大学発ベンチャーの成長を促進する潜在性を有する”サポートリソース”との連携が十分なされていないことを指摘した. 日本の大学発ベンチャーが,“成長の壁”を克服し,日本のイノベーションシステムの一翼を担う存在となるためには,何が必要であろうか. 最も重要と考えられるのが,大学発ベンチャー経営におけるリスクとリターンの整合性である.本書において指摘した通り,大学発ベンチャーとは,革新的,且,汎用的な基礎研究段階の大学の知的財産をベースに,革新的な製品,サービスを事業とし,新規市場の開拓を目指すベンチャーとして,高い潜在性の裏腹に,イノベーションリスク,ファイナンシャルリスク,経営資源の制約等,高い不確実性を有する,という特徴を有する.こうしたハイリスクながら,ハイリターンの可能性を有する企業体にふさわしい,事業計画が,まず,求められる.先端科学技術をベースとするが故に,大学発ベンチャーは,技術の実現性,マーケティングといったイノベーションリスク及び資金面でのファイナンシャルリスクが高く,(Pfirrmann, Wupperfeld and Lerner, 1997),経営資源の制約も,より厳しいものとなる. 革新的な製品,サービスの可能性を有しながら,ニッチな市場を目指す事業計画を遂行するとなれば,まず,資金調達に支障をきたす.さらに,人材獲得においても,優秀な人材の獲得は難しいであろう.なぜなら,この事業計画は,ハイリスクながら,ローリターンであるからである.大学の知的財産,特に,既存企業もその事業化,商業化に躊躇するようなリスクの高い知的財産をベースとする以上,その事業計画構築においては,ハイリターンを目指すものでなればならない.こうしたハイリターンを目指すがゆえに,,ハイリスク・ハイリターン事業のプロフェッショナルな,“人材”“資金”,さらには,”サポートリソース”を引き付けることができる.急成長を目指す大学発ベンチャー起業家にあっては,自らのベースとする知的財産のリスクにマッチしたリターンを見込める事業計画を,創業前の段階で,確立すべきである. 日本の起業環境は,資金,人材獲得,さらには,潜在的な社外のネットワーク資産のいずれの点においても,アメリカとの比較において,十分ではない.ただ,本書でも指摘したように,ハイリスク,ハイリターンを前提として,大学発ベンチャーにコミットメントする意思を有する”サポートリソース”が,徐々に構築されようとしている. 日本の大学発ベンチャー,”サポートリソース”ともに,リスクにたじろぐことなく,さらに目線をあげ,ハイリターンを追求すべきであろう.ハイリスク,ローリターン,あるいは,ローリスク,ローリターンの世界では,大学発ベンチャー,”サポートリソース”は,その特徴からも,長く存在し得ない.ハイリスク,ハイリターンの世界におけるプロフェッショナルな存在として活躍することによってのみ,その存在意義が確認され,日本のイノベーションシステムの一翼を担う存在となることができる.
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