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Pulex No. 100, 2021
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寺山 守・久保田敏・江口克之(2014)日本産アリ類図鑑.278 pp. 朝倉書店.東京.
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(Hym.: Formicidae)
熊本県初記録の外来アリ
3
種
久末 遊(九大院・生資環・昆虫)
2017 年の本邦におけるヒアリ(アカヒアリ)の発見以降,各地でアリ類のモニタリングがお
こなわれることでヒアリに限らず様々な外来アリの発見が相次いでいる(寺山ら,2019;寺山・
砂村,2019;本山・七里,2020).九州本土では アシナガキアリやツヤオオズアリ,ナンヨ ウテ
ンコクオオズアリなど国内における分布が南西諸島や屋内での偶発的な記録に限られていた外
来アリの生息や分布拡大が確認されており(原田ら,2017;山根ら,2019),九州 各地の外来ア
リの分布状況を把握することはその分布拡大と生息環境における在来アリやその他生物への影
響を評価するための基礎情報として必要である.
筆者は熊本県より未記録の外来アリをいくつか採集しているため,断片的ではあるが本県の外
来アリの分布状況の把握のためここに報告する.報告に用いた標本は現在筆者が保管している
が,将来的には九州大学農学部昆虫学教室に保管予定である.
インドオオズアリ Pheidole indica Mayr, 1879
[採集データ]
1 s (soldier) (図 1),5 w (workers)(図 2),熊本県阿蘇郡小国町下城,7.III.2019,久末採集.
いずれの個体も温泉浴場内の湯船のそばを歩行していた.住宅地や畑地などの人為的環境やオ
ープンな場所に多く(山根・細石,2020),港では優占することもある(原田ら,2019).
アワテコヌカアリ Tapinoma melanocephalum (Fabricius, 1793)
[採集データ]
2 df (dealate females),10 w,熊本県熊本市西区城山,13.X.2019,松田元気氏採集;1 w(図 3),
熊本県山鹿市鹿北町芋生,22.VIII.2021,後藤聖士郎氏採集.
鹿児島県や琉球列島では古くから分布が確認されていたが,近年中四国や関東地方でも発見の
相次いでいる種である(辻,2018;寺山ら,2019;蒔田・脇,2020).九州本土ではこれまで福
岡県,宮崎県,鹿児島県から確認されていた(那須,2008;山根ら,2010;久末,2018).山鹿
市の個体は市街地から離れた森に囲まれた民家で得られた.熊本市の個体は,民家の外壁や屋内
を歩行していたとのことである.
ケブカアメイロアリ Nylanderia amia Forel, 1912
[採集データ]
熊本県熊本市西区春日:4 w(図 4),23.V.2021,久末採集.
本種は 1990 年以降日本本土にて分布を拡大している種であり,九州本土からはこれまでに福
岡県,長崎県,宮崎県,鹿児島県から知られていた(久末・辻,2020).今回得られた個体は往
来の多い駅の植栽で発見されており,周辺を探索することで他にも産地を発見することができる
と思われる.
本報で記録した 3種のうち,インドオオズアリとアワテコヌカアリは内陸の閑静な地域から
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確認されている.細石・山根(2020)が港湾部の調査 で 地 方 の 港 に も モニタリ ン グ の 必 要 性 を 指
摘しているように,これら外来アリの分布拡大をモニタリングするには大規模な港や市街地に限
らない幅広い範囲での調査が必要であろう.
末筆ながら,アワテコヌカアリの貴重な標本をご恵与いただいた松田元気氏(熊本県)と後藤
聖士郎氏(九州大学)に厚く御礼申し上げる.
[引用文献]
原田 豊・細石真吾・山根正気(2017)鹿 児 島 県 本 土 で 初 確認された 侵 略 的 外 来 種 アシナガキ ア
リ.Nature of Kagoshima, 44: 9–12.
原田 豊・浅井嘉乃・荒場麻瑚・日笠山円来・齋藤七彩(2019)五島 列島の港 のアリ相 ―外来ア
リのモニタリング―.Nature of Kagoshima, 46: 27–32.
久末 遊( 2018)福 岡 県 に お け る ア ワ テ コ ヌ カ ア リ Tapinoma melanocephalum の記録.Pulex, (97):
746–749.
久末 遊・辻 雄介(2020)ケブカアメイロアリ Nylanderia amia の四国における記録と近年の
分布拡大について.蟻,(41): 18–36.
細石真吾・山根正気(2020)対馬から初めて確認 さ れ た イ ン ド オ オ ズ アリ Pheidole indica.Pulex,
(99): 831–832.
蒔田将吾・脇 悠太(2020)香川県におけるアワテコヌカアリの採集記録.へりぐろ,(41): 47.
本山直人・七里浩志(2020)横浜市内における外来アリの確認事例.横浜市環境科学研究所報,
(44): 24–32.
那須尚子(2008)家 屋 内 に 侵 入 す る 困 っ た ア リ た ち ―イエヒメアリとアワテコヌカアリ―.タ テ
図1–4.1,インドオオズアリ(メジャーワーカー);2,インドオオズアリ(マイナーワーカー);3,アワ
テコヌカアリ;4,ケブカアメイロアリ.
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ハモドキ,(44): 27–30.
寺山 守・砂村栄力(2019)外来アリ Iridomyrmex anceps の国内での発見.蟻,(40): 23–26.
寺山 守・富岡康 浩・岸 本 年 郎(2019)関 東 地 方 港 湾 部 で 得 ら れ た 外 来 ア リ 類 .つ ね き ば ち ,(33):
13–24.
辻 雄介(2018)山口県におけるアリ科の分布調査.豊田ホタルの里ミュージアム研究報告書,
(10): 11–49.
山根正気・細石真吾(2020)日 本 産 オ オ ズ ア リ 属 の 女 王 形 質 に よ る 分 類 .昆 蟲( ニ ュ ー シ リ ー ズ ),
23(2): 37–53.
山根正気・原田 豊・江口克之(2010)アリの生態と分類― 南九州のアリの自然史―.200 pp.
南方新社.鹿児島.
山根正気・原田 豊・古川博文(2019)鹿児島県本土に定着した外来性オオズアリ属の 2種.
Nature of Kagoshima, 46: 239–241.
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(Hym.: Formicidae)
西表島におけるウロコアリ属
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種の記録
久末 遊(九大院・生資環・昆虫)
ウロコアリ属 Strumigenys は日本からは 30 種が確認されているが(寺山ら,2014;Terayama,
2020),一部の種 を 除 け ば 林 床 か ら少数得ら れ る の み で あ る.本報では ,西 表 島 に お い て得られ
た本属 2種を報告する.得られた個体は全て乾燥標本として九州大学農学部昆虫学教室に保管
されている.
カクガオウロコアリ Strumigenys strigatella Bolton, 2000
[採集データ]
1 w (worker)(図 1,2),沖 縄 県 八 重 山 郡 竹 富 町 西 表 島 古 見( 相 良 川 林 道 )(24.338°N, 123.915°E),
31.VIII.2020,久末採集.
体長 2 mm ほどで外部形態はウロコアリ S. lewisi Cameron, 1886 に似るものの中・後胸側板が
点刻されることで区別できる(Bolton, 2000;寺山ら,2014).本種 は 西 表島 の 大 富 及 び沖縄 島 の
与那から得られた個体を基に記載された(Bolton, 2000).ほ か に は 沖 縄 島 北 部 の 照 首 山 ,普 久 川
から得られていたが(Onoyama, 1976;日本産アリ類データベース作成グループ,2003),記載
以降の採集記録はなかった.本個体は照葉樹林内の林床を篩って得られた.
ヨフシウロコアリ Strumigenys emmae (Emery, 1890)
[採集データ]
1 w(図 3,4),沖縄県八重山郡竹富町西表島上原 (24.38967°N, 123.80912°E),3.IX.2020,久末
採集.
西表島初記録.体長約 1.5 mm の小型種で大腮は短く,頭部から後腹柄節にかけて円状毛をも
つ顕著な種である(寺山ら,2014).汎世界に分 布 する放浪種で あ り,人間の移動 に 伴って分布
を拡げたと考えられている(Wetterer, 2012).日本における本 種 は 古 く は 小笠原諸 島 か ら 報 告 さ
れており(久保田,1976;進藤,1979),その後沖縄諸島(山根ら,1999),大 東 諸 島( 山 根 ら ,
1999),慶良 間諸島(寺 山ら,2014)か ら確認され,最近 八重山諸島の波 照間島と与那国 島から
報告された(葛西・藤本,2020). 本個体は葛西・藤本(2020)が報告した個体と似た,乾燥
した林縁の枯葉を篩って得られた.