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GBIF 日本ノード JBIF の歩みとこれから:日本における生物多様性情報/Future perspective of Biodiversity Informatics in Japan based on the history of Japan Node of Global Biodiversity Information Facility (JBIF)

Authors:

Abstract

Global Biodiversity Information Facility(GBIF)日本ノードJBIFは、体制を刷新した2012年以降、国内における生物多様性情報に関わる活動の拠点として、生物多様性に関わるデータの整備や公開、それらの支援、普及啓発等の活動を行ってきた。日本は2021年6月をもってGBIFの公式参加国、機関から外れることが決定しているが、JBIFは引き続き同様の活動を継続していく。本稿は、JBIFのこれまでの主な活動をまとめると同時に、国内における生物多様性情報が今後進むべき方向、課題について意見を述べ、日本の生物多様性情報の発展について今後必要と考える事項について提案する。
1
題:GBIF 日本ノード JBIF の歩みとこれから日本における生物多様性情報1
の進むべき方向 2
英語表題Future perspective of Biodiversity Informatics in Japan based on the history 3
of Japan Node of Global Biodiversity Information Facility (JBIF) 4
簡略表題:日本の生物多様性情報のこれから 5
6
著者:大澤剛士 1,6,三橋弘宗 2,6, 細矢剛 3,6, 神保宇嗣 3,6 ,渡辺 恭平 4,6, 持田7
5
8
AuthorsTakeshi Osawa*1,6, Hiromune Mitsuhashi2,6, Tsuyoshi Hosoya3,6, Utsugi 9
Jinbo3,6, Kyohei Watanabe4,6, Makoto Mochida5 10
11
所属: 12
1. 東京都立大学 都市環境科学研究科 13
2. 兵庫県立大学 14
3. 国立科学博物館 15
4. 神奈川県立生命の星・地球博物館 16
5. 浦幌町立博物館 17
6. GBIF 日本ノード JBIF 18
19
所属英文: 20
1. Graduate school of Urban Environmental Sciences, Tokyo Metropolitan University 21
2. Hyogo Prefectural University 22
3. National Museum of Nature and Science 23
4. Kanagawa Prefectural Museum of Natural History 24
2
5. Historical Museum of Urahoro 25
6. Japan Node of Global Biodiversity Information Facility 26
27
連絡著者 大澤 剛士 28
住所:192-0397 東京都八王子市南大沢 1-1 29
東京都立大学 都市環境科学研究科 30
住所英文:Graduate school of Urban Environmental Sciences, Tokyo Metropolitan 31
University, 1-1 Minami -Osawa, Hachiouji,Tokyo 192-0397, Japan 32
Phone: 042-677-1111 33
e -mail: arosawa@gmail.com 34
35
原稿の区分:学術提案 36
37
2021 426 保全生態学研究 掲載決定 38
39
3
40
Global Biodiversity Information FacilityGBIF日本ノード JBIF は、体制41
を刷新した 2012 年以降、国内における生物多様性情報に関わる活動の拠点と42
して、生物多様性に関わるデータの整備や公開、それらの支援、普及啓発等の43
活動を行ってきた日本は 2021 6月をもって GBIF の公式参加国、機関か44
ら外れることが決定しているが、JBIF は引き続き同様の活動を継続していく。45
本稿は、JBIF のこれまでの主な活動をまとめると同時に、国内における生物46
多様性情報が今後進むべき方向、課題について意見を述べ日本の生物多様性47
情報の発展について今後必要と考える事項について提案する。 48
49
キーワード オープンデータ, 基盤情報, 根拠に基づく政策, 生物多様性施策, 50
生物多様性情報学 51
52
53
4
はじめに 54
生物多様性情報の蓄積および共有は、今や生物学に留まらない人類の重要課55
題と認識されているGBIF Secretariat 2012)。生物多様性は種内の多様性(遺伝56
的多様性)、種間の多様性(種の多様性)、生態系の多様性という 3階層を包含す57
ると定義されているが(Redford and Richter 1999)、このうち主に種間の多様性58
に関する情報を蓄積し、共有することを目的に世界最大規模のデータベースを公開59
している国際プロジェクトの一つとして、地球規模生物多様性情報機構 Global 60
Biodiversity Information FacilityGBIFがある。日本は 2001 年の GBIF 発足61
から積極的に活動に貢献し(松浦 2009, 2012; 大澤ほか 2016, 2019)、これま62
で累計 800 万を超える生物多様性情報をオープンデータとして GBIF を通して世63
界に発信してきたhttps://www.gbif.org/ja/country/JP/summary 最終確認日 202164
222 日)さらに日本からの参加メンバーGBIF Governing board 副議長、65
アジア地域代表等の要職を拝命するなど、活動のみならず組織運営にも貢献してき66
(細矢 2016。しかし、参加に要する国ごとの拠出金負担の高騰、さらには日67
本の経済情勢等が影響し、日本は 2021 6月を以って GBIF の公式参加国、機関68
から外れObserver となることが決定しているGBIF の日本拠点である Japan 69
Node of Global Biodiversity Information FacilityJBIFは、今後も生物多様性70
情報の蓄積および共有に貢献していくが、国際活動である GBIF 本体においては71
思決定には直接参加できない Observer という立場となる。とはいえ、生物多様性72
情報の蓄積、共有化の重要性は少しも変わることなく、JBIF はじめ国内の関係者73
は、今後も国内、さらには国際活動においても積極的に貢献していくことが求め74
られるそこで本稿は、JBIF のこれまでの主な活動をまとめると同時に、国内に75
5
おける生物多様性情報が今後進むべき方向、課題について意見を述べることで、76
後の国内における生物多様性情報の蓄積、共有をさらに促進するための一助とした77
い。 78
79
GBIF JBIF のあらまし 80
GBIF 2001 年に OECD のメガサイエンス・フォーラムの勧告に基づい81
て発足した国際科学プロジェクトで(細矢 2016; 松浦 2009, 2012、世界中の生82
物多様性情報をオープンに共有することを目的としている。20212現在で83
GBIF のポータルサイトからは 16 億レコードを超える生物の在データがオープン84
データとして取得可能になっており(https://www.gbif.org/ 最終確認日 2021285
22 )、その数は年々増加している。日本はプロジェクト発足当初の 2001 年か86
ら参加し、GBIF 日本ノードとして GBIF へのデータ提供や、国内における普及活87
動を行ってきた(松浦 2009, 2012)。GBIF は、国家あるいは公的機関単位による88
参加者(Participant)によって成り立っており、日本は、2015 年までは Voting 89
ParticipantGDP に応じた拠出金を支払うことによって、人事に関しての投票権90
を有する参加国)であったが、供出金の提供が困難になったこと等から、201691
らは Associate Participant(会議等への参加およびノードを維持する権利を有する92
が、上記の議決権を持たない立場国家の場合は 5年を期限とし、その後は Observer93
となるか撤退するかを選択することが求められる)として生物多様性情報の蓄積94
共有、生物多様性情報の重要性に関する普及、さらには組織運営等、様々な形で95
GBIF 活動に貢献してきた。GBIF の活動は地域ごとに分かれたものも存在して96
いるが、日本は同じく Associate Participant である台湾GBIF では国としてでは97
なく、“経済地域”として参加しているとともに GBIF アジア地域の活動をリー98
6
ドしてきた。 99
GBIF 日本ノード JBIFhttp://www.gbif.jp/ 最終確認日 2021 222 日)100
は、GBIF における日本国内活動の拠点であり、2012 年に体制を刷新して現在の形101
になった。現在の JBIF GBIF 事業(詳細は後述)の中核機関である国立科学博102
物館、国立遺伝学研究所および東京大学に加え、大学、博物館公的研究機関など103
の関係者から成る「運営委員会」と、さらに参加範囲を広げて研究者、学芸員、104
術者等が集まった「ワーキンググループという二層構造となっており、これらを105
まとめたコミュニティを指しているただし、ワーキンググループは事業を担当す106
る国立科学博物館、国立遺伝学研究所、東京大学に比べて活動の自由度および幅が107
広いことから、JBIF の活動といった場合、ワーキンググループが主体となった108
GBIF の活動方針に従った国内~アジア地域~国際活動までを広く指すことが多109
い。 110
111
JBIF のこれまでの活動 112
JBIF は現在、主に日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical 113
Research and Development: AMEDが運営する事業であるナショナルバイオリソ114
ースプロジェクトNBRP)(https://nbrp.jp/ 最終確認日 2021 222 日)の115
支援によって活動している。NBRP は、ライフサイエンス研究の基礎、基盤となる116
リソースの収集、保存、提供ならびに、これらに関連した技術開発を行うことを目117
的に実施されている事業で、生物多様性情報を扱う GBIF 事業は、「情報センター118
整備プログラム」に位置しているhttps://nbrp.jp/resource/info-center/ 最終確認日119
2021 222 日)。GBIF 事業の中核機関は、2021 2現在で国立科学博物120
館、国立遺伝学研究所および東京大学の 3機関で、これに地方博物館等の関連機関121
7
が協力する形で事業が進められているhttp://www.gbif.jp/v2/about/jbif.html 最終122
確認日 2021 222 日)。NBRP は国内におけるバイオリソースを扱う事業で123
あるため、JBIF GBIF という国際的な取り組みへの参加、貢献と同時に国内に124
おける事業を担うという面を併せ持っている。すなわち、JBIF GBIF に関する125
国際的な活動を担うと同時に、国内に向けた独自の活動を多数行っている。このた126
め、JBIF 2012 年から GBIF 本部の戦略目標(5年に 1度定められる)とは別127
に 、 独自の戦略目標を設定し、日本国内に向けた独自活動を推進している128
https://www.gbif.jp/v2/about/jbif.html 最終確認日 2021 222 日)ただし、129
独自とはいえ生物多様性情報の蓄積、共有をはかるという基本的な目的は常に一致130
しており、特段内容について区別する必要はないものとなっている。 131
GBIF の活動には、(1)研究や政策決定などの目的に使用する生物多様性情報132
基盤の整備、(2)生物多様性情報の集積と提供、(3)情報集積・解析ツールの開発、(4)133
生物多様性情報に関わる活動の支援と能力開発という 4つが含まれている134
http://www.gbif.jp/v2/about/gbif.html 最終確認日 2021 222 日)。JBIF にお135
けるそれぞれの活動について例を挙げると、(1)については国内の博物館等の収蔵標136
本情報検索システムであるサイエンスミュージアムネット(以降 S-Net, 137
http://science-net.kahaku.go.jp/ 最終確認日 2021 222 )の 開発、公開、138
持管理(2)については、同システムに登録するための標本情報を各地の自然史博物139
館等から収集し、公開すること(例えば、https://www.gbif.jp/gbif_search/ 最終確140
認日 2021 222 日)、(3)については標本情報を整備するためのツール開発、141
公開(例:https://www.gbif.jp/gbif_checker/ 最終確認日 2021 222 日)、(4)142
については JBIF web サイトhttps://www.gbif.jp/v2/ 最終確認日 2021 2143
8
22 を利用した情報発信、データベースの整備や利用に関する技術講習会や生物144
多様性情報のトピックを取り上げたワークショップの開催(例:145
https://www.gbif.jp/v2/activities/ 最終確認日 2021 222 日)等を挙げること146
ができる。それぞれの詳細についてweb システム、JBIF web サイトサイト147
内で公開している JBIF パンフレットhttp://www.gbif.jp/v2/pdf/GBIFpanf.pdf 148
終確認日 2021 222 日)等を参照していただければ、非常に精力的かつ継続的149
に活動を行っていることが確認できるだろう。 150
151
JBIF によるこれまでの成果 152
先述のとおり、JBIF では 2012 年より独自の戦略目標を設定し、(1)(4)153
での活動における具体的な活動方針としてきた。戦略目標は 5年おきに見直しを行154
っており、2020 年現在では1に挙げる 5つが設定されている(2017-2022 と期155
間が 6年になっているが、これは 5年を 1期とする GBIF COVID-19 の影響で156
期間を 1年延長したことを受け、日本の戦略目標の終了時期も延期する予定になっ157
ていることによる)。なお、2012-2016 年では2に示す 6項目を挙げたが、この158
時期における主眼は生物多様性情報の重要性に対する認知度を向上させることで159
り、この点においては一定の成果を得ることができたと考えている。例えば JBIF160
の体制が刷新された 2012 年当時は、日本語で生物多様性情報分野を学ぶことがで161
きるリソースが著しく限られていた(大澤ほか 2016が、現在は JBIF web 162
イトをはじめ、GBIF 本部から発行される各種資料の和訳版、日本語で記述された163
資料や学術論文、解説記事等数多く公表され、生物多様性情報学に関する資料164
相当に充実しつつある(http://www.gbif.jp/v2/library/library_nov2017.html 最終165
確認日 2021 222 日)。これら資料の充実を受け、現在では少なくとも生物166
1
2
9
多様性に関わる実務者、研究者の間で生物多様性情報の重要性は疑う余地がないも167
のになっているし(例えば大澤 2017; Osawa 2019)、環境省をはじめとする省庁168
においても各種生物多様性情報の蓄積および共有化が積極的に進められるように169
なった(例えば竹原ほか 2013)。 170
GBIF および JBIF では、利便性向上のためにデータのオープン化推進も行171
ってきた。GBIF が立ち上げられた当初は、各データセットのライセンスは提供者172
が定めることとしていたが、利用条件がはっきりしないことも多く、自由な再利用173
を難しくする一因となっていた。そこで、GBIF 2014 年にライセンスポリシー174
を改訂し、公開するデータのライセンスをクリエイティブ・コモンズの CC0CC 175
BYCC BY-NC 3つに制限し、これ以外のデータを除外することとした176
https://www.gbif.org/news/82363/new-approaches-to-data-licensing-and-177
endorsement 最終確認日 2021 222 )。JBIF でもこれに従い、提供者の承178
諾を得た上で、公開データセットのライセンスをクリエイティブコモンズ CC0179
CC BY CC BY-NC に変更したhttp://science-180
net.kahaku.go.jp/app/page/tool_download.html 最終確認日 2021 222 日)181
その結果、大部分のデータはオープンデータライセンスと捉えられる CC0 または182
CC BY として公開されることになり、自由な再利用を促進することに繋がった183
れに 2013 年の G8 においてオープンデータ憲章が合意され、公的に取得されたデ184
ータ類のオープンデータ化が推進されたこと(大向 2013; 大澤ほか 2014)、日185
における科学技術基本計画にオープンサイエンス推進が明記され、研究データのオ186
ープン化に対する意識が向上したこと(古川 2016; 大澤ほか 2019等が追い風に187
なり、生物多様性情報のオープン化という考え方は急激に広がったと考えている。188
10
これら生物多様性情報の重要性に対する認識が向上する一連の中で、少なくとも189
究者を主とする生物多様性に関わるコミュニティへの普及面において、JBIF の活190
動は極めて有効であったと確信している。 191
GBIF の中期計画にあわせて、JBIF 2017 年からはデータの質および量、192
さらにはその利用性の向上を重点課題とした戦略目標を設定した(表 1)。データ193
の蓄積、共有という面では、2012 から 2020 年の 8年間で、日本から GBIF を通194
して公開している生物多様性データ数は300 万から800 万と倍以上に増加し195
https://analytics-files.gbif.org/country/JP/GBIF_CountryReport_JP.pdf 最終196
確認日 2021 222 )、著しい発展を見せていると言ってよいだろう。さら197
に、環境省生物多様性センターが運営している「いきものログ198
https://ikilog.biodic.go.jp/ 最終確認日 2021 222 )」について、データの記199
述フォーマットが国際的な標準形式である Darwin Core大澤ほか 2011; 大澤・200
戸津 2017に準拠されたこと(竹原ほか 2013を受けこれらデータを GBIF 201
ら国際的に公開する体制も整えた。とはいえ、整ったのは体制のみであり、更なる202
データの拡充が必要であることは言うまでもない。例えば大澤(2017)は、S-Net203
蓄積されているデータを分析し、空間のギャップ、時間のギャップ、分類群のギ204
ャップという大きく 3つのデータギャップが存在していることを示しているデー205
タの更なる拡充は、継続的に取り組んでいくべき重要課題である。 206
データがオープン化され、質も量も拡充されるに伴い、その利用も急増した207
実際、GBIF データを利用した学術論文は 2019 年で700 本と、2012 の約 200208
本に比して数倍にもなっている(https://www.gbif.jp/v2/pdf/GBIFpanf.pdf 最終確209
認日 2021 222 )。その反面、利用例が積み重なることによって明らかに210
11
なった課題や、潜在的な利用者データ提供者からの要望も増加している。生物多211
様性情報は研究者が研究論文を書くためだけのものではなく、例えば有用生物の探212
索や自然保護区の設定等、実務的な利用も想定されるべきものである。これらを勘213
案し、現在の JBIF 戦略目標には、利用性の向上も重点目標として挙げ(表 1)、214
その実現に向けた各種活動に取り組んでいるこの戦略目標も期間の終盤に差し掛215
かっているので、次節からは、戦略目標の実現に向けて JBIF が必要と考えている216
内容について述べる。 217
218
データの拡充、利用性向上に必要な取り組み 219
1.データ横断利用の実現 220
S-Netいきものログはそれぞれ国立科学博物館(文化庁)生物多様性セン221
ター(環境省)が運営しているが、それ以外の省庁でも例えば国土交通省では河222
川水辺の国勢調査(http://www.nilim.go.jp/lab/fbg/ksnkankyo/index.html 最終確223
認日 2021 222 日)、農林水産省ではんぼの生き物調査224
https://www.maff.go.jp/j/nousin/keityo/tanbo/ 最終確認日 2021 222 日)225
をはじめとする生物多様性調査が実施され、一部についてデータが公開されてい226
る。さらには環境省によって 40 年以上にわたり実施されている自然環境保全基礎227
調査(緑の国勢調査)、モニタリングサイト 1000228
http://www.biodic.go.jp/moni1000/moni1000/ 最終確認日 2021 222 日)229
開始から 20 近くが経過し、データの蓄積が進んでいる。すなわち、様々な主体230
が生物多様性情報を収集し、公開するという流れは既に日本に定着しつつあると言231
ってよい状態にある。ただし、未だ解決されていない大きな課題がある。それは、232
これらを横断的に利用できる仕組みが存在していないことである。 233
12
散在するデータを統合化あるいは横断的に利用可能にすることは、生物多様234
性情報学における中心的な課題の一つである(Wieczorek et al. 2012)。このうち統235
合化、すなわち散在するデータを一つの巨大データベースにまとめて格納すること236
、このプラットフォーム整備、維持管理というハード面、既存のデータベースシ237
ステムの扱いが難しいという課題から容易ではないと指摘されている(大澤ほか 238
2012; 大澤・神保 2013)。これに対し、データセット、システムは独立させたま239
まデータのみをインターネット上で集約するという仮想的な統合によって横断利240
を実現するという方法は、データの記述方式(フォーマット)さえ共通化してお241
けば比較的容易に実施できる(大澤ほか 2011, 2012; 大澤・神保 2013)。実際、242
GBIF のデータシステムもこれに近い形式、つまり一つの巨大なデータベースを保243
持しているわけではなく、Integrated Publishing ToolkitIPT という分散型シス244
テムを利用しており実際のデータを世界各地で分散して保持しつつ利用者側か245
らは一つの巨大データベースに見えるようなシステムを実現している(Robertson 246
et al. 2014)。 247
生物多様性情報については、既に国際的に標準化されたデータ記述フォーマ248
ットである Darwin Core(大澤ほか 2011; Wieczorek et al. 2012; 大澤・神保 2013; 249
大澤戸津 2017)が 存在しているため、まずは国内に散在する既存データを Darwin 250
Core に統一することが先決課題であろう。そしてこの支援について JBIF は継続的251
に取り組んでいる。例を挙げると、環境省の自然環境保全基礎調査やモニタリング252
サイト 1000 、各種調査によって収集されたデータについては、生物多様性セン253
ターの協力の下、既に JBIF においてデータ記述フォーマットを標準形式である254
Darwin Core 変換する作業が進められ、一部は JBIF および GBIF からの公開を255
13
開始している(例:https://www.gbif.org/dataset/6b76dc19-eb87-4ca2-b738-256
3727286f1818 最終確認日 2021 222 日)。このほか、海洋の生物多様性情報257
の集約を行っている海洋生物多様性情報システム Ocean Biodiversity Information 258
System: OBIS (https://obis.org/ 最終確認日 2021 222 )は、Darwin Core259
および GBIF IPT を利用してデータを収集しており、JBIF はその日本拠点である260
日本海洋生物多様性情報連携センターJapan Ocean Biodiversity Information 261
System Center: J-OBIShttp://www.godac.jamstec.go.jp/j-obis/ 最終確認日 2021262
222 日)と連携したデータの共有と公開を進めている。 263
データ形式が標準化された後には、フォーマットが整理されたデータを配信264
する Application Programming InterfaceAPI を設置し、インターネットを介し265
て外部からアクセスできるようにすることが求められる。これにより、仮想的な統266
合が実現できる(大澤ほか 2011, 2012; 大澤・神保 2013)。この仕組みは複雑に267
感じられるが、専用の閲覧 web サイト等を開発することに比べると圧倒的に少な268
い工数で実現できる(大澤ほか 2011, 2012; 大澤・神保 2013)。API の仕様につ269
いては、既に GBIF から格納データを利用するための各種 API が公開されている270
ためhttps://www.gbif.org/ja/developer/summary 最終確認日 2021 222 )、271
これらと同等、あるいは互換した仕様にすることで国内に限らず国際的な横断利272
用も実現できると考えられる。さらに、これが実現した次のステップとして、独自273
でデータベースおよび API の整備が難しい小規模自治体や任意団体向けに、この仕274
組みを実現できるシステムにデータをホストできるような体制も必要になるだろ275
う。このような仕組みは安定的な運営が必要とされるため、単年あるいは数年度の276
予算で運営される研究機関や事業費で賄うのではなく、予算規模が大きな公的機関277
14
が公共サービスとして継続的に提供することが望ましい。これにより、小規模自治278
体等も自身が整備したデータを広く公開すること、逆に外部のデータを取り入れて279
利用することも期待でき、データ共有が進展することになるだろう。 280
281
2. 種名リストの整備 282
生物多様性情報の利用性を高めるためには、国内に生息する生物について、283
和名、学名を整理した標準種名リストの整備ならびに異名等の対応を把握するため284
の辞書整備等、分類学的な基盤情報が急務である(神保 2016; 大澤 2017)。複数285
の由来が異なる生物多様性情報を集約するためには、生物多様性の最も基本的な単286
位である種名についての統一的なリストがとりわけ必要になる(神保 2016。し287
かし、最も基本的な単位である種名リストについて国内では誰もが拠り所にでき288
る、標準的かつ包括的なものが存在しない。例えば国交省による河川水辺の国勢調289
査は、専門家の協力の下で毎年生物リストを更新・公開しているが290
http://www.nilim.go.jp/lab/fbg/ksnkankyo/mizukokuweb/system/seibutsuListf291
ile.htm 最終確認日 2021 222 )、調査対象種しか含まれないし、国内にお292
ける標準のものになっているわけではない国内の生物多様性に関わる標準リスト293
現在のところ存在していないため、種名について見解の違い等を整理することも294
できず、調査ごとで同種異名のデータが存在するようになるケースも発生してい295
(大澤 2017)。これは、国全体における生物多様性の状態を把握する上で大きな296
障壁になりうるし、地域間での比較等を難しくしている一因でもある文科省、国297
交省、農水省、環境省ほか、生物多様性情報に関連するどの主体が実施した調査で298
あっても利用できるような国における安定的な統一的種名リストの作成と維持管299
理が強く求められる国における公的な標準種名リストが定められれば、省庁等の300
15
取り組み主体に関係なく様々な事業等で利用可能になるし、業務等を受注する民間301
企業でも利用されるようになるだろう。さらにその利用は都道府県や地方自治体302
や任意団体等の活動にも広がると期待できる。 303
標準的な種名リストを作成し維持するには、継続的に様々なコストがかか304
る。分類学的な研究が進むにつれ、分類体系の変更、新たな種の発見や学名の変更305
は頻繁に生じるし、分類学的研究の成果は時として対立しうる。標準的な種名リス306
トの作成には、新知見を盲目的に従うことが不適切な場合も含め、分類学や分類群307
の専門的知識に基づき、より妥当な体系や種名等を判断する必要がある。したがっ308
て、標準的な種名リストの構築には、各分類群の専門家、ひいては分類学者コミュ309
ニティの理解と協働が不可欠である。生物の分類に関わる学会の連合組織である日310
本分類学会連合(http://www.ujssb.org/ 最終確認日 2021 222 日)は、2002311
年に全生物界を対象に各分類群の日本産種数を推定した「日本産生物種数調査」312
実施、公開しており(http://www.ujssb.org/biospnum/ 最終確認日 2021 222313
日)、日本分類学会連合と連携した種名目録の取りまとめは、特に実現可能性が高314
アプローチの一つであると考えられる(神保 2010; 松浦 2011国における標315
準種名リストを定め、その更新を含めたメンテナンスを実現するためには、日本国316
内の生物の分類に関わる学会の連合組織である日本分類学会連合を軸に、現在その317
必要性に対する提言がなされている国立自然史博物館(日本学術会議 基礎生物学318
委員会ほか 2016)のような規模が大きい(そう想定される)公的機関が、公共サ319
ービスとして取り組むことが必要だろう。 320
一方で、標準化されているわけではないが、各分類群の専門家を中心に、学321
会や個人といったさまざまな形で分類群ごとの種名リストが公開、維持されてい322
16
る。学会の例としては、日本植物分類学会有志による「Green List」(2016-2017323
版;http://www.rdplants.org/gl/ 最終確認日 2021 222 個人的な例と324
しては著者の一人である神保によるList-MJ 日本産蛾類総目録」2004 年公開、325
2021 217 日最終更新、http://listmj.mothprog.com/ 最終確認日 2021 2326
22 日)等を挙げることができる(どちらも CC0 によるオープンデータ)。海洋生327
物に関しては、国立研究開発法人海洋研究開発機構の国際海洋環境情報センターが328
運用している Biological Information System for Marine Life: BISMaL329
https://www.godac.jamstec.go.jp/bismal/j/ 最終確認日 2021 222 )から330
分類群名と分類体系が公開され継続的に維持管理されている。それぞれのリスト331
は研究者はじめ各所で既に活用されているため、これら既存の種名リストを今後も332
有効に活用していく方策も求められる。JBIF においても、日本昆虫学会の日本昆333
虫目録編集委員会と協同し、日本産蝶類の種名データベース「日本産蝶類和名学名334
便覧」(http://binran.lepimages.jp/ 最終確認日 2021 222 )の公開を支援335
するなど(神保 2010; 神保ほか 2013)、統合的な種名目録の構築を目指して学会336
等との連携もはかってきた。この事例のように、専門家コミュニティとの連携をコ337
ーディネートすることは、JBIF のような多様な専門性とコネクションを持つメン338
バーが集まったコミュニティが果たせる役割かもしれない。 339
340
3.公的機関以外によるデータ共有の推進 341
これまで生物多様性情報のリソースとして、主に自然史標本および公的機関342
による基礎調査を主として述べてきたが、これ以外にも眠っている多数のリソース343
がある。例えば近年注目されているのは、非専門家による調査データである(宮崎 344
2016; Silvertown 2009; Kobori et al. 2016; 大澤 2018)。クリスマス・バード・345
17
カウントhttps://netapp.audubon.org/cbcobservation/ 最終確認日 2021 222 346
)は、世界的に有名な非専門家による鳥類の調査データで、100 年を超える歴史347
があり、北米を中心に様々な国、地域における鳥類の観察データがオープンデータ348
として利用できるものである。このデータは既に様々な研究において利用されてお349
り、Google Scholarhttps://scholar.google.co.jp/schhp?hl=ja 最終確認日 2021 350
222 日)で“Christmas Bird Count”を検索すると、6千件を超える文献がヒ351
ットする。国内ではこの規模の市民による生物調査はまだ見られないが、自治体等352
を単位にした比較的小規模な取り組みは各地で多数行われている(Kobori et al. 353
2016; 大澤ほか 2013; Osawa et al. 2017; 大澤 2018)。これら市民参加調査によ354
る生物調査データは、近年徐々に公開データベースにおいて共有されるようにな355
ってはいるが(例えば Osawa et al. 2013, 2017; Ishida et al. 2020)、未だ多数の356
未公開データが存在している。さらに、生物調査は行われたものの、公開されるこ357
ともなく活動の縮小とともに眠ってしまうものも少なくないOsawa 2019358
えて、非専門家によって収集されたデータには同定精度や調査手法の確実性等、359
々なエラーやノイズが含まれることが多いという課題もあるため(Crall et al. 360
2011; Kremen et al. 2011、データの質を向上させるために専門家の協力が不可361
欠となる科学データの収集は市民参加型調査の一部に過ぎないという指摘はある362
ものの(佐々木ほか 2015)、社会インフラとして生物多様性情報を蓄積すること363
を目的とした場合、データの質を担保するために専門家が関わることは欠かすこ364
とができない重要な要素である(Silvertown 2009; 大澤ほか 2013)。非専門家に365
よる生物多様性データの質を担保し、公開を支援するような仕組みを確立しさら366
にはデータ共有を促進するために、例えば地方博物館等が積極的に取り組んでいる367
18
パラタクソノミスト講座のように同定技術を学ぶ場を設けることや、調査手法を368
学ぶ場、さらには調査したデータ類を公開することの意義を普及していくことも必369
要になるだろう。 370
必ずしも共有されていないものの、膨大な生物多様性情報を蓄積している371
として、地域や分類群ごとに存在する同好会等のコミュニティを挙げることがで372
きる。例えば昆虫愛好家が集う同好会は全国に存在しており(例えば埼玉昆虫談話373
http://saitama-konchu.jp/, 神奈川昆虫談話会 374
http://tkm.na.coocan.jp/kanakon.html いずれも最終確認日 2021 222 日)375
定期的に会誌を発行し、地域における種の分布記録や発見等を発表している団体も376
少なくない(昆虫文献 六本脚 http://kawamo.co.jp/roppon-ashi/a012.html 最終確377
認日 2021 222 日)愛好家には高度な専門知識を持ち、専門家と共同(大澤 378
2018あるいは自身で新種を記載するようなハイアマチュアも少なからず存在379
ており、各地のレッドリスト作成や地域の生物相を解明する担い手となっているケ380
ースも多々あるこれら同好会の活動には、地域の博物館の支援を受けているケー381
スもある。例えば神奈川県植物誌調査会http://flora-kanagawa2.sakura.ne.jp/ 382
確認日 2021 222 日)は、神奈川県立生命の星・地球博物館をはじめとす383
る地域の博物館、関連施設支援を受け、神奈川県内の植物に関する網羅的な調査384
に取り組んでいる市民グループである愛好家と博物館の連携活動は、ハイアマチ385
ュアと専門家の共同による新種の記載や生物相の解明といった研究としての意義386
に加え、初心者が種の同定技術や調査手法を学ぶ普及啓発の場となっているケース387
もある。これら同好会等の活動はあくまで個人の楽しみがベースであるため、公的388
機関等の調査とは異なり得られたデータ等を共有する義務は存在しないが、アマ389
19
チュアの方々が生物多様性情報を共有するインセンティブ設計等が進み、その膨大390
な蓄積が共有されることとなれば特に愛好家が多い分類群の情報は、質量ともに391
大幅に改善するかもしれない。 392
もう一つ重要な生物多様性情報のリソースとして開発事業等に先立つ環境393
アセスメント調査を挙げたい。環境アセスメントは、環境影響評価法に基づき道路、394
ダム建設等の 13 事業および必要が認められた事業について事業実施前後に環境影395
響評価を義務付けるもので、評価対象項目に植物、動物、生態系が含まれている396
http://assess.env.go.jp/1_seido/1-2_aramashi/index.html 最終確認日 2021 2397
22 )。実際にアセスメント対象となった事業は調査が義務付けられるため、398
これに付随して少なからず生物多様性調査が実施されている。これらの報告書は399
告されるため、原則として自由に閲覧可能になるが、最も利用性が高いインターネ400
ット上の公告は事業者あるいは関連する地方公共団体等の web サイト上で行われ、401
一元化されているわけではないため、大部分はほとんど外部の目に触れることがな402
のが現実である。この制度の是非は置いておいて、これら調査結果には希少種、403
絶滅危惧種を含む様々な生物の分布情報等が含まれており、これらを将来的に活用404
できる可能性がある基盤情報として再整備し、公開することは、データ拡充に大き405
く貢献することに疑いの余地はない。環境省は環境アセスメントデータベース406
EADAShttps://www2.env.go.jp/eiadb/ebidbs/ 最終確認日 2021 222 )を407
公開しているが、ここから取得できる生物多様性情報は限られており、さらに横断408
的な利用等は想定されていない。これらに格納されたデータ類を先述のいきものロ409
グ等に統合することは、比較的容易で、実現可能性も高い対応と考えられる。そし410
て、これらデータを再整理する手間、さらにはオープンデータ化する手間を減らす411
20
手段として、事業発注における仕様書に、生物多様性に関するデータについては412
フォーマットを先述の Darwin Core に従うこと、データのライセンスはオープ413
ンデータライセンスである政府標準利用規約(第 2.0 版 )414
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/densi/kettei/gl2_betten_1_kaisetu.pdf 415
終確認日 2021 222 日)に従うことを書き込むことを強く推奨したい。 416
ここで挙げた以外にも、例えば有害鳥獣の捕獲データ(例えば江成ほか 417
2015)、野生動物の交通事故データ(例えば神宮ほか 2019)等、潜在的に生物多418
様性情報のリソースとして有用と考えられるものは多数存在している。これら眠っ419
ているリソースの共有を推進していくことは、極めて重要な課題である。 420
421
4. 新しい観測技術への対応 422
生物多様性情報の情報源において最も基本的かつ再検証可能で質が高いも423
のとして標本が挙げられるが(渡辺 2017, Osawa 2019; Osawa et al. 2020)、近424
では、デジタルカメラの普及に伴い、生態写真等の画像に基づくデータが激増し425
生物多様性情報としての利活用も増加してきた(宮崎 2016; 大澤 2017; Osawa 426
2019)。標本を伴わない画像のみのデータは、形態や DNA 等の精査が必要な場合、427
種の同定やその再検証が困難という弱点はあるものの、収集が容易であること、428
本に比べて多数のリソースが集められること、保管に必要な物理的スペースが小さ429
くて済むこと等、数々の利点があるのも事実であり、標本とならび重要なリソース430
であることは間違いない(大澤 2017; Osawa 2019)。画像は GBIF から取得でき431
る文字情報(ラベル情報)と同様に電子データであるため、理論的には文字情報と432
同様にインターネット上で共有することが可能である実際、国内で写真を集積し433
たデータベースの例として、神奈川県立生命の星・地球博物館と国立科学博物館が434
21
構築している「魚類写真データベース」435
http://fishpix.kahaku.go.jp/fishimage/index.html 最終確認日 2021 222 日)436
を挙げることができる。文字情報に画像情報を付随させることができれば文字情437
報のみの場合に比べある程度の再検証性を担保することに繋がり、生物多様性情438
報の質を向上させる。さらには、種名が付随した大量の画像情報は新たな技術発439
展、具体的には人工知能を用いた画像判別に貢献することが期待できる。多量の440
画像を集め、特徴点を深層学習(渡部ほか 2020)によって抽出することで生物441
を同定する技術はここ数年で飛躍的に進み、既にモバイルデバイス等のアプリと442
して利用可能なものも複数公開されている(例えば iNaturalist 443
https://www.inaturalist.org/; BIOME https://biome.co.jp/app-biome/#home いず444
れも最終確認日 2021 222 )。もちろんこれら機械学習による自動同定の445
精度を高めるための参照データを整備する上でしい種名を確認するという専門446
家の協力が欠かせないことは言うまでもない。散在している画像を効率的に収集、447
蓄積し、共有していく仕組みと、それらを高精度で同定するために、専門家からボ448
ランティアまでが協働できる体制が整備されることで、分類学的研究が比較的進ん449
おり、かつ形態的な種間差が明瞭な分類群においては、機械学習等、人工知能に450
よる生物の自動同定は一つの主流に成長するかもしれない。 451
とはいえ、「魚類写真データベース」の例のように画像を一元化したシス452
テムが生物学の研究において役立つレベルまで整理されている事例は決して多く453
ない画像を共有するシステムの整備が進まない理由はいくつか考えられるが、454
とつ大きな課題として著作権の問題を挙げたい著作権は著作物が創作された時455
点で自動的に付与される権利だが、画像を含むデジタル情報は劣化せずに無限に複456
22
製を行うことが可能であるため、撮影者が権利を主張する場合、利用範囲の設定等457
非常に複雑になるという問題がある(野口 2010)。例えば「魚類写真データベ458
ース」では格納されている個々の写真の著作権は撮影者に属することを明記してい459
る(http://fishpix.kahaku.go.jp/fishimage/ 最終確認日 2021 222 日)が、460
れを先述した機械学習の学習データとして写真を利用したいと考えた場合、究極的461
にはすべての撮影者から利用許可を取る必要があることを意味する。この問題は画462
像をすべてオープンデータにすることで解決できるが、複数の方が撮影した画像を463
集積する場合、撮影者全員からオープンデータにするという許可を取る必要が出て464
くるし、そもそも撮影者が不明な写真については対応のしようがない。これは簡単465
に解決できる問題ではないが、GBIF が生物多様性情報の利用促進を期待してデー466
タライセンスCC0CC BYCC BY-NC に制限し、オープンデータを推奨する467
ように転換したようにhttps://www.gbif.org/terms 最終確認日 2021 222 日)468
画像についても既存データのライセンスをできるだけ利用を妨げないものに転換469
すること、さらにはオープンデータを前提とした画像データベースの構築が進むこ470
とを期待したい。 471
近年では標本情報を 3D モデル化することで 3次元的な形態情報を電子化す472
ることも可能となっているKano et al. 2018; 大澤 2020)。標本の形態情報を473
子化することで劣化せず複製することが可能となり、分類学や生物模倣のような工474
業化において求められる詳細な形態観察、観測も可能になるため、そう遠くない未475
来に標本の 3D モデルは生物多様性情報の一つの主流になる可能性がある(大澤 476
2020ただし、これは写真画像以上にファイルサイズが大きく、取り扱いに専用477
のソフトウェアが必要な場合もあるため、まずはファイルおよびソフトを勘案した478
23
標準形式を議論していく必要があると考えられるまた、種によっては雌雄差や種479
内変異(個体変異、地域変異、季節型など)もあるため、種数の数倍ものデータ480
必要になる点を勘案しておく必要がある。 481
昨今の技術革新により、生物多様性調査における DNA の活用が進んでいる。482
その先駆けとなったのは、種の表徴となるような変異を含む短い DNA 塩基配列483
DNA バーコードと呼ばれる)の類似性をもとに同定を支援する DNA バーコー484
ディングであろうHebert et al. 2003)。この手法では、DNA バーコードを通じ485
て、証拠標本を同定した専門家の知識を利用している点が重要である。また、同定486
の基礎として、適切に同定されたバウチャー(証拠標本に基づく網羅的な DNA487
バーコードライブラリの構築も国際的に進められてきた。海外では、この手法を、488
侵略的外来種の検出、トラップで収集した昆虫類の網羅的同定など、様々な形で実489
用化しつつある(例えば Dejean et al. 2012 Global Malaise Program 490
http://biodiversitygenomics.net/projects/gmp/ 最終確認日 2021 222 日)。491
JBIF では、2005 年ごろからこの DNA バーコーディング技術に着目し、情報発信492
や連携のための組織として日本バーコードライフ・イニシアチブ493
https://www.jboli.org/ 最終確認日 2021 222 )を立ち上げるなど、国内494
における普及やインフラの整備を進めてきた(神保ほか 2008)。しかし、国全体495
としての取り組みには至っていないのが現状である。DNA に基づく同定は、今後496
より重要性が増すと考えられ、それを可能にするバウチャー標本と DNA ライブラ497
リの構築は早急に進めるべき課題である。 498
DNA を利用した生物多様性調査技術において近年最も注目されているのは、499
環境 DNA による観測であろう。これは環境中に残った生物由来の DNA を分析し、500
24
整備済みの DNA 配列データベースと照合することで、その場所に存在していた生501
物が明らかにできるという技術で(内井ほか 2016; 山中ほか 2016既に実用化502
段階にある。この調査では標本や画像のように、人間が目で見て確認できるバウチ503
ャーが得られないという特徴がある。そして種の在に関する判定はゲノム情報で行504
われるが、ここには利用者の解釈が入ってしまうという問題がある、このため、505
取された土壌や水自体を生物標本と同様に保管する必要があるし、得られたゲノム506
情報も解釈が入らない形のものを保管する必要がある(源ほか 2016)。これら507
仕組みについてもそれぞれ標準形式が必要になるだろう(源ほか 2016)。そもそ508
も、環境 DNA による種の存在を推定するためには、その対象となる多数の動植物509
試料からの地道に DNA の配列情報を抽出し、同定に利用可能なデータベースとし510
て整備していく必要がある(高原ほか 2016)。また、不特定多数の種を対象とす511
る場合、分類学的には未解明だが DNA でのみ認識される、いわゆる「ダークタク512
サ」の扱いも課題となる(伊藤 2016)。この部分においては、前述した DNA バー513
コーディングとロジックは同じである実際、DNA バーコーディングは環境 DNA514
分析とも密接な関係にあり、DNA バーコードに基づく用い環境 DNA 分析515
DNA メタバーコーディングと呼ばれ(Aberlet et al. 2012、主要な解析手法の一516
つとなっている。環境 DNA 調査については、淡水魚類について環境省生物多様性517
センターによって調査手法および電子データ化の標準化に向けた議論が進められ518
ているhttp://www.biodic.go.jp/edna/edna_top.html 最終確認日 2021 222519
日)、これらを日本国内に閉じた形式に留めず、国際的な標準につながる形式にす520
ることが必要である(源ほか 2016実際、GBIF でもこの問題に対する取り組み521
が進んでおり、ガイドラインの策定が進められている(https://docs.gbif-522
25
uat.org/publishing-dna-derived-data/1.0/en/ 最終確認日 2020 222 日)。 523
近年、数十年以上昔に採集された標本からの遺伝情報を抽出する手法が確立524
された(Nakahama et al. 2017)。これは、博物館等によって長期に保存されてき525
た標本に対し、テクノロジーが新たな価値を与えられることの好例となり、標本526
長期保存する重要性が再認識される機会となったと考えられる古い時代の標本か527
ら遺伝情報を取り出すことは、系統解析や分類学等の研究を推進すると同時に、528
伝的多様性や集団間の遺伝距離を検討すること等、生物多様性の保全や再導入を含529
めた環境復元等にも貢献する技術である。これら技術の発展に加え、遺伝情報をで530
きるだけ残せるような標本保管技術の開発や保管体制の確立(例えば Nakahama 531
et al. 2019)、さらには収蔵のこのような標本を適切かつ長期的に保存するための532
収蔵施設や体制を拡充することが求められる長期的かつ安定的に標本が保存され533
ることで、新たに確立された技術もすぐに適用可能になることが期待できる。国内534
の博物館では国立科学博物館が 2012 年、東京都立大学牧野標本館2018 年に535
たな収蔵庫を開館したほか、兵庫県立人と自然の博物館、栃木県立博物館が 2020536
現在収蔵庫の拡張を行っているが、残念なことにこういった標本収蔵庫の拡充537
国内では非常に珍しいケースで、多くの博物館は収蔵スぺ―スの不足、老朽化に頭538
を悩ませている(渡辺 2017)。また、収蔵庫は標本資料の収集が進めば埋まって539
いく以上、収蔵庫を拡充できたとしても先々には更なるスペースが必要となって540
くる。前述したように、標本は最も基本的かつ質が高い生物多様性情報のリソース541
である(渡辺 2017; Osawa 2019)が、その収集および収蔵体制は現在著しく衰退542
している(大澤 2017)。標本の収集と保管を安定的に行っていく上で基本となる543
収蔵庫、博物館の資料収集や整理体制の人的資源も含めた拡充は喫緊の重要課題で544
26
ある。そのためには、生物多様性情報の利用者が自然史博物館を適切に評価(理解)545
し、直接的・間接的に支援できる仕組みを作る必要があろう。 546
547
5.データ蓄積、利用における相談窓口の拡充 548
生物多様性情報が拡充された結果、その利用が拡大していることは事実であ549
るが、主要な利用者は研究者であるという現状がある。しかし、生物多様性情報の550
利用が、研究者の研究材料だけに留まるようなことはあってはならない生物多様551
性情報は、生物多様性の保全や持続的利用に向けた政策や行政施策、さらには民間552
企業等のビジネスにおける素材等、人間社会全体において広く利用されるべき人類553
の共有資源であるGBIF Secretariat 2012生物多様性情報について、その集積554
はもちろん、利用においてもさらなる潜在的なステークホルダーに参加を促して555
いく必要がある。この実現に向けた最大の壁は、生物多様性情報を利用したい、あ556
るいは提供したいと考えた際に気軽に相談できる窓口が少ないことであろう。JBIF557
では生物多様性情報を GBIF に公開したいと考える方に向けた相談窓口を web 558
用意しており(https://www.gbif.jp/v2/regist/index.html 最終確認日 2021 2559
22 )、定期的に問い合わせを受けるが、相談者は研究者に限られている。非研究560
者の方にとって JBIF に問い合わせることはハードルが高いことは容易に想像でき561
るし、仮に非研究者の方から多数の相談が寄せられた場合、残念ながら JBIF には562
それを処理するだけのキャパシティがないのも事実である非研究者や民間企業の563
方が生物多様性情報の利用や公開について気軽に相談できる窓口が整備されない564
ことには、その利用が研究者以外に広がることは難しいだろう。ただし、この役割565
を担う機関なりを新規で設立することは現実的でない。JBIF では、この役割を全566
国各地に存在する自然史博物館および相当施設が担ってくれることを期待しそれ567
27
を少しでも支援するために、データの整理技術や解析手法、生物多様性情報学の最568
新動向等を紹介するセミナー等を定期的に開催している実際、JBIF の支援に関569
わらず、既に少なくない数の博物館学芸員はこの役割を担っている。ただし、この570
相談窓口を担うためには生物多様性情報に関する専門知識が必要であり、いわゆる571
充て職が対応できるものではない。また、個々の学芸員は資料収集、調査研究、572
及教育の三本柱に沿って博物館がすべき活動に従事しており、慢性的な業務過多と573
なっている現状がある。実際、普及教育以外の活動に対する理解の少なさから活動574
に苦労している学芸員も多く、専門性が求められる窓口機能に割くことができるエ575
フォートは限られている点にも留意しておく必要がある。生物多様性情報の利用、576
蓄積を研究者、行政以外に広げていくためには、各地の自然史博物館において、専577
門性を持った人材が安定した立場で勤務できる体制を拡充することが最も効果的578
かつ効率的な対応策である。一方、日本における地方博物館の人材確保の現状は、579
自然史分野に限らず、非常に厳しい状況にある。この背景には、人口減少や産業構580
造の変化に伴い、基礎自治体の体力が徐々に低下していることが挙げられている581
(日本博物館協会 2020したがって、今後の専門人材の育成に関しては、日本の582
博物館学芸員の在り方とも密接に関わる課題とも考えられる。JBIF では、先述583
のとおり、この担い手を増やすための技術講習会等を開催することで、キャパシテ584
ィビルディングにも貢献することを目指しているが、専門性を持った人材が安定的585
に勤務できる体制がないことには、一定以上にキャパシティが広がることは望めな586
い。 587
588
日本における生物多様性情報学の今後に向けた提案 589
28
ここまで JBIF の戦略目標に従い、その実現に向けて必要と考える事項を述590
べてきたが、これはそのまま我が国における生物多様性情報の推進に向けた事項と591
考えてよいものである。そこで、JBIF におけるこれまでの活動および今後の方向592
性をふまえ、国内における生物多様性情報の今後に向けた提言として、国を挙げて593
取り組むべき項目を 4つ挙げたい。なお、これらの要約も表 3に示した。 594
595
1. 国レベルでの共通ルールづくり 596
前節で述べた 1. データ横断利用の実現、2. 種名リストの整備、3.公的機関597
以外によるデータの取り込みを推進するためには、省庁や地方単位ではない、国全598
体としての共有ルールが必須である。例えば生物多様性データの記述フォーマット599
について、標準形式を Darwin Core にすることを国で定め、それに従うことを義務600
化することができれば各省庁や都道府県で採用するフォーマットを検討する必要601
はなくなるし、データの統合や横断利用も容易になるAPI については、配信する602
データフォーマットが標準化されていれば API 自体が同じ規格である必要はな603
いかもしれないが、標準化されていれば開発の際に要する手間は低減できるし、604
用性も向上すると考えられる種名リストについても同様に、国としての標準リス605
トを作成し、それに従うことを義務化することで、省庁等のデータを整備する主体606
がこの検討を行う必要がなくなり、データの統合や横断利用を促進することになる607
だろう。環境アセスメント等、公的機関自身、あるいはその指導による調査結果608
ついて、データを標準形式に従った形で整備し、公開することを義務付けることが609
できれば、生物多様性情報の蓄積は飛躍的に進むことが期待できる。さらにこの有610
用性等をアマチュア愛好家らに普及していくことで、公的機関以外によるデータの611
共有も進むかもしれない。 612
3
29
613
2. 統合ポータルサイトの構築 614
生物多様性データを横断利用する仕組み、体制が整った後には、それの利用615
を推進する仕組みが必要である。これについても、国全体としての基盤が必要であ616
る。この基盤は、上述の共通ルールに従ったものであり、誰でも自由に利用できる617
オープンなものである必要がある。具体的には、標準化されたデータフォーマット618
に従ったデータを蓄積し、外部に向けて公開する仕組みを国の事業として整備し、619
公開することが必要であろう。先述のサイエンスミュージアムネット620
http://science-net.kahaku.go.jp/ 最終確認日 2021 222 )は それに近い機621
能を持っているが、これに登録できるデータは原則として博物館等に収蔵されてい622
る標本に基づくものに限られているため、様々な主体が参加可能な、より包括的な623
仕組みが求められる。データの公開については、特定のファイル形式でダウンロー624
ドできることはもちろん、インターネットを介した利用を促進するための API を設625
置することも必須である。オランダ、台湾では、既にこういった仕組みが実現され626
ており、API を介して様々な生物多様性情報の取得、利用が可能になっている627
https://docs.biodiversitydata.nl/en/latest/; https://github.com/taibif いずれも628
最終確認日 2021 222 )。この実現に向けた具体的な対応としては、環境省629
生物多様性センターで運営されているいきものログhttps://ikilog.biodic.go.jp/ 630
終確認日 2021 222 を拡張し、自身に格納されているデータについて API631
を介して配信する機能および、外部からも API を介してデータを取り込める仕組632
さらには外部で収集されたデータをホストできるような仕組みを追加すること633
が、最も容易で実現可能性が高いと考えられる。 634
この仕組みを実現する上で参考になる事例は、オープンデータのカタログサ635
30
イトである。カタログサイトとは、2013 年に G8 で合意されたオープンデータ憲章636
に基づき各国において整備されたデータポータルサイトで、日本では DATA.GO.JP637
https://www.data.go.jp/ 最終確認日 2021 222 日)という web システムが638
総務省によって運営され、政府情報を中心に多数のオープンデータを公開してい639
る。この中には、生物多様性センターが実施した生物調査の結果や、環境省のレッ640
ドリストなども含まれる。このシステムは自身でデータを保持することはもちろ641
ん、外部のデータもハイパーリンクや API を通して取り込み、利用者は642
DATA.GO.JP からデータを取得するかのように利用できるもので、データの利用643
促進、統合化等を実現する上で非常に優れたものである農研機構 農業環境変動644
研究センター(2021 4月より農研機構 農業環境研究部門)において開発され645
たカタログサイト NIAES VIC646
https://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/sinfo/result/result32/result32_68.h647
tml; https://niaesvic.dc.affrc.go.jp 最終確認日 2021 222 ただし確認時点648
ではメンテナンス中のためアクセス不可)にはデータを配信する API も搭載されて649
おり、ひとつの参考になる事例と考えられる。 650
651
3. 政策支援体制の確立 652
2008 年に生物多様性基本法が成立、施行されたように、既に生物多様性は653
の政策における重要課題の一つとなっている。同法には基本原則として「生物多様654
性の保全と持続可能な利用をバランスよく推進」することが挙げられこの実現に655
向けた施策の実施は国、地方公共団体の責務となっている近年、証拠に基づく政656
策(Evidence Based Policy: EBP、すなわち政策決定は厳格に立証された客観的657
証拠に基づくべきという考え方が広がりつつあり、日本政府の行政改革において658
31
も、証拠に基づく政策立案(Evidence Based Policy Making: EBPM推進委員会659
が設立され、議論が進んでいるhttps://www.gyoukaku.go.jp/ebpm/index.html 660
終確認日 2021 222 日)この考え方に従うと、生物多様性に関する客観的な661
データである生物多様性情報は関連政策の EBPM最も貢献できる素材である。662
しかしながら、現状では政策の意思決定支援に生物多様性情報が利用された例は極663
めて限られている。この理由の一つとして、現状はまだデータの質と量が不足して664
いることが挙げられる実際、久保田ほか(2017は、愛知ターゲットの戦略目標665
にも挙げられている保護区の設定について、データの不足から科学的根拠に基づい666
た検討が不十分になっていることを指摘している。EBPMの実現に向けても、生物667
多様性情報の更なる拡充が必要である。ただし、生物多様性に関する EBPMが進668
まないもう一つ重要な理由がある。それは、EBPM 推進が行政改革メニューに挙げ669
られていることを証左として、日本において EBPM 自体がまだ根付いた考え方で670
ないことである。現状、生物多様性情報の蓄積には行政が大きく貢献していること671
に対し、それ自体が目的化しつつあることは極めて残念な状況である。生物多様性672
施策の立案において、生物多様性情報が一つの鍵になることに疑いの余地はない。673
蓄積されたデータを政策の意思決定支援に積極的に活用していくこと、これを支援674
していく仕組みを確立することが必要である。 675
676
4. すべての人が生物多様性情報にアクセスし、自由に利用できる仕組み 677
これまで述べてきた 1.共通ルールの整備、2.統合ポータルサイトの整備、3.678
政策支援の仕組みを確立した上で求められるのは、国民すべてが普段の生活の中で679
生物多様性情報にアクセスし、自由に利用できるようにすることである。これまで680
述べてきた生物多様性情報の利用は研究、政策が主であったが、教育やビジネス、681
32
エンターテイメントとしての利用も考えられる。このようにすべての人が生活の中682
で当たり前に生物多様性情報を利用することは、愛知ターゲットの戦略目標 A「生683
物多様性の主流化」の実現に他ならない。そしてこの実現には、利用をサポートす684
る相談窓口が各地に整備されることが必須となる。 685
生物多様性情報の利用において特に期待したいのは、営利を目的としたビ686
ネスにおいて活用されることである。現在でも一般社会において生物多様性は「守687
るもの」「そのために対価が必要なもの」という認識が強く、開発等の営利活動と688
は対立するものであるという考え方が主流である。生物多様性情報の蓄積、その利689
用によって営利活動が成り立つビジネスモデルができれば、生物多様性に関する認690
識が大きく変わることになるだろう。まだ事例は少ないが、京都大学発のベンチャ691
ー企業である BIOMEhttps://biome.co.jp/ 最終確認日 2021 222 日)はこの692
課題に挑戦しており、今後の発展が期待される。 693
694
おわりに 695
本稿では、JBIF 活動に参加してきた有志によって、JBIF のこれまでの活696
動および今後の活動方針の紹介を軸に、日本の生物多様性情報が進むべき方向を論697
じた。2020 年に公表された生物多様性概況5において、愛知ターゲットの達698
成率はわずか 1と結論づけられたhttps://www.cbd.int/gbo5 最終確認日 2021 699
222 日)。これ自体は残念な結論と言わざるを得ないが、その評価を行う上700
で重要な役割を果たしたのは、間違いなく生物多様性情報であり、生物多様性情報701
に関する項目こそは、数少ない実施がなされた項目であったそもそも根拠となる702
生物多様性情報なくしては、目標の評価を行うことはできない。生物多様性情報703
整備、利用推進は、今後の日本のみならず、世界における生物多様性という課題に704
1
33
おいて、議論をリードしていくべき課題と言っても過言ではない。そしてこれらの705
拡充と共有、適切な利用があってこそ、愛知ターゲットを含む生物多様性国家戦略、706
さらには生物多様性条約の目標達成が望める(図 1繰り返しになるが、GBIF 707
おける日本の立場に関わらず、JBIF は今後も生物多様性情報の蓄積、共有化、さ708
らには利用の推進を目指した活動に取り組んでいく。 709
710
謝辞 711
本稿は、GBIF 日本ノード JBIF のこれまでの活動および、メンバー、関係712
者らとの議論をもとに構成した。歴代ノードマネージャーおよび関係者諸氏に謝意713
を表する。さらに本稿の一部は、2021 213 日に開催されたパネル討論会「こ714
れからの日本の生物多様性情報インフラを考える」(オンライン)における議論内715
容を含んでいるパネリスト、パネル討論会への参加者およびコメントを寄せてく716
ださった多数の方々にも謝意を表する。編集担当者、査読者からは有意義なコメン717
トをいただいた。本稿は NBRP の支援を受けた成果である。 718
719
引用文献 720
Aberlet P, Coissac E, Pompanon F, BRochmann C, Willerslev E (2012) Towards 721
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42
https://doi.org/10.18960/seitai.66.3_601 941
942
43
図の説明 943
944
1. 生物多様性情報の今後における 4つの提言と、期待される効果。 945
946
大澤ほか 図 1
国レベルの共通ルール整備
ポータルサイト構築
政策支援
国民生活
生物多様性条約
生物多様性国家戦略の実現
生物多様性情報
表1. JBIFの2017-2022年の戦略目標
1. 科学および社会で必要とされているデータを提供する
2.インフラストラクチャーを充実させる
3.データの質的向上を図る
4.データギャップを埋める
5.関連活動との交流を促進する
表2. JBIFの2012-2017戦略目標
1. 多様性情報の重要性に対する認知度を向上させる
2. 生物多様性情報に関する博物館施設の機能を向上させる
3. 一般から行政まで幅広く生物多様性情報の重要性を訴える
4. 日本ノードのプレゼンスを向上する
5. 関連プロジェクトとの連携を模索する
6. アジア地域での共同的活動においてリーダーシップを発揮する
表3. 国内における生物多様性情報の今後に向けた提言と、その主要な内容
1. 国レベルでの共通ルールづくり
・データ記述フォーマットの標準化
・データ配信APIの標準化
・標準種名リストの整備
2. 統合ポータルサイトの構築
・データ配信APIの設置
・外部APIを利用した仮想的な統合の実現
3. 政策支援体制の確立
・証拠に基づく政策立案(Evidence Based Policy Making)の推進
・証拠に基づく政策立案における利活用
4. すべての人が生物多様性情報にアクセスし、自由に利用できる仕組み
・研究に留まらない広い利用の推進
・各地における相談窓口の設置
・ビジネスモデルの確立
Preprint
At the forefront of invasive alien species (IAS) control, information gaps about the latest IAS distribution can hinder the required actions of local governments. In Japan, many prefectural governments still lack a list of invasive species despite the request stipulated in the Invasive Alien Species Management Action Plan enacted in 2015. Here, we examined to what extent open research-based data deposited by museums and herbaria (ORD) and community science data deposited by volunteers (CSD) can fill the gaps. We focused on 145 plant and 38 insect invasive species, and updated their distribution maps using ORD and CSD. We found complementarity as well as common limitations between ORD and CSD. While taxonomic biases were weaker in ORD, CSD had better prefectural coverage. In addition, some important taxa have rarely been captured by CSD or ORD. Mixed strategies of facilitating community science, supporting local museums, and taxon-specific monitoring by experts are necessary.
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Apple snails Pomacea canaliculata and Pomacea maculata are herbivorous freshwater gastropods native to South America and are introduced species widespread in western and southern Japan. Although they affect rice culture and are invasive to native ecosystems, high‐resolution distribution data are not available for these species. I mapped the distribution of Pomacea species using the citizen science approach, by asking volunteers to report the geographical location along with the presence or absence of apple snail egg capsules or snail shells during 2017–2019. In total, 1,304 present and 508 absent records were collected, which revealed the distribution outlines of apple snails, especially in the Kansai area. Here, I provide a dataset of observation dates, location coordinates, volunteer names, and supplemental information. The complete data set for this abstract published in the Data Paper section of the journal is available in electronic format in MetaCat in JaLTER at http://db.cger.nies.go.jp/JaLTER/metacat/metacat/ERDP-2020-19.1/jalter-en .
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Dried specimens of insects are increasingly seen as genetic resources. However, genetic analysis of dried specimens of insects is hampered by the deterioration of the DNA. In this study, we developed methods for preparing dried specimens of insects with well-preserved DNA, mainly for PCR-based genetic analysis. First, we compared the effects of either exposure to ethyl acetate vapour for from 10 min to 6 h or by freezing on the fragmentation of DNA in order to determine optimal length of time needed for killing insects using the above methods. Second, we compared the fragmentation of DNA after preservation by drying or immersion of legs in 99.5% ethanol or 99% propylene glycol in 0.2-ml tubes. We assessed degrees of fragmentation of DNA by determining polymerase chain reaction (PCR) success rates with primers for 313-, 710- and 1555-bp fragments using DNA that was collected immediately, and at one, six and 12 months after preparing the specimens. Differing times taken to kill insects did not affect the fragmentation of DNA. In dried specimens, DNA was seriously fragmented after one month, whereas that in legs prepared by immersion in 99.5% ethanol or 99% propylene glycol contained long fragments of DNA (1555 bp~) after 12 months. Propylene glycol was more suitable for preservation than ethanol, because the latter evaporates. Thus, to preserve insect DNA we suggest inserting the pin on which an insect is impaled into the hinged lid of a 0.2-ml tube containing 99% propylene glycol so that when the lid is closed the legs of the insect are preserved in the solution.
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Knowledge of the temporal changes in genetic diversity and structure is important for identifying factors causing a decline in threatened insect species, and for establishing conservation programs for these species. Thus, there is recently an increasing interest in the restoration of genetic diversity in conservation programs using DNA data from historical museum specimens. For butterfly specimens, we measured the yields and fragment sizes of the extracted DNA and investigated the genotyping success probability of nine short microsatellite markers (allele size 73–191 bp). We used leg samples of specimens of a medium-sized butterfly species, Melitaea ambigua (Lepidoptera; Nymphalidae), collected from the 1960s to the 2010s. The yields of specimen-extracted DNA longer than 150 bp decreased with increasing specimen age. There were negative correlations between the genotyping success probability and specimen age for each of all microsatellite markers. A negative correlation was also observed between the genotyping success probability and allele size of each microsatellite marker. We conclude that short microsatellite markers and analysis of recently obtained specimens are particularly suitable for microsatellite analysis of butterfly specimens.
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Although much biological research depends upon species diagnoses, taxonomic expertise is collapsing. We are convinced that the sole prospect for a sustainable identification capability lies in the construction of systems that employ DNA sequences as taxon 'barcodes'. We establish that the mitochondrial gene cytochrome c oxidase I (COI) can serve as the core of a global bioidentification system for animals. First, we demonstrate that COI profiles, derived from the low-density sampling of higher taxonomic categories, ordinarily assign newly analysed taxa to the appropriate phylum or order. Second, we demonstrate that species-level assignments can be obtained by creating comprehensive COI profiles. A model COI profile, based upon the analysis of a single individual from each of 200 closely allied species of lepidopterans, was 100% successful in correctly identifying subsequent specimens. When fully developed, a COI identification system will provide a reliable, cost-effective and accessible solution to the current problem of species identification. Its assembly will also generate important new insights into the diversification of life and the rules of molecular evolution.
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The monitoring of species occurrences is a crucial aspect of biodiversity conservation, and regional volunteerism can serve as a powerful tool in such endeavors. The Fuji-Hakone-Izu National Park in the Hakone region of Kanagawa Prefecture, Japan, boasts a volunteer association of approximately 100 members. These volunteers have monitored plant species occurrences from 2001 to the present along several hiking trails in the region. In this paper, I present the annual observation records of plant occurrences in Hakone from 2001 to 2010. This data set includes 1,071 species of plants from 151 families. Scientific names follow the Y List, and this data set includes several threatened plant species. Data files are formatted based on the Darwin Core and Darwin Core Archives, which are defined by the Biodiversity Information Standards (BIS) or Biodiversity Information Standards Taxonomic Databases Working Group (TDWG). Data files filled on required and some additional item on Darwin Core. The data set can download from the author’s personal Web site as of July 2012. These data will soon be published for the Global Biodiversity Information Facility (GBIF) through GBIF Japan. All users can then access the data from the GBIF portal site.
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An increase in the number of citizen science programs has prompted an examination of their ability to provide data of sufficient quality. We tested the ability of volunteers relative to professionals in identifying invasive plant species, mapping their distributions, and estimating their abundance within plots. We generally found that volunteers perform almost as well as professionals in some areas, but that we should be cautious about data quality in both groups. We analyzed predictors of volunteer success (age, education, experience, science literacy, attitudes) in training-related skills, but these proved to be poor predictors of performance and could not be used as effective eligibility criteria. However, volunteer success with species identification increased with their self-identified comfort level. Based on our case study results, we offer lessons learned and their application to other programs and provide recommendations for future research in this area.
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Biodiversity conservation has become the stated objective of national governments, state agencies, local communities, and scientific organizations. Yet despite this attention the term biodiversity remains poorly defined. One of the unfortunate consequences of this lack of definition is a proliferation of claims that biodiversity can be both used and conserved. This claim is difficult to assess without a more precise way of defining biodiversity. We offer a heuristic framework for measuring the consequences of human use for biodiversity. Our definition of biodiversity includes three components: genetic, population/species, and community/ecosystem. Each component has its own three attributes: composition, structure, and function. Using this definition, we assessed the effects of different types of human use on the different components and attributes of biodiversity. We show that (1) different degrees of human use or alteration result in differential conservation of biodiversity components; (2) some components and attributes of biodiversity are more sensitive to human use than others; and (3) only extremely limited use or virtually no alteration will protect all components.
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Biodiversity data derive from myriad sources stored in various formats on many distinct hardware and software platforms. An essential step towards understanding global patterns of biodiversity is to provide a standardized view of these heterogeneous data sources to improve interoperability. Fundamental to this advance are definitions of common terms. This paper describes the evolution and development of Darwin Core, a data standard for publishing and integrating biodiversity information. We focus on the categories of terms that define the standard, differences between simple and relational Darwin Core, how the standard has been implemented, and the community processes that are essential for maintenance and growth of the standard. We present case-study extensions of the Darwin Core into new research communities, including metagenomics and genetic resources. We close by showing how Darwin Core records are integrated to create new knowledge products documenting species distributions and changes due to environmental perturbations.
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Ground beetles of suborder Adephaga are often considered bioindicators of natural environments because their habitats and abundances strongly depend upon environmental factors. Although their importance and usefulness are already known, there are limited data regarding voucher specimens in Japan. Biodiversity data based on voucher specimens are of high quality and reliability. In this data paper, we compile the records of Caraboidea collected mainly by Dr. Kazuo Tanaka. We also detail the time and locality of collection based on the labels of specimens deposited in the Institute for Agro‐Environmental Sciences, National Agriculture and Food Research Organization, Japan. This collection facility contains 15,675 records of 673 species collected from 1947 to 1997. All data are deposited in the Global Biodiversity Information Facility (GBIF) through the Japan Node of GBIF and are thus accessible through the GBIF portal under the Creative Commons Attribution 4.0 International license. We compile the records of Caraboidea collected mainly by Dr. Kazuo Tanaka with detail the time and locality of collection based on the labels of specimens deposited in the Institute for Agro‐Environmental Sciences, NARO, Japan. This collection facility contains 15,675 records of 673 species collected from 1947 to 1997. All data are accessible through the Global Biodiversity Information Facility (GBIF) portal as Open Data.
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Concerns about pollinator declines have grown in recent years, yet the ability to detect changes in abundance, taxonomic richness, and composition of pollinator communities is hampered severely by the lack of data over space and time. Citizen scientists may be able to extend the spatial and temporal extent of pollinator monitoring programs. We developed a citizen-science monitoring protocol in which we trained 13 citizen scientists to observe and classify floral visitors at the resolution of orders or super families (e.g., bee, wasp, fly) and at finer resolution within bees (superfamily Apoidea) only. We evaluated the protocol by comparing data collected simultaneously at 17 sites by citizen scientists (observational data set) and by professionals (specimen-based data set). The sites differed with respect to the presence and age of hedgerows planted to improve habitat quality for pollinators. We found significant, positive correlations among the two data sets for higher level taxonomic composition, honey bee (Apis mellifera) abundance, non-Apis bee abundance, bee richness, and bee community similarity. Results for both data sets also showed similar trends (or lack thereof) in these metrics among sites differing in the presence and age of hedgerows. Nevertheless, citizen scientists did not observe approximately half of the bee groups collected by professional scientists at the same sites. Thus, the utility of citizen-science observational data may be restricted to detection of community-level changes in abundance, richness, or similarity over space and time, and citizen-science observations may not reliably reflect the abundance or frequency of occurrence of specific pollinator species or groups.