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(Hem.: Aphididae)
九州で初めて確認されたヤノハナフシアブラムシ
徳田 誠(佐賀大・農)・松本嘉幸(千葉県八千代市)
ヤノハナフシアブラムシ Nurudea
yanoniella (Matsumura)は,ヌルデの複
葉の翼部にヌルデハベニサンゴフシ
と呼ばれるサンゴ状の虫えいを形成
する(湯川・桝田,1996;松本,2008).
筆者の一人,徳田は,2020 年8月19
日に佐賀県の多良岳中腹(藤津郡太
良町大字多良;標高約 600 m)に お い
て,ヌルデハベニサンゴフシと見ら
れる虫えいを確認した(図 1).そ の
後,9月27 日に同地を訪れたところ,
虫えいはすでに裂開しており,内部
のアブラムシはほぼ全て脱出し終わ
った状態であった.筆者の一人,松
本が,裂開後の虫えい内に残ってい
た有翅虫の死体からプレパラート標
本を作成して形態を確認したところ,触角の模様や前翅の縁紋の特徴から,ヤノハナフシアブラ
ムシであることを確認した.
本種はこれまで,国内では本州からしか知られておらず(宮崎ら,2016;杉本,2019),九州
からは初記録となるため,分布の基礎資料としてここに報告する.同定に用いたアブラムシの標
本は松本が保管している.
なお,ヌルデは本種の一次寄主であり,虫えいから脱出した有翅虫は二次寄主に移動すると考
えられている.二次寄主はコケ類であると言われているが,詳細は未解明である(湯川・桝田,
1996;松本,2008).
[引用文献]
宮崎昌久・青木重幸・佐野正和(2016)アブラム シ科.日本昆虫目録編集委員会(編)日本昆虫
目録 第4巻 準新翅類: 96–173.日本昆虫学会.福岡.
松本嘉幸(2008)アブラムシ入門図鑑.256 pp.全国農村教育協会.東京.
杉本俊一郎(2019)福 岡 県 北 部 の 大 島( 宗 像 市 )と 藍 島( 北 九 州 市 )の ア ブ ラ ム シ . Rostria,(63):
25–44.
湯川淳一・桝田 長(1996)日本原色虫えい図鑑.826 pp.全国農村教育協会.東京.
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(Hym.: Pompilidae)
ミイロツメボソクモバチの四国および九州からの記録
久末 遊・奥 尉平・外村俊輔・後藤聖士郎(九大院・生資環・昆虫)
ミイロツメボソクモバチ Agenioideus cinctellus (Spinola, 1808) はクモバチ科に属する体長 5 mm
ほどの狩りバチで(寺山・須田,2016),脚部と後 体節の一部 ,ときに中体 節の下部ま でが橙色
になる美しい種である.壁や枯れ木の割れ目,他の有剣ハチ類が利用した穴やカタツムリの殻な
どに巣を作り(Oehlke & Wolf, 1987),日本ではハエトリグモ科を狩ることが知られている
(Shimizu & Wahis, 2009).本種は日本では本州からのみ分布が確認されているが(Shimizu &
Wahis, 2009;中山,2014;川島ら,2018;清水ら,2019;渡辺,2020),筆者らは四国および九
図1.多良岳中腹(藤津郡太良町大字多良)で確認されたヌルデハベニ
サンゴフシ(2020 年8月19 日;徳田撮影).
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州から採集しているためここに報告
する.なお,報告に用いた標本は現在
久末が保管しているが,愛媛県の個
体を愛媛大学ミュージアムに,福岡
県の個体を九州大学農学部昆虫学教
室に保管予定である.
[採集標本データ]
1♀,愛媛県松山市東野,8. IX. 2016,
奥採集;1♀,同地 ,26. VIII. 2017,久
末採集; 1♀(図 1),福岡県田川郡 添
田町英彦山(標高 660 m, 九州大学農
学部附属彦山生物学実験施設),30.
VII. 2019,久 末 採 集 ; 1♀, 福岡県糟屋
郡宇美町四王寺山,31. VII. 2020, 久末採集;1♀,同地同日,外村採集;1♀,同地同日,後藤採
集.
愛媛県で 2016 年に得られた個体は,夜間,コンビニエンスストアの電灯に飛来していた.同
じく愛媛県で 2017 年に得られた個体は,低山地の開けた草地を飛行していた.福岡県で 2019 年
に得られた個体は,木造建築物の玄関付近を歩行していた.同じく福岡県で 2020 年に採集され
た個体は,土場に置かれた針葉樹の枯木付近を飛翔していた.本種は近年日本国内で分布を広げ
ていることが示唆されているが(長瀬・清水,2014),原因は未だよく分かっていな い よ う で あ
る.一部の国では移入種として扱われており(Buck, 2005),本種の今後の動態に注目したい.
末筆ながら,英彦山における採集でお世話になった山口大輔氏(九州大学),文献入手にあた
りお世話になった前原 諭氏(栃木県)に厚く御礼申し上げる.
[引用文献]
Buck, M. (2005) Two introduced spider wasps (Hymenoptera: Pompilidae) new to Canada, with notes on
nesting habits and the incidence of introductions. The Canadian Entomologist, 137(3): 278–282.
川島逸郎・渡辺恭平・堀内慈恵・高梨沙織(2018)川崎市青少年科学館所蔵細腰亜目(昆虫綱:
膜翅(ハチ)目)標本目録.川崎市青少年科学館紀要,(28): 82–118.
長瀬博彦・清水 晃(2014)皇居の 有剣類(セイボ ウ上科と アリ科を除く).国立科学博物館専
報,(50): 509–526.
中山恒友(2014)栃 木 県初 記 録 と な るミ イ ロ ツ メ ボ ソク モ バ チ の 記録 .イ ン セ ク ト ,65(1): 109.
Oehlke, J. & Wolf, H. (1987) Beiträge zur Insekten-Fauna der DDR: Hymenoptera — Pompilidae. Beiträge
zur Entomologie, 37: 279–390.
Shimizu, A. & Wahis, R. (2009) Systematic studies on the Pompilidae occurring in Japan: Genus
Agenioideus Ashmead (Hymenoptera), supplement. Entomological science, 12(3): 238–251.
清水 晃・黒川秀吉・室 田 忠 男・田 埜 正( 2019)福 井 県 で 採 集 し た ク モ バ チ .つ ね き ば ち ,(34):
9–16.
寺山 守・須田博久(編)(2016)日本産有剣ハチ類図鑑.780 pp.東海大学出版部.神奈川.
渡辺恭平(2020)2019 年および 2020 年に神奈川県内で採集した昆虫の記録.神奈川虫報,(203):
66–81.
図1.福岡県産ミイロツメボソクモバチ.
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2020
年度活動報告
九州・沖縄昆虫研究会第
7
回例会
九州・沖縄昆虫研究会第 7回例会は,九州昆虫セミナーとの合同で,2020 年11 月14 日( 土 )
にオンラインにて開催された.以下の 2題の講演が行われ,参加者は 23 名であった.
1.
潜葉性小蛾類モグリチビガ科
Ectoedemia
属の多様性
屋宜 禎央(九州大)
2.
昆虫とストレス研究
早川 洋一(佐賀大)
九州・沖縄昆虫研究会第
4
回大会
令和 2年度九州・沖縄昆虫研究会大会は, 2020 年12 月12 日(土)にオンラインにて開催さ
れた.以下の 1題の特別講演と 6題の一般講演が行われ,参加者は 51 名であった.
特別講演
保全的生物的防除を基幹とした総合的害虫管理 ~ 生物多様性は農家に役立っている?
大野和朗 (宮崎大・農)
昆虫学分野の重要な役割のひとつに,農業害虫の防除や天敵利用,生態系サービス(自然制
御)などの調整機能に関する基礎・応用研究や技術開発がある.その取り組みには,昆虫分類
学,昆虫生態学,昆虫生理学などのさまざまな分野の研究者,研究者の卵?,技術者が関わ
り,今後もその役割は大きいと思われる.応用場面では,害虫防除の重要な概念として総合的
害虫管理(IPM)が広く認知されている.しかし,日本は化学農薬の使用量では先進国中でも
トップに位置している.一方,EU では,農業の役割を単なる食糧生産としてではなく,生物
多様性の維持向上という点からも重視し,減農薬栽培や有機栽培が推進されている.本来,多
様な防除手段を組み合わせて,化学農薬への依存度を軽減するというのが IPM の理念であり,
化学農薬は最終解決手段(last resort)とされている.しかし,残念ながら,生産現場ではまず初め
に化学農薬ありきとなっている.本講演では,IPM の実行性に関わる問題点,農家圃場での害
虫管理に生物多様性が寄与できるのか,現在進めているタバココナジラミやツマジロクサヨト
ウに対する保全的生物的防除の取り組を紹介しながら,地域に生息する土着天敵をどのように
農業の中で役立てるかを考える.
No.99 2020. XII. 31
九州・沖縄昆虫研究会会報
編集・発行 九州・沖縄昆虫研究会