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民間医療サービス提供主体における 経営実態把握手段としての連結財務諸表の意義―医療の非営利性の解釈を中心として―

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Abstract

医療法人制度は,開業医に法人格を付与することを目的して創設されたものであり,このため株式会社のような所有と経営の分離が行われていない。医療法人にも「医療法」に規定される機関はあるが,法人に係る重要な意思決定は,実際には理事長一族が独占して行っている。 医療法人は,剰余金の配当が禁じられていることをもって非営利組織であるとの解釈が行われてきた。しかし,実際のところ,MS法人などを仲介したり,退職時に自らの持分を請求したりと,医療法人の活動を通じて得られた利益を実質的に配当できることはさまざまな場面で指摘されていた。 これらのことから,医療法人については,医療法人単体での会計情報についてどれだけ規制をかけてもその経営実態を明らかにすることはできない。このため医療法人に対する会計規制にあっては,理事長一族の息のかかっている組織の財務状況を包括的に把握することのできる連結財務諸表の作成を求めるようにすることが急務となっている。
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民間医療サービス提供主体における
経営実態把握手段としての連結財務諸表の意義
医療の非営利性の解釈を中心として
海老原 諭
(国際医療福祉大学 医療福祉学部
1. はじめに
本論文の目的は ,医療法人を中心として運営される民間医療サービス提供主体の経営実
を把握するには,連結財務諸表を作成させることが有効であることを主張するところにある。
民間医療サービ ス提供主体に連結財務諸表を作成させる必要性についてはじめて指摘し
のは,厚生労働特別研究事業の研究班として発足した「病院会計準則及び医療法人会計基準
の必要性に関する研究班」が 2003 に公表した「『病院会計準則及び医療法人会計基準の
要性に関する研究』
病院会計準則見直しに係る研究報告書
(以下, 病院 会計準則
見直しに係る研究報告書」という)である。ここでは,医療法人が「人事,取引等を通じて
実質的に支配関係にある非営利組織体ないしは会社等を有していると判断される場合も見受
けられる
(
1
)
」としたうえで,「連結財務諸表があらわすグループ全体の会計情報に有用性が
期待できる
(
2
)
」と述べられている。報告書は,医療法人に係る連結財務諸表の作成について
「適切に対応すべき
(
3
)
」との提言で結ばれているが,その後,本日に至るまで,この提言は
ほとんど放置されてきた
(
4
)
ところが,最近になって,医療法人を対象とする会計ルールが立て続けに公表されている。
2014 年には医療法人を対象とする「医療法人会計基準」が制定され,2015 年には「医療法」
が改正された(以下,2015 年改正『医療法』」という)2015 年改正「医療法」では,一定
規模を超える医療法人に対して,財務諸表の公告や公認会計士等の監査を受けることが義務
づけられるようになる(2015 改正「医療法」51 条第 5,第 51 32017 42
日施行)。医療法人を対象とする会計ルールが急速に整備された背景には,2010 年代初頭に
明らかになった徳洲会の問題がある。徳洲会の実質的な経営者である徳田虎雄氏は,親族が
経営する関連企業等を利用して,医療法人の資金を流出させ「裏金」づくりを行っていたと
報じられている。民間医療サービス提供主体の実質的な経営者またはこれと近しい者が運営
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する営利法人を一般にメディカル・サービス法人(以下,MS 法人という)というが,
療法人会計基準」の作成や「医療法」の改正は,このよう医療法人外の法人または事業を通
じて行われる不正会計への対応を模索するなかで生み出されたものである
(
5
)
それにもかかわ らず,これらの新たな会計ルールは,医療法人に対して連結財務諸表の
成まで求めるものはない。医療法人と MS 人をはじめとする医療法人外にある法人または
事業との間で行われた不適切な取引慣行に対処しようとするならば,実質的な医療サービス
提供主体全体の規模を明らかにするとともに,両者の間で生み出された「内部」利益の影響
が除去できる連結財務諸表は,その経営実態を明らかにするために有力な手段となりうるよ
うに思われる。
本論文の構成は次のとおりである。まず,第 2節では,議論の前提として,3 の階層か
らなる民間医療サービス提供主体の構造を示したうえで,それぞれの階層において適用され
る現行の会計ルールについて整理する。次に,第 3節で,医療サービスの提供者側が財務諸
表の連結を否定する論拠として使用される可能性が高いと思われる「医療の非営利性」につ
いて,度上の意味を検討する最後に4節では医療サービスの提供者側が考える「医
療の非営利性」の意味を検討したうえで両者の違いを明らかにする。
2. 医療サービスの提供体制と会計上の問題
医療サービス提供体制の 3 層構造
医療サービスの 提供体制は,①病院,診療所等の施設,②これらの施設の直接の開設者
ある法人,および,③医療サービスを提供するために一体となった複数の法人を統括する実
質的な経営者の 3層構造として整理できる図 1 照)
1に,病院,診療所等の施設のレベルである。病院,診療所等は,医師が医療サービス
を提供することを目的として開設される(「医療法」第 1条の 5
(
6
)
。病院と診療所は,入
院施設の数によって区分されるものであり,医療サービスを提供する施設という意味では両
者に違いはない(「医療法」第 1条の 5。また,病院,診療所等としたのは,後述する医療
法人に対して,病院,診療所以外の施設を開設することが認められているためである。具体
的には,介護老人保健施設(「医療法」第 39 ,医療関係者の養成所,医学等に関する
究所(「医療法」第 42 条)などがある。
2に,病院,診療所等の法律上の開設主体である。病院および診療所は,「医療法」上,
医師による医療サービスが提供される場として定義されており,その定義には開設主体に関
する定めはない。このために,病院,診療所等は,まざまな主体によって開設されている。
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具体的には,独立行政法人国立病院機構,地方独立行政法人,都道府県,市町村,日本赤十
字社,済 会,厚生農業 同組合連合会 厚生連),国民健康保険団体 合会,健康保険組
合,公益法人,学校法人,会社,医療法人などがある。また,病院,診療所等は,医師(開
業医)個人によって開設される場合もある。この場合は,3構造のうち,第 2レベルは
存在しないことになる(第 3レベルと一体化
3に,実質上の経営者である。医療経営の実態把握という側面から考えれば,法律上の
開設主体レベルにとどめるのは十分でない。その実質的な経営者が,複数の医療法人,医療
と関連する福祉事業を担う社会福祉法人,その他の法人または事業(営利法人または営利事
業を含む)を同時に展開するケースもあるからである。これらは法人格こそ異なるものの実
質的には一体となって運営されており,経営資源(ヒト,モノ,カネ,情報)の移動も行わ
れている。このような実質的な経営者によって運営される法人または事業は,「○○会」「○
○グループ」と総称される場合もある(必ずしも法人格は取得されていない)
本稿では,医療 法人を中心とした経営主体(以下,これを「民間医療サービス提供主体
という)を検討の対象とする。医療法人は,さまざまな開設主体のなかで最も多くの病院を
開設しており(全病院の 67.4%,一般診療所についても,個人(開業医) に次いで 2
に多くの施設を開設している(全一般診療所の 39.3%)からである
(
7
)
。また,医療法人単位
ではなく,民間医療サービス提供主体単位で考えるのは,経営実態を適切に把握するために
は,医療サービスの提供を目的として一体となった提供体制全体がカバーされる必要がある
と考える めである。な お,「民間医療 ービス提供主 」という言葉 ,法令によって定
義されているものではなく,本稿において便宜的に使用するものである。
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事 業 者 実質的な経営
医療法 社会福祉法人 その 他の法
(営利法人を含む)
特別養護
養護老人
施 設 診療所 病院
老人ホーム
ホーム
図 1 民間部門における医療サービス提供体制の 3 層構
法律上の
開設主体
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⑵ 医療法人が準拠すべき会計ルールの現状
医療サービス提 供主体業界には,長い間,施設レベルの会計ルールしか存在しなかった
1965 年に制定された「病院会計準則」である
「病院会 準則」の 目的 「病 を対象に,会 の基準を 定め 病院の財政状態及 び運
営状況を適正に把握し,病院の経営体質の強化,改善向上に資すること(「病院会計準則」
1にあると され 「病 会計準則」は 企業 計原則」と非常に 似た 成をもち
また企業会計原則 の改正とあわ て改正が 重ね れてきた もの あるが,経営管理
主たる目的としている点で「企業会計原則」とは異なる
(
8
)
。これは,「病院会計準則」が,
医療に関するノウハウはあっても組織の経営管理に関するノウハウをもたない医療関係者
(
9
)
に対して,病院の経営管理のための手段として「一般企業の経営手法
(
10
)
」を けよ とす
るものであったことによるものである
その後,医療法人に認められる業務が拡大し,「介護保険法」上の介護老人保健施設など,
病院および診療所以外の施設の開設が認められるようになると,「病院会計準則」だけでは,
医療法人全体の経営状態を把握することができなくなった
(
11
)
2003 年に「病院会計準則
直しに係る研究報告書」のなかで,医療法人単位で経営実態を把握できる「医療法人会計基
準」の必要性について言及されることはあったが,実際にこのような会計基準ができたのは
2014 年のことであった。
ただし,2014 に公表された「医療法人会計基準」は,日本医療法人協会,日本病院会,
日本精神科病院協会および全日本病院協会からなる四病院団体協議会によって作成された,
いわば自主規制である
(
12
)
。また,「医療法人会計基準」は,「医療法人制度上の問題として,
『会計基準もない法人』という批判が今後の医療法人制度の議論に悪影響を及ぼす恐れ
(
13
)
を懸念したために作成した形式的なものであり,その内容は,以前から存在していた「病院
会計準則」の内容を基本的に踏襲したにすぎない
(
14
)
また医療法人 計基準」が新 に起草された いっても ,医 法人が「医療法人 会計
基準」に 拠することが 制されるわけ はない。「医療法」では,医 法人に対して,毎
期財務諸表(貸借対照表およびこれを要約した財産目録ならびに損益計算書)を含む事業報
告書等を都道府県知事に対して届け出ることを義務づけており「医療法」52 1項)
ここで届 される財務諸 は, 一般 公正妥当 と認 られる会 の慣行( 療法」第 50
条の 2」に基づいて作成されなければならないが,「医療法人会計基準」は「一般に公正妥
当と認められる会計の慣行の一つとして認められる
(
15
)
」にすぎない。これに加えて,医療
法人が都道府県知事に対して提出する事業報告書等の様式には,準拠した会計基準に関する
注記が求 られていない すなわち医療法人 会計 準」が新 設さ たといっても,必
しも医療法人がこれに準拠するわけではないし,準拠しなかったとしてもその事実は明らか
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にならないのである。
⑶ 医療サービス提供主体の全体を捉える会計の必要
現在,民間医療 サービス提供主体の全体を捉える会計ルールは存在しない。医療法人と
じめとする非営利法人または非営利組織にはそれぞれ監督官庁または監督部署が定められて
おり,会計ルールについても相互に調整を図る動きはあるものの,現時点ではその中身は必
ずしも一致していない。日本公認会計士協会は,現在,このような各種の非営利法人に統一
して適用しうる会計の枠組みについて研究をすすめているが,その研究は 2013 年に始まっ
たばかりである
(
16
)
「医療法人会計基準」および 2015 年改正「医療法」では,医療法人が,民間医療サービ
ス提供主体の実質的な経営者と緊密な関係を持つ者との間で行う取引について,財務諸表と
は別に情 を明らかにす ことが求めら ている。「医療法人会計基準 では「関連当事者
に関する注記」を表示すべきとされる対象が,全国に 239医療法人総50,866 0.5 %,2015
331 日現在)しかない社会医療法人のみと非常に狭く限定されていたが(「医療法人会
計基準」第 43
(
17
)
2015 年改正「医療法」では「関連事業者との取引の状況に関する報
告書」を作成すべき対象がすべての医療法人にまで拡大されている(2015 年改正「医療法」
51 条)
しかし,その一 方で,連結財務諸表の作成に関する議論は,現時点までまったく行われ
いない。 在,医療 」上,医療法 に対して 監督 務を負う とさ る都道府県知事等
側には,医療法人が作成する財務諸表の内容を精査するだけの条件が十分に整っていない。
都道府県等の担当部署からは,会計に精通している職員が存在しないこと,調査のための人
員が 足し いる など 報告 れて
(
18
)
。都道府県等による監督をより実効的なも
のにするためには,極力,都道府県側に解釈の負担を求めない形での情報把握手段を整備す
る必 があ
(
19
)
,連結財務諸表はその点において有用である。連結財務諸表であれば,財
務諸表数値から民間医療サービス提供主体の「内部」における取引の影響はすで除去されて
いるし,医療法人が作成する財務諸表と「関連当事者との取引に関する報告書」とを照らし
合わせて,その内容を分析する必要もないからである
(
20
)
3. 医療の非営利性の意味
⑴ 「医療法」において医療の非営利性をうたっているとされる規
民間医療サービ ス提供主体に連結財務諸表を作成させるとするならば,その連結範囲は
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医療に係る会計ルールに関する今日の議論が徳洲会問題に端を発している以上,営利目的で
開設される MS 法人まで含んだものでなければならない。しかし,医療法人の財務諸表に営
利法人に関する会計数値を含める考え方に対しては,主に医療提供者側からの反発が予想さ
れる。実際,2000 年代初頭に行われた「構造改革」において提唱された医療への株式会社
参入 ラン 対し
(
21
)
,医療提供者側から激しい抵抗があり,提案が廃棄されたことも
あった
(
22
)
そこで, 節では,「医療の非営利 性」 いう言葉 ,制度上,ど のよ な意味で考え
れてきたかについて,「医療法」において医療の非営利性をうたっているとされる次の 3
の規定をとりあげて検討する。
1に,営利目的によって病院,診療所等を開設しようとする者に対して,その許可を与
えないことができるとする規定である「医療法」第 76項)。病院,診療所等の開設にあ
たっては,原則として開設地の都道府県知事等の許可を得なければならな「医療法」第 7
条第 1項)が
(
23
)
,この規定は都道府県知事等がその許可を与えるにあたって,その非営利
であることがひとつの判断基準とされることを示したものである。
2に,医療法人に対して剰余金の配当を禁止する規定である(「医療法」第 54 。医
療法人が医療サービスの提供を通じて利益をあげた場合,その利益は「施設整備,医療機器
の整備,医療従事者の待遇改善等にあてるほかは,積立金として留保され
(
24
)
」な れば
らず,医療法人の外部に配当金という形で流出させることは認められない。
3に,医療法人に対する出資者持分を認めないとする規定である
(
25
)
。医療法 人が
する場合,その残余財産の帰属者は「国若しくは地方公共団体又は医療法人その他の医療を
提供する者であって厚生労働省令で定めるもののうちから選定「医療法」44 5項)
する必要 あり,その定 がない場合は 余財産はすべ 国庫に帰属す ことになる(
療法」 56 2項)
⑵ 医療施設の開設許可を判断する基準としての営利
「医療法」7条第 6項では,「営利を目的として病院,診療所又は助産所を開設しよう
とする者に対しては,第 4の規定 にかかわらず, 1項の 許可を与えない ことができる」
と定められている。ここで「第 1項の許可」とは,病院を開設しようとするとき(開設主体
は問わな い),臨床研修 を終えた医師 以外の者が診 所を開設しよ とするとき等に開
設地の都道府県知事等
(
26
)
が与える医療施設の開設許可のことである「医療法」第 7条第 1
項)
「医療の非営利性」は,この「医療法」第 7条第 6項の規定だけでは担保することはでき
ないと思われる。その理由として,次3つがあげられる。第 1に,この規定は医療施設
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開設に適用されるものであり,既存の医療施設に対して適用されるものではなく,既存の医
療施設が営利目的で運営されていたとしても,それが排除されるわけではない。2に,こ
の規定は都道府県知事等に対して営利目的による病院,診療所の開設許可を与えないことが
「できる」ことを定めたものであり,許可を「認めない」ことまでを要請するものではない。
都道府県知事の裁量によって,営利を目的とする医療施設が開設される余地がある。3
医師による診療所の開設については,「医療法」第 71項による許可申 請が必要とされ
ない(図 2 参照)。医療というもの自体が非営利を目的としたものであり,それについて都
道府県知事による判断を受ける必要があるとするならば,医師による診療所の開設に際して
も同様の許可申請が求められるのが筋である。
3の点について,この規定には他業種による医業参入を抑制する医師または医師会側の
意図があったとする見解もある。現在の「医療法」第 7条第 1および第 6項の 規定の端
は,1933 年に改正された「医師法」およびこれに基づいて制定された「診療所取締規則」
にあ とさ
(
27
)
。当時は,開業医が私的な利益を追求したために医療サービスを受けら
れなくなった農村部の住民および低所得者を対象として,個人や団体がいわゆる「実費診療」
サービスを展開しており,その活動を抑えるために開業医および医師会が政治的な運動を行
って
(
28
)
。医師および公共団体による診療所の開設は届出制とする一方で,医師以外の
者による診療所の開設は許可制とするという二重の構造がとられた背景には,このような医
師以外の者による診療所の開設を制限しようとする医師側の意向もあったという
(
29
)
⑶ 剰余金の配当禁止および残余財産に対する出資者持分の否認
医療法人に対して剰余金の配当を禁じる規定「医療法」第 54 条)および,医療法人に
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医師
開設しようとす る施設 医師以外
(臨床研修等修了医師)
病院 許可必要 許可必要
診療所 可不要 許可 必要
営利性等に関する審査を受け
ことが求められない
図 2 病院,診療所等の開設に係る許可申請の要否(医療法」第 7 条第 1 項)
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対する出資者持分を認めないとする規定(「医療法」第 44 条第 5項,第 56 )は,いず
も厚生労働省が法人の営利性を判断する際に現在考えている基準と整合するものである。
2005 年に厚生労働省の医業経営の非営利性等に関する検討会から公表された報告書「医療
法人制度改革の考え方~医療提供体制の担い手の中心となる将来の医療法人の姿」は,2004
年に公表された「公益法人制度改革に関する有識者会議報告書」においてあげられた,①出
資義務を負わない,②利益(剰余金)分配請求権を有しない,③残余財産分配請求権を有し
ない,および,④法人財産に対する持分を有しないの 4つが,医療法人 に対して適用さ れる
べき非営利性の判断基準として参照されている
(
30
)
このようにいえ ば,剰余金の配当禁止と医療法人に対して出資者持分を認めないことは
裏の関係 あると考えら るかもしれな 。しかし医療法」 上, 余金の配当を禁止
る規定と,医療法人に対する出資者持分を認めないとする規定は,同じ時期に定められたも
のではない。剰余金の配当を禁止する規定は,医療法人制度が設けられた 1950 年から存在
するが,医療法人に対する出資者持分を認めない規定が設けられたのは 2006 のことであ
る。これは,剰余金の配当を規制する規定が,はじめから医療の非営利性を意図したもので
は必ずしもなかったためである。
医療法人制度が 設けられた当時,日本政府は大戦によってダメージを受けた医療サービ
提供体制を回復させる必要に迫られていた。政府による資金拠出だけで医療サービス提供体
制を回復させることは難しく,戦前から医療サービスの提供を行っていた民間部門からの資
金拠 も必 とさ
(
31
)
。しかし,民間の開業医も経済的にダメージを受けており,個人
の財産だけ財産で医療施設を開設することには経済的な困難があった
(
32
)
。当 の厚 事務
次官通達によれば,医療法人は「私人による病院経営の経済的困難を,医療事業の経営主体
に対し,法人格取得の途を拓き,資金集積の方途を容易に講ぜしめること等により,緩和せ
んと るも
(
33
)
」であるとされた。医療法人が設立されても,剰余金が配当されてしまえ
ば,医療サービス提供体制の回復はかなわない
(
34
)
。そこで,医療法人に対しては,剰余金
の配当が禁止されたのである。
なお,この通達 では,医療法人に対して,病院または一定規模以上の診療所の経営を求
るだけで,それ以外の積極的な公益性は要求されないことが付記されている
(
35
)
。すなわち,
医療法人の経営者に求められることは病院および診療所を開設することであり,彼らが経済
的メリットを享受することまで否定されていたとはいえないのである。
以上,本節では ,一般に「医療法」において医療の非営利性をうたっていると解釈され
いる 3の規定について振り返った
営利目的による病院,診療所等の開設は必ずしも全面的に禁止されているわけでなかった。
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医師は,今日でも診療所の開設に際して,都道府県知事による営利目的の有無に関する審査
を必要としないし,営利目的であれば医療施設の開設が絶対に認められないというわけでも
ない。医療法人における剰余金の配当禁止は,医療サービス提供体制の回復を意図する当時
の政府の意向によって定められたものであり,医療サービスの提供者が経済的メリットを享
受することまで否定するものではなかった。以上の 2つの規定は,その背景までみれば,経
財的な意味での非営利性を直接求めたものとはいいきれない。
これに対して, 残余財産に対する出資者持分を否定する規定は,直近の公益法人会計改
とも関連して,今日の厚生労働省が医療の非営利性を判断する際に利用している基準を実体
化したものである。両者に重複する剰余金の配当禁止に係る規定は,公益法人会計改革の動
きを軌を一にするために,経済的な意味での非営利性を表すものとして「読み替えられた」
部分があるようにも思われる( 3 参照
なお,すでに述べているように,医療法人による「事実上の配当」が行われている状態は,
残余財産の帰属先を限定するだけで解消されるものでもない。MS 法人を利用することをは
じめ,民間医療サービス提供主体の実質的な経営者が医療法人の財産を私的に享受する手段
はほかにも残されている。
4. 民間医療サービス提供主体における法人格の形骸化
⑴ 医療の非営利性に対する日本医師法人協会の見解
医療法人のみに会員資格が与えられている
(
36
)
日本医療法 人協会が2005 年に行われ「医
療経営の非営利性等に関する検討会」に提出した「医療法人制度改革に関する意見」(以下,
「意見」 いう)では,「医療法」にお て医療の非営 がうたわれて るとされる規定に
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以前は重視されて 営利目 的による開設禁止
いた事項(医療提
供体制の回復 医療法人の剰余金の配当禁止 現在重視されている
事項(個人的な経済
医療法人に対する持分の否認 的利益確保の阻止)
図 3 厚生労働省における「医療の非営利性」に関する力点の移動
- 10 -
ついて,次のように述べられている。引用文中,75項」とは営利目的による病院等の
開設許可を認めないことができるとした現行「医療法」第 7条第 6項を意味し,54 条」と
は医療法人に対して剰余金の配当を禁止する現行「医療法」同条の規定を意味する。なお,
「意見」が表明された時点では,残余財産の帰属先を制限する現行「医療法」第 44 条第 5
項および第 56 条第 2項の規定は存在していない。
75項は個人,法人を問わず,営利目的で医療施設を開設してはならないとい
う原則的な『非営利』を規定しているのに対し,54 条はこの原則を具体化するた
め,医療法人のみを対象として剰余金の配当を禁止した規定と捉えることができる。
言い換えるなら75項のいう『非営利』こそ,医療における 本来的な『非営利』
...... .......................
を意味し,54 条はこの原則の,ある局面における具体化にとどまると考えるべき
...... ..............................
であ
(
37
)
(傍点は引用者 による)
すなわち 意見 では,医療の 営利性が営利 的による 医療 設の開設制限によ って
体現されるものであり,剰余金の配当禁止は非営利性を判断するうえでの主たる要素となら
ないと述べられているのである。
「意見」は,次のように続いている
「これを踏まえるなら,75項の『非営利』とは,医療における一般的な『非営
利』の意味,すなわち,『医の倫理綱領』(日本医師会)にいう『医業にあたって
営利を目的としないとと解釈できるなわち これが,医療におけ 非営利』
であ
(
38
)
ここで,日本医療法人協会は,現行「医療法」第 7条第 6の規定と日本医師会が作成
た「医の倫理綱領」の規定とを結びつけている。この「医の倫理綱領」について,日本医師
会はその会員向けに解釈を示した「注解」を作成している。これは,厚生労働省の検討会に
は提出されていないが,医療提供者側の真意を理解するうえで重要な意味をもつと考えられ
る。注解」では「医業にあたって営利を目的としない」ことを規定した「医の倫理要綱」
6項について,次のように説明されている
「医業は営利を 目的とするものでは ないが,医師に 課せられた社会 的責任の重大さ
に鑑み,その責任に見合う報酬と,健全な医業経営の適正な医療報酬は必要である。
この場合,何が 適正な報酬であるかを決めることは必ずしも容易ではない。その
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ためには,医師 が社会の人たちから 信頼され,また 医師の責任の重 大さやその診療
内容に見合った評価がなされることが前提となる
(
39
)
この注解の文言のうち,現行「医療法」第 7条第 6項の規定と整合するのは「医業は営利
を目的とするものではないが」という冒頭の部分だけである。むしろ,この注解の本旨は,
医師が経済的メリット(報酬)を受け取ることの正当性について言及した部分にあると理解
する方が適切であろう。現行「医療法」第 7項第 6項と「医の倫理綱領」第 6 を,その
言だけで表面的に関連づけるだけでは,日本医療法人協会の意図を正確に読み取ることがで
きない
実際意見」で ,医師の経済 利益の確保に 触するお それ ある剰余金の配当 およ
び残余財産に対する出資者持分を否認することに対して否定的な見解が示されている。
1に,剰余金の配当禁止については,配当の有無を基準として法人の営利性が判断され
ることを認めつつも,これを医療の非営利の判断に利用し,医療政策に反映することは「政
策領域の相違やそこにおける歴史的経緯を顧慮しないという点において失当
(
40
)
」で ると
され,一般的な判断とは異なる特別の配慮を求めている。ここでいう一般的な判断とは,す
でに述べた公益法人会計において提言された非営利性の判断基準のことである。
2に,医療法人の持分に対して出資者持分を認めないとする規定に対しては,「国民の
財産権を保障した憲法 29 1項に
(
41
)
」するとしたうえで,この規定による「個人財産の
喪失を忌避して,医療法人から個人型に移行すると,法人税,所得税等の課税がなされ,医
療経営そのものが廃止に追い込まれる恐れがある
(
42
)
」との見解を示している。これは,医
療法人の財産と医療法人に対して出資者持分を有する者の個人財産とを同一視し,医療法人
としての法人格が無視されていることに加え,医療法人がこれに対して出資者持分を有する
者の経済的利益を図る(税負担の回避)目的で利用されていることを示唆している。ちなみ
に,税負担を回避する目的で法人格が利用されていることは,すでに述べた MS 法人が 設立
される場合においても同様である
(
43
)
このような「意見」がどの程度の影響力をもったかはわかりかねるが,2006 年に改正さ
れた「医療法」では,医療法人に対する出資者持分に係る規定を改める一方で,既存の医療
法人に対しては,残余財産に対する出資者持分に関する改正前「医療法」の規定を「当分の
間」維 持することとな った「医療法」平成 18 621 日改正 附則,第 10 2項)
の「当分の間」について,具体的な期限は定められていない。既存の医療法人に対しては,
出資者持分を放棄し,残余財産の帰属先を限定した新たな医療法人に移行することが求めら
れているが 2015 時点でも8割が移行を済ませておらず
(
44
)
,新しい規 定はこのような
例外規定によって事実上骨抜きにされている。
日本会計研究学会第 75 回大 2016 5
- 12 -
以上を概 すれば, 日本 療法人協 会は 医療 非営利性 」に いて,厚生労働省 にお
いて考えられているような経済的メリットの享受を排除することではなく,活動目的または
事業 「社 性,
(
45
)
」を意味するものと解釈しているように思われる。日本医療法
人協会 が,現行「医 療法7 6項を支持するのは,この規定が設けられた当初と同様,
それが株式会社をはじめとする異業種からの医業への参入を拒絶する口実として利用できる
からであり,経済的な意味での非営利性を追求するためではないのではないだろうか。医療
法人が病院,診療所の開設・運営以外に公益性を求められないものとして設計された経緯が
わかっていて,公益性という言葉の代わりに,非営利性という言葉を前面に出しているのか
もしれない。ただし,厚生労働省が「医療の非営利性」の意味を「読み替えた」とする考え
が正しいとするならば,日本医療法人協会の側はいわば「はしごを外された状態」であり,
このような姿勢を全面的に責めることはできない。
⑵ 形骸化している医療法人
法人格を取得し た場合,法人に帰属するとされた財産は,その法人の開設者または運営
個人の財産と峻別しなければならない。これは医療法人においても等しく成り立つはずであ
るが,「意見」にも表れているように,1950 年に医療法人制度が創設されて 60 年以上が経
過している今日でも,両者を区別する必要性があまり理解されていない。それどころか,積
極的に無視されているようにもみえる
(
46
)
すでに述べたよ うに,戦後の医療サービスの提供体制を回復する手段のひとつとして,
間部門に散在する資産を集積するために設けられた。その財源は,もともと医師等が私的に
保有していた財産であり,これを全面的に放棄することに抵抗があることも理解できないわ
けではない。しかし,民間医療サービス提供主体の実質的な経営者は,医療法人等を通じて
さまざまな方法で過大な報酬を受け取っているとの指摘もある。医療サービスの提供を通じ
て医療法人に蓄積された財産が当初の出資額を大きく超え,実質的に配当の後払いと疑われ
るような事態もめずらしくない。
2015 年改正「医療法」では,医療法人のガバナンスに係る規定も強化されているが,こ
れは従来ガバナンスに関する規定すら有名無実とされていたからである。日本医療法人協会
会長であった日野頌三氏は,2014 年に行われた「医療法人の事業展開等に関する検討会」
において,次のように発言している。
「社員と理事と の区別がついていな い法人がほとん どという現状は 認識していただ
.......................
いておりますね 。ガバナンスを論じ るときに、その 事実を踏まえて やはり論議をス
タートさせてい ただきたい。余りに もこれは飛躍し ているというか ,非現実的とい
日本会計研究学会第 75 回大 2016 5
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うか,現状はほとんどの一般社団の持ち回りの法人というのは,理事長の独裁です。
...............................
理事の発言が責 任を問われるような ことは何も決裁 もなく,下手を すると理事会の
開催も行われて いない。社員総会に 至ってはもっと 少ないです。そ こからのスター
トですから,こ れだけ既にできてい る法律にも関わ らず,こういう ことは我々は医
学部では習わな かったですから,ほ とんど無知で手 探りで勝手にや ってきて,その
結果がどうなっ たかというと,一人 の独裁という, ガバナンスとし てはそれが好ま
しくないという のであれば,それは それで理由を付 けて出していた だきたいと思い
ます
(
47
)
この発言は,医 療提供者側が医療法人の機関の意味を理解していない実態を「自白」し
もの して 釈で
(
48
)
。剰余金の配当禁止に反対し,持分をもたない医療法人への移行
がすすまないことの理由も明らかである。自分とは別個の法人格をもつ医療法人に財産を拠
出したの はなく, の器」に移し えただけ とい 認識であ るか こそ,医療法人に
する出資者持分の放棄が「財産権に抵触」すると理解されるのである。
医療法人として の法人格が形骸化しているとするならば,民間医療サービス提供主体の
家実態を把握する手段として,税務当局が法人格の否認を念頭においた調査を行うことも有
意義であるかもしれない。一般に,非営利または公益を目的とするとされる法人は,さまざ
まな監督官庁によって規制されており,監督方法も法人形態によってさまざまであるし,民
間医療サービス提供主体の実質的な経営者が法人格を取得しているとはかぎらない。税務当
局であれば,法人格の枠組みを超え,民間医療サービス提供主体の実質的な経営者の財産の
状況を,かりに法人化されていなくても個人として追求することも可能である。ただし,法
人格の否認は,わが国の法体系のなかに明文化されているものではなく,裁判を通じて,個
別の事情によって判断される。法令違反が特段疑われる状況でない場合まで含めて,予防的
な意味で使える手段ではない。
5. おわりに
民間医療サービス提供主体の経営体制は 3層構造になっており,医療法人はその中間レベ
2のレベル)に位置づけられるにすぎない。「医療法人会計基準」も,2015 年改正「医
療法」も,この中間レベルの医療法人を対象とするものである。しかし,医療サービスを提
供する側をみれば,医療法人としての法人格に対する意識は希薄であり,私的な財産と医療
法人の財産が混同されている状況も散見される。このような状況のもとでは,医療法人レベ
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ルの規制をいくら強化しても,民間医療サービス提供主体の経営実態を明らかにすることは
困難である。連結財務諸表の作成は,このような状況を打開するひとつの手段として有効で
あろう
連結財務諸表の 作成にあたっては,医療の非営利性の問題は一度脇においておく必要が
る。 療の非営利」 いう言葉に対 て,現在 の厚 労働省は 経済 な意味で捉えてい
が,医療提供者側は事業の公益性を代替する言葉として捉えており,両者の意味はかみあっ
ていない。厚生労働省で行われる検討会の議事録での発言をみるかぎり,意図的にその意味
をかみあわせていないようにも思われる。医療提供者側が医療の非営利性を営利法人の排除
の口実と て利用してい との理解が正 いとすれば,「医療の非営利 」を前提とするか
ぎり,医療法人の財務諸表と営利法人たる MS 法人の財務諸表を連結させようとする議論が
進展することは考えがたい。
わが国では,会 計について考える場合,営利と非営利とを区別することが半ば当然視さ
ているように思われる。しかし,両者を区別できる絶対的な基準が存在しない現状を考えれ
ば,営利と非営利の違いに固執することは,経営実態の把握をいたずらに遅らせる原因とも
なりかねない。営利と非営利の境界を取り除いて考えることの意義に関しては,公益法人会
計の立場から議論されているものはあるが
(
49
)
,医療法人会計の立場からはほとんどみられ
ない。医療法人は,その歴史的経緯を踏まえれば,公益法人以上に営利と非営利とを区別す
ることが難しい法人形態であるともいえる。非営利性の問題を棚上げして考える必要性につ
いてとりあげることは,デッド・ロック化している民間医療サービス提供主体の経営実態把
握のために有用であるように思われる。海外には,はじめから営利と非営利を区別せずに会
計基準が設計されている国(フランスおよびドイツ)もある
(
50
)
企業会計では, 連結する財務諸表の範囲を画定するにあたって支配力基準が採用されて
る。沈静化した連結財務諸表に係る議論を再び興すことで,営利・非営利とは別の,支配力
という新たな角度から,民間医療サービス提供主体の経営実態の解明に貢献することができ
るのではないだろうか。
参考文
浅井一敬「医療にも『会計ビッグバン』連結決算導入の見送りを疑問視する向きも」エコノミスト,
84 巻第 68 号,2006
井出健二郎「医療法人会計基準制定に関する一座標
医療系財務会計基準形成資料等の検討
産業経理,第 74 巻第 1号,2014
医療経営の非営利性等に関する検討会,第 4回検討会(2004 12 10 日開催),参考資1-1「医
法人の非営利性の確保状況等に関する都道府県等調査の結果について」
医療経営の非営利性等に関する検討会,第 8回検討会(2005 610 日開催),資料 1『医療法人制
度改革の基本的な方向性(今後の議論のたたき台)』に関するご意見」
日本会計研究学会第 75 回大 2016 5
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医療経営の非営利性等に関する検討会,第 8回検討会(2005 610 日開催),日本医療法人協会提
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医療経営の非営利性等に関する検討会「医療法人制度改革の考え方~医療提供体制の担い手の中心と
なる将来の医療法人の姿」2005 年。
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mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei.html?tid=164077
厚生事務次官通達,発医第 98 号「医療法の一部を改正する法律の施行に関する件」1950 82
付。
厚生労働省「平成 25 年度国民医療費の概況」2015 年。
厚生労働省「平成 26 年(2014)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」2015 年。
厚生労働省医政局長発通知,医政発 0319 7号「医療法人会計基準について」2014 319 日付。
厚生労働省医政局長発通知,医政発 0420 7号「医療法人の計算に関する事項について」2016 4
20 日付。
厚生労働省医政局医療経営支援課長発通知,医政支発 0420 2号「関係事業者との取引の状況に関す
る報告書の様式等について」2016 420 日付。
厚生労働省中央社会保険医療協議会総会(第 321 回)資料(2015 12 25 日開催平成 28 年度診
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染谷恭次郎「病院会計の開拓(2
ある会計学者の軌跡
」会計,第 151 巻第 4号,1997
染谷恭次郎「病院会計の開拓(3
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廣橋祥「医療法人会計の現状と動向に関する一考察」経営学研究論集,第 37 号,2012 年。
日本会計研究学会第 75 回大 2016 5
(1) 病院会計準則及び医療法人会計基準の必要性に関する研究班「『病院会計準則及び医療法人会計
基準の必要性に関する研究』
病院会計準則見直しに係る研究報告書
2003 年,V4,(4)。
(2) 同上。
(3) 同上。
(4) 当時は,医療法人に対する連結財務諸表の導入が見送られたことを疑問視する声もあったという
(浅井一敬「医療にも『会計ビッグバン』連結決算導入の見送りを疑問視する向きも」エコノミスト,
84 巻第 68 号,2006 年,79 。しかし,現在ではこの声 も小さくなり,連結財務諸表 に関する議
論をほとんど見聞することができない。
(5)2013 年に行われた第 185 臨時国会衆議院厚生労働委員 会では,医療法人と関連して 設立された
営利法人を利用して利益が蓄積されていることについて問題提起が行われており,その議事録は厚生
労働省の医療政策に係る検討会において資料として提示され,今後の議論の出発点となった(医療法
人の事業展開等に関する検討会,第 4検討会資料 2「医療法人に おける透明性の確保等につい て」
(6) 医師以外の者が業として医療サービスを提供することは認められない(「医療法」17 条)
(7) 厚生労働省「平成 26 年(2014)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」2015 年,8頁。
なお,一般診療所は,歯科診療所を除く診療所のこ とをいう。
(8) 「病院会計準則」に基づいて作成される財務諸表は,病院に対して監督権限を有する都道府県知
事に届出られるほか,債権者が申し出によって閲覧することもできる。この意味で単なる経営管理目
的ではなく,外部への報告を意図した財務会計的側面が認められるとの指摘もある(廣橋祥「医療法
人会計の現状と動向に関する一考察」経営学研究論 集,第 37 2012 年,42 頁)しかし,厚生労働
省における審議会での発言および「医療法人会計基準」の前文をみるかぎり,医師側は外部の者に見
られることを意識していないばかりか,これに対して否定的な立場を有しているようにも考えられる。
(9) 染谷恭次郎「病院会計の開拓1
ある会計学者の軌跡
」会計,第 151 巻第 3号, 1997
年,105
(10) 染谷恭次郎「病院会計の開拓2
ある会計学者の軌跡
」会計,第 151 巻第 4号,1997
年,160-161
(11) 病院および診療所以外の医療・福祉に関係する施設に対しては,それぞれ異なる会計ルールが
適用されていた。たとえば,介護老人保険施設の場合は,「介護老人保健施設会計・経理準則」に基づ
く経理が必要であった。
(12) 四病院団体協議会は,「医療の大きな比重を占める病院のデータと要望を政策に反映させる必要
や,病院現場の声を届かせる力量を備える必要に迫られ(全日本病院協会ウェブサイト「四病協のう
ごき」URL: http://www.ajha.or.jp/topics/4byou/」た現状に鑑みて設立した団体であり,その目的から
政治活動を行うことが意図されている。なお,「医療法人会計基準」は,厚生労働省の通知によってオ
ーソライズされており(厚生労働省医政局長発通知,医政発 0319 7号「医療法人会計基準につい
て」2014 319 付) まったくの自主規制というわ けではない。
(13) 四病院団体協議会会計基準策定小委員会「医療法人会計基準に関する検討報告書」2014 年,2
頁。
(14) 「医療法人会計基準」の前文において,「会計基準案そのものの内容は,あくまで現行の制度を
前提とした」と述べられている(同上,2頁)
(15) 厚生労働省医政局長発通知,前掲(12ただし,平成 27 年改正「医療法」において,事業
- 16 -
水谷文宣民間非営利組織の連結財務諸表への一考察
カナダ基準とイギリス基準を踏まえて
公益・一般法人,第 817 号,2012 年。
明治安田生活福祉研究所「
医療施設経営安定化推進事業
病院経営をはじめとした非営利組織
の経営に関する調査研究報告書」(平成 16 年度厚生労働省医政局委託事業)2005 年。
四病院団体協議会会計基準策定小委員会「医療法人会計基準に関する検討報告書」2014 年。
日本会計研究学会第 75 回大 2016 5
(16) 日本公認会計士協会「非営利法人委員会研究報告25 号 非営利組織の会計枠組み構築に向け
て」2013
(17) 社会医療法人以外の医療法人は,「関連当事者に関する注記」を省略することが認められる
「医 療法人会計基準」第 43
(18) 医療経営の非営利性等に関する検討会,第 4回検討会(2004 12 10 日開催,参考資料 1-1
「医療法人の非営利性の確保状況等に関する都道府県等調査の結果について」2頁。
(19) 水谷文宣「民間非営利組織の連結財務諸表への一考察
カナダ基準とイギリス基準を踏まえ
」公益・一般法人,第 817 2012 58-59 頁。
(20) 平成 27 年改正「医療法」では,財務諸表の公告が義務づけられている。財務諸表のディスクロ
ージャーは,もともと米国において,監督官庁の人員および金銭的な不足をカバーするために採用さ
れた方式である。しかし,わが国の医療法人を前提とした場合,この方法が民間医療サービス提供主
体の不適切な行為の抑止に効果があるとは考えがたい。医療法人には,金融機関等の債務者を除けば,
直接的に資金関係をもつ者は存在しない。公費および保険料の支払いを通じて国民全体が間接的な資
金関係をもっているともいえるが,お上任せ(田中英夫 英米法 総論 上」東京大学出版会,1980 22
頁)」の傾向があるわが国では,財務諸表のディスクロージャーを契機として国民の側がアクションを
起こすことは考えにくい。
(21) 首相官邸「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」2001 年, 20 頁。
(22) これからの医業経営の在り方に関する検討会「『これからの医療経営の在り方に関する検討会』
最終報告書~国民に信頼される,医療提供体制の担い手として効率的で透明な医業経営の確立に向け
て」2003 II2,日本医師会「医療における株式会社参入に対する日本医師会の見解」2009 年など
(23) 「医療法」上,病院,診療所等の医療施設の配置は,各都道府県が作成する医療計画に基づい
て行われることになっており,国(厚生労働省)は基本的な判断基準を示すにすぎない。国の政策に
係る事項は,まず厚生労働省から各都道府県知事に対して通知され,都道府県を通じて各医療施設に
周知される。
(24) 杉山幹生・石井孝宜・五十嵐邦彦『医療法人の会計と税務(八訂版)』同文舘出版,2014 年,18
頁。
(25) 「医療法」上,医療法人の社員の退社に関する規定は存在しない医療法」44 条第 5項お
よび第 56 2項は,医療法人の解散時に関する規定であるが,医療法人を解散しない場合における
出資者持分の取り扱いについても規定したものと理 解されている
(26) 診療所および助産所は,開設予定地が保健所の設置された市または特別区である場合,都道府
県知事ではなく,当該市または特別区の長による許 可を受けなければならない(「医療法」第 7条第 1
項)
(27) 新田秀樹「医療の非営利性の要請の根拠」名古屋大学法政論集,175 巻,1998 23-24 頁お
よび 28 頁。
(28) 同上,26 頁。
(29) 同上,24 頁。医師側に特 別の便宜を図ろうとする方針 は,1950 年改正「医療法」においてい
そう強化された。1950 年改正「医療法」の公布にともなって発せられた通達では,「医療法人は,(中
略),剰余金の配当を禁止することにより,(中略)商法上の会社と区別される(第一,二)「今後会
社組織による病院経営は認めない(第一,四),剰余金の配当禁止と病院の経営主体の限定が結びつ
けられて説明されている(厚生事務次官通達,発医 98 号「医療法の一部を改正する法律の施行に
する件1950 82日付)
(30) 医療経営の非営利性等に関する検討会「医療法人制度改革の考え方~医療提供体制の担い手の
- 17 -
報告書等の開示が必要とされる医療法人に対しては,「医療法人会計基準」の「様式」を使用すること
が求められている(ここでも会計基準の適用については言及されていない)(厚生労働省医政局医療経
営支援課長発通知,医政支発 0420 2「関係事業者との取引の状況に関する報告書の様式等につ
て」2016 420 付)
日本会計研究学会第 75 回大 2016 5
(31) 塚原薫「医療法人の発展と医療法人制度改革の展開
その活性化をめぐって
」名古屋学
院大学論集社会科学篇,第 49 3号,2013 108-109 頁。
(32) 同上。
(33) 厚生事務次官通達,前掲(注 29,第一,一。
(34) 塚原薫,前掲(注 31109 頁。
(35) 同上。
(36) 日本医療法人協会ウェブサイト「協会について」URL: http://ajhc.or.jp/profile/kyokai.htm
(37) 医療経営の非営利性等に関する検討会,第 8回検討会2005 610 日開催,日本医療法人
協会提出資料「医療法人制度改革に関する意見」2005 年,2頁。
(38) 同上。
(39) 日本医師会 会員の倫理向上 に関する検討委員会医の倫理綱領 医の倫理綱領注釈2000 23
頁。
(40) 医療経営の非営利性等に関する検討会,前掲(注 373頁。
(41) 同上,4頁。
(42) 同上。
(43)MS 法人は,「診療行為以外の医業の合理化・効率化,医療法人関係者の雇用の確保といった側
面もあるが,多くは医療法人の節税対策の有効な手段(塚原薫,前掲(注 31113 」として理解
れている。開業医に対して税理士等が節税目的で MS 法人の設立をすすめることもめずらしくない。
(44) 衆議院「第 189 回衆議院厚生労働委員会議議事録」第 33 号,2015 85付。
(45) 明治安田生活福祉研究所,
医療施設経営安定化推進事業
病院経営をはじめとした非営
利組織の経営に関する調査研究報告書」(平成 16 年度厚生労働省医政局委託事業)2005 年,5-7 頁。
(46) たとえば,「医業経営の非営利性等に関する検討会」には,「多くの医療法人では,長年,誤っ
た運営がなされており,『営利法人たることを否定した法人』して立法されながら,その非営利性が完
結されていないところか,医療法違反を犯した医療法人が多数あることは否定できない」とのコメン
トが寄せられている(医療経営の非営利性等に関する検討会,第 8回検討会2005 610 日開催)
資料 1医療法人制度改革の基本的な 方向性(今後の議論のたたき 台)』に関するご意見」1頁)
(47) 医療法人の事業展開等に関する検討会,第 4回検討会議事録,2014 42日(URL: http://
www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-isei.html?tid=164077
(48) 明治安田生活福祉研究所,前掲(注 4554-55 頁。
(49) 杉山学「公益法人における連結情報の開示」青山経営論集,第 41 巻第 12006 年,鷹野宏
「公益法人会計の新しい問題領域」月刊公益法人, 27 巻第 6号,1996 年など。
(50) 日本公認会計士協会,前掲(1613 頁。
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中心となる将来の医療法人の姿」2005 年,7
日本会計研究学会第 75 回大 2016 5
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