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Urushi x Robotics - ロボットアーム による漆の 刷毛塗り

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Abstract

漆造形は乾漆(かんしつ)に代表される主に形態を形成する「構 造的造形技術」と、表面に関わる「表面的装飾技術」の二つの技 術によって構成される。特に後者は伝統技法において「加飾」と 呼ばれ、現代では図案の意匠から加工まで主にひとりの職人によ って施されている。ここでは「優れた職人が必ずしも秀でた図案 を生み出すとは限らない」という課題を抱えている。筆者の一連 の研究では漆の表面装飾を「図案」と「加工」に分かち、いずれ もデジタルプラットフォーム上の技術として再解釈し、図案制作 には一般的なグラフィックソフトウェアを使用し、加工技術にレ ーザーカッターを取り入れることで漆加飾をデジタルメディア表 現の一つの手法として理解することを試みてきた(図 1)。本報で は、漆塗りのもっとも基本的な技術である刷毛塗りのロボットア ームによる再現を試みた。
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要旨
漆造形は乾漆(かんしつ)に代表される主に形態を形成する「構
造的造形技術」と、表面に関わる「表面的装飾技術」の二つの技
術によって構成される。特に後者は伝統技法において「加飾」と
呼ばれ、現代では図案の意匠から加工まで主にひとりの職人によ
って施されている。ここでは「優れた職人が必ずしも秀でた図案
を生み出すとは限らない」という課題を抱えている。筆者の一連
の研究では漆の表面装飾を「図案」と「加工」に分かち、いずれ
もデジタルプラットフォーム上の技術として再解釈し、図案制作
には一般的なグラフィックソフトウェアを使用し、加工技術にレ
ーザーカッターを取り入れることで漆加飾をデジタルメディア表
現の一つの手法として理解することを試みてきた(図 1)。本 報 で
は、漆塗りのもっとも基本的な技術である刷毛塗りのロボットア
ームによる再現を試みた。
1 レーザー加工による沈金作品 土岐野老 KumaponG
1.はじめに
枯渇が危惧される化石燃料由来品に替わる素材開発において植
物原料等の利点があらためて注目される中、塗料であると同時に
造形素材でもある天然漆の多様な性質が注目され、全国各地で漆
採取・生産が再開されつつある。一方で日常生活にみる漆製品は
決して多くなくその素材の良さを知る機会は多いとは言えない。
基本的に塗料であり、塗布する対象をほぼ選ばない(ガラス等では
定着性に難あり)という性質に着目すると、漆を用いた表現の可能
性は無限であるはずであるが、現実には「高度に洗練された職人
の手しごと」というイメージが一般的であり、既存の表現は限定
的である。しかしながら原理的には漆を塗料とするスプレーガン
による吹き付けやシルクスクリーン印刷は可能であり、産業現場
では実際にも実施されている。シルクスクリーン印刷はいまや完
全にデジタル化された技術であり、この点においては漆による表
現もデジタル技術によるメディア表現といってよい。ものづくり
においては、レーザーカッターや3D プリンタなどのコンピュー
タと接続されたデジタル工作機械によって、木材やアクリルなど
のさまざまな素材から部材を切り出し、成形するデジタルファブ
リケーション技術が個人に届くようになってきた。いずれ漆とデ
ジタルファブリケーションによる表現が個人のレベルでも広く
われるようになり、ひいては漆が表現のためのひとつのメディア
として認識されるようになるだろう。
2.産業技術による塗り
工芸的技術と理解される傾向にある漆芸であるが、仏壇制作や
大型什器制作の現場ではスプレーガン吹き付けによる産業的技術
も導入されている。現代的な化学合成塗料で可能な表現は漆にお
いても技術的にほぼ可能といえる。しかしながら吹き付けは対象
製品面よりも大きな面積に吹き付ける必要があり、原理的に必ず
塗料の吹きこぼしを伴う。大面積もしくは入り組んだ形状部への
均質で平滑かつ効率的な塗装と引き替えに、貴重な天然資源であ
る漆を無駄にせざるを得ない。また吹き付けに際して一般に塗料
は希釈する必要があり、漆の場合は有機溶剤を混合するため、
終製品に幾ばくかの有機溶剤成分が残留することも懸念される
一方で、伝統的な漆塗り刷毛は漆の豊かな表情を表現するために
長い時間を掛けて完成された道具である。これを自在に使いこな
すには長年の熟練を要するが、近年のロボットアーム技術の発展
によって様々な現場で人の腕の動きが再現されていることを考
ると、漆塗りを再現することも可能ではないかと考えたことから
研究が着想された。
3.ロボットアームの実装
まず、先端部に漆刷毛を固定した 5軸汎用ロボットアームを含
む、作業空間を CAD 上で構築し、アームの軌跡をプログラミング
した(図 1-1)いわゆるオフラインプログラミング手法である。
ロボットアームによる漆の刷毛塗り
Urushi x Robotics
土岐謙次
金田充弘
Ghali Bouayad
田中浩也
益山詠夢
宮城大学
東京藝術大学
東京藝術大学
慶應義塾大学 SFC
慶應義塾大学 SFC
TOKI , Kenji
MITSUHIRO, Kanada
GHALI, Bouayad
HIROYA, Tan a ka
EMU, Masuyama
Miyagi University
Tokyo University of the
Arts
Tokyo University of
the Arts
Keio University SFC
Keio University SFC
研究ノート
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この手法では現実の作業空間から計測・採取した空間座標をもと
CAD 空間に作業空間とアームの軌跡を構築(図 1-2)するため、
正確な作業のために両環境での座標のズレが許されない。このた
め、試行と微調整の度に CAD 空間を修正する必要があり、位置精
度の点で芳しい方法ではなかった。
次に、DENSO WAVE 製 6 軸汎用ロボットアーム「COBOTTAを用
いた試行を行った。COBOTTA は人協働型のロボットアームで、比
較的単純な繰り返し作業を支援するために設計されている。特に
「ダイレクトティーチング」と呼ばれる機能によって、アーム部
を直接動かして動作を記憶させることができる。この機能を利用
して、本試行では実際の作業空間での動作のポイントとなる複数
位置にアームを直接動かし、その座標をソフトウェア上にプロ
ットし、各プロット間の動作速度・加速度・軌跡形状をパラメト
リックに制御することで、再現を試みた(図 2-1)。6 軸となった
ことで、刷毛が対象表面端部から戻る際に角度を反転させる「手
首の返し」の動作も再現することが可能になり、より柔軟な動き
として表現することが可能になった図 2-2)本試行では、ロボ
ットアームの動作に対して漆塗りの職人に監修を依頼し、試行の
その場で指摘を反映しつつパラメータの調整を行い、動作精度を
高めていった。
1-1 アーム動作軌跡のGAE 画面 (Grasshopper)
1-2 作業環境CAD 空間構築 (Rhinoceros)
2-1 DENSO WINCAPS 操作画面
2-2 COBOTTAによる刷毛塗り
4. 考察と展望
研究は端緒的な取り組みであり、現状では作業品質において
実用にはほど遠いが、伝統的な道具を活かしつつデジタル技術を
用いるひとつのモデルを示した。非言語的で感覚的な職人の技法
を再現的に行うために、職人の動きをいかにパラメータとして取
り出し、アームの動きとして調整していくかが課題となる。精緻
化が進めば対象表面形状の 3次元情報をロボットアームに理解
させて自動で漆塗り施すしくは任意の意匠を 3次元表面上
に描くこと可能となるだろうまた伝統技法では矩形面に対
して平行に運筆されるのに対して、本手法では運筆パスを設計す
ることができ、これによって刷毛目のパターンを表現することが
可能になる。伝統技法として植物性タンパク質(豆腐など)を少
量添加し粘度を上げた漆によって刷毛目を残す技法があり、これ
らによってデジタルに設計されたパターンを漆の刷毛目で表現す
ることが可能になる。加飾の新しいデザイン手法のみならず、
技術保持者の高齢化と継承者の減少などの課題を抱える伝統工芸
の現場で伝統技術の継承手段として、職人技法の行動分析と合わ
せて、特定の技法を高精度で再現できれば、技術継承・教育の一
助ともなるだろう。
5. 謝辞
研究株式会社デンソーウェーブ FAロボット事業部協力のもと
われました。本研究は JSPS 科研費 JP26282008 の助成を受けたものです
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