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ARI
蟻
(38) April 30th, 2017
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アワテコヌカアリを四国で採集
久末 遊
愛媛大学農学部環境昆虫学研究室
Yu HISASUE: Tapinoma melanocephalum (Fabricius) collected in Shikoku
Entomological Laboratory, Faculty of Agriculture, Ehime University
Tarumi 3-5-7, Matsuyama, Ehime 790-8566, Japan.
E-mail:
アリの中には放浪種(tramp species)と呼ばれるものがおり,これらは元々攪乱された環境にのみ生
息し,自然の環境に出てくることはなかったが,人間の移動や商取引といった活動に便乗して分布を
広げている(Wetterer 2009).放浪種は繁殖力が強く侵略的であることから,在来生物との競合や生
態系への影響が心配され,代表的な放浪種であるアルゼンチンアリ
Linepithema humile
(Mayr)は
IUCN(国際自然保護連合)の世界の侵略的外来種ワースト 100 に選定されており,日本でも外来生物
法に基づく特定外来生物に指定され,その輸入,飼養,運搬等が規制されている(環境省自然環境局
野生生物課外来生物対策室 2013).
アワテコヌカアリ
Tapinoma melanocephalum
(Fabricius)は,黒い頭部に乳白色の中体節と後体節
が特徴的な体長 1.5mm ほどのアリで,その見た目から”ghost ant”と呼ばれている.土中,石下,
倒木下,樹皮下などあらゆる隙間に営巣し,熱帯域では家屋害虫となっている(Harada 1990; 日本蟻
類研究会 1991).放浪種であることは分かっているものの原産国は分かっておらず(Wilson & Taylor
1967),旧世界・新世界問わず世界中で分布が確認されている(Wetterer 2009).日本では主に南西諸
島に分布し,日本本土でも九州南部で多数の生息が確認されている.また,近代になって侵入したと
思われるものでは都市部の植物園内の温室やマンション内で記録されている(寺西 1927; 東 1951;
寺山・奥谷 1992).本種のこれまでの記録は全て本州もしくは九州からのものであるが,筆者は今ま
で記録のなかった四国にて本種を採集した(図 1).また,本記録は上記の記録とは異なり屋外でのも
のである.
2015 年11 月20 日,当時愛媛大学大学院の学生であった岡野良祐氏(いであ株式会社)が同大学
キャンパス内の緑地(図2)でスウィ―ピングを行った際に得られた昆虫の中に見慣れぬアリがおり,
顕微鏡下で見てみると本種であった.同年 11 月23 日,筆者は岡野氏から訊いた採集場所へと向かっ
た.同所は枯死し堆積した植物が多く見られる非常に乾燥した環境であり,筆者が南西諸島で本種の
コロニーを採集した環境に類似していた.そこでスウィ―ピングを行ったところ複数の個体が得られ,
また緑地そばのアスファルト上を歩く本種を確認することができた(図 3).また,コロニーのある場
所を突き止めるためにワーカーを追跡したが,アスファルトの隙間に入られコロニーを確認すること
はできなかった.その後幾度か観察・採集を続けたところ,翌 2016年の 1~2月は本種を確認するこ
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とができなかったが,2016 年3月30 日に同所で観察を行ったところ前年に観察したアスファルト上
にて本種の行列を確認し追加個体を得た.また,当日の観察で女王を確認することはできなかったが,
幼虫を運搬するワーカーを確認している.なお,本記録で扱われた個体は全て 70%エタノールに入れ
て殺虫した後,乾燥標本にして愛媛大学ミュージアムに保管した.
図1. 愛媛県で得られたアワテコヌカアリ
今回,11 月,12 月に観察された本種が 1~2月の冬の間には見られず,その後春になって再び観察
されたことから,本種は四国,愛媛県の屋外環境において越冬が可能であるということが考えられる.
愛媛県松山市の 2015 年11 月から 2016 年3月までの月平均気温はそれぞれ 15.5℃,10.0℃,6.6℃,
7.2℃,10.8℃であり(松山地方気象台 2017),同じ瀬戸内気候に属する他の県でも本種が越冬でき
る可能性が考えられる. 実際に,愛媛県の近隣地域では広島県の屋外環境においても採集されたこ
とがあり(榎木 1993; 中村ほか 1993),記録は少ないものの既に日本本土における分布はある程度
広がっていることが示唆される.今回本種が確認されたのは屋外環境であるために結婚飛行によって
分布を広げることが容易であり,分布拡大を抑える対策が急務であると考えられる.
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図2. アワテコヌカアリの生息環境
図3. アスファルト上のアワテコヌカアリ
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謝辞
末筆ながら,本種の標本を提供して頂いた岡野氏,本種に関する情報をご教示くださった伊藤文紀
博士(香川大学),水野理央氏(同),原稿を校閲して頂いた小西和彦博士(愛媛大学)に厚く御礼申
し上げる.
引用文献
東 正雄,1938.大阪府産蟻類.昆虫界(6): 238-243.
榎木成司,1993.広島県産アリ類の記録.比婆科学(155): 15-22.
Harada, A. Y. 1990. Ant pests of the Tapinomini tribe. . In R. K. Vander Meer, K. Jaffe & A. Cedeno eds., Applied
Myrmecology: A World Perspective, 298-315.
環境省自然環境局野生生物課外来生物対策室,2013.アルゼンチンアリ防除の手引き.78pp.
松山地方気象台.http://www.jma-net.go.jp/matsuyama/ 2017/1/30 アクセス.
中村慎吾・野元正直・松田賢,1993.広島県芦田川流域の貝類,クモ類と昆虫類.比婆科学 (157):
1-16.
日本蟻類研究会編,1991.日本産アリ類の検索と解説(II).カタアリ亜科,ヤマアリ亜科,56 pp.
寺西 暢,1927.大阪天王寺植物園附属温室の蟻類.昆虫 2 (1): 51−53.
寺山守・奥谷禎一,1992.東京都内で得られたアワテコヌカアリ 家屋昆虫 14 (1): 7-8.
Wetterer, J.K. 2009. Worldwide spread of the ghost ant, Tapinoma melanocephalum (Hymenoptera: Formicidae).
Myrmecological News, 12: 23-33.
Wilson, E.O. & Taylor, R.W. 1967. Ants of Polynesia. Pacific Insects Monographs, 14: 1-109.