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小学校でのタブレット端末利用におけるアンチグレアフィルムの効果
○柴田隆史
(
東京福祉大学
)
、佐藤和紀
(
常葉大学
)
、板垣翔大
(
武蔵野女子学院高等学校
)
、
恒川雅行、田谷周望
(
大日本印刷株式会社
)
、堀田龍也
(
東北大学
)
Effects of anti-glare film on tablet usability in elementary schools
Takashi SHIBATA (Tokyo University of Social Welfare), Kazunori SATO (Tokoha University),
Shota ITAGAKI (Musashino Joshigakuin High School), Masayuki TSUNEKAWA,
Shuboh TAYA (Dai Nippon Printing Co., Ltd.), Tatsuya HORITA (Tohoku University)
1.はじめに
ICTを活用した教育の促進を背景として、学校
の授業でICT機器が使われるようになってきてい
る。具体的には、電子黒板やプロジェクタなどの
大型提示装置や実物投影装置、そして指導者用及
び学習者用のコンピュータである。特に、児童生
徒が用いるICT機器は学習者用コンピュータであ
り、タブレット端末が用いられることが多い。し
かし、学校の教室は必ずしもICT機器を使いやす
い環境にはなっておらず、例えば、教室の蛍光灯
による画面への映り込みにより、反射グレアが生
じることがしばしばある。
小学校でタブレット端末を使っている児童を対
象とした調査結果からは、約57%の児童がタブ
レット端末の画面に蛍光灯が映りこんで見にくい
と感じていることが示されている1)。また、画面
の反射グレアにより、利用者に不快感が生じるこ
とはよく知られており2)、児童生徒が安全で快適
にICT機器を使うために、人間工学的配慮が必要
とされている。そのための対策の一つは、タブ
レット端末に、反射防止処理をするアンチグレア
(AG)フィルムを装着することである。そこで
本研究では、児童を対象として、「資料を見る」
「文字を書く」「画面を触る」など、授業での学
習場面に即した課題を設定し、AGフィルムの効
果を検討した。
2.方法
公立小学校6年生の4クラス123名を対象として、
タブレット端末に装着したAGフィルムの効果に
ついて検討した。参加した児童は、普段の授業に
おいてもタブレット端末を用いており、タブレッ
ト端末の使用には慣れていた。
児童が用いたタブレット端末は、Surface Pro 4
(Microsoft)であり、画面の左半分にだけAG
フィルム(大日本印刷)を装着した。図1に、蛍
光灯の映り込みに対するアンチグレアの効果を示
した。評価実験では、左右の画面に同一の実験刺
激を呈示し、児童は1台のタブレット端末を用い
て、左右の画面を比較することで評価した。
図1 左半分に貼られたAGフィルムとその効果
評価実験は、本研究のために準備された教室
で行い、児童はクラスごとに入室し、着席した。
机の位置はあらかじめ決められており、机の上に
タブレット端末を平置きにして児童が画面を見た
ときに、天井の蛍光灯が映り込まないように座席
位置を設定した。また、窓のカーテンを閉めて太
陽光の差し込みを防ぎ、蛍光灯は点灯させた。
児童はタブレット端末の画面に表示される14種
類の課題を、実験者の指示に従って1種類ずつ実
施し、評価結果を質問紙に回答した。一部の課題
を除き、左右の画面を比較する、両極尺度による
5件法を用いた。全ての評価を行うのに要した時
間は約30分であった。
課題の1から3は、書く(描く)ことに注目した
内容であった。課題1では「永」という漢字を書
き、課題2では基本図形を描いた。課題3では計算
結果の丸付けをし、紙に丸を付ける感覚との比較
及び音の好みを回答させた。いずれの課題でもタ
ブレットペン(Surface Pen, Microsoft)を用いた。
1B4-1
課題4から10は、見ることに注目した内容であり、
社会の教科で用いられる写真やグラフ、そして国
語の教科で用いられる文章を比較した。課題11は、
指を使ってピンチ操作を行い、触り心地を評価し
た。課題12は、児童がタブレット端末を手で持ち、
意図的に蛍光灯が映り込む状態にした際の資料の
見やすさを評価した。課題13では黒い画像を表示
して、これまでの作業によって画面に付いた手や
指による汚れの程度を比較した。そして、最後の
課題14では、これまでの全ての課題を振り返った
後に、画面の左半分と右半分のどちらを学校での
学習で使いたいのかを質問した。さらに、その理
由について自由記述させた。
3.結果
課題1の「きれいに文字が書けるのは、どちら
ですか?」という質問に対して、約78%の児童が、
AGフィルムが貼られた画面の方があてはまると
回答した(図2)。また、課題2では、約89%の児
童が図形をうまくなぞれるのはAGフィルムが貼
られた面であると回答した。
図2 書くことに対する好ましさの結果
見やすさに関しては、AGフィルムが貼られて
いないガラス面の方が好まれる傾向にあり、例え
ば、グラフの読み取りやすさを質問した課題7で
は、約75%の児童がガラス面の方を選択した。課
題11の「指をなめらかに動かせるのは、左側と右
側のどちらですか?」という質問に対しては、約
53%の児童がAGフィルム面、約42%の児童がガ
ラス面を選択し、回答が分散していた。
課題12において、蛍光灯が映り込んだ状態にお
ける資料の見やすさに対しては、約84%の児童が
AGフィルムの方を選択した。また、課題13では、
約69%の児童がガラス面において汚れが気になる
と回答した。
課題14の総合評価では、約75%の児童が、AG
フィルムが貼られた画面の方を、学校での学習に
使いたいと回答した(図3)。その理由として自由
記述された内容のうち特徴的であったのは、AG
フィルムを選択した児童92名中21名が、「目が疲
れないから」「目に優しいから」ということを理
由として挙げていたことであった。
図3 学校の学習で使いたい画面に対する結果
4.考察
小学校の授業におけるタブレット端末の利用方
法と学習場面に即した課題を設定し、児童を対象
としてAGフィルムの効果を検討した。
AGフィルムの主目的である、蛍光灯の映り込
みに対する効果が大きかったことに加え、AG
フィルムの装着により、タブレットペンで入力す
る際の書きやすさが向上することが示された。し
かし一方で、見やすさに関してはガラス面の方が
好まれた。これらの結果は、同じAGフィルムを
用いて、学校教員である成人を対象として行った
評価実験の結果と同じであった3)。また、視覚疲
労を感じにくいことを理由に、AGフィルムが貼
られた画面を学校での学習に使いたいと回答され
たことは注目に値するだろう。
今後は、児童生徒の学習を支援するためにどの
ようにICT機器を提供すれば良いのかをより詳細
に検討していく。また、視覚疲労の軽減など、児
童生徒の健康面に関する検討にも取り組みたい。
本研究にご協力いただいた小学校の教員及び児
童の皆様に感謝の意を表す。
参考文献
1) 柴田隆史,佐藤和紀,堀田龍也:“小学生の
タブレット端末利用における映り込みや身体
的疲労に関する調査,” 日本教育工学会研究報
告集 JSET16-4,pp. 71-78,2016.
2) Hultgren, G. V., & Knave, B.: “Discomfort glare
and disturbances from light reflections in an office
landscape with CRT display terminals,” Applied
Ergonomics, 5(l), pp. 2-8, 1974.
3) Shibata, T., Sato, K., & Horita, T.: “Tablet use in
elementary schools from ergonomic aspect,”
Proceedings of International Display Workshops
(IDW) 2017, pp. 9-12, 2017.
53% 22% 11% 9% 6%
12345
AG film Glass
59% 20% 7% 5% 11%
12345
AG film Glass