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Kinematic Wave 理論の近年の発展に関する
研究解説
和田 健太郎 1・瀬尾亨 2・中西航 3・佐津川功季 4・柳原正実 5
1正会員 東京大学助教 生産技術研究所(〒 153-8505 目黒区駒場 4-6-1
E-mail: wadaken@iis.u-tokyo.ac.jp
2正会員 東京工業大学研究員 環境・社会理工学院(〒 152-8522 目黒区大岡山 2-12-1
E-mail: t.seo@plan.cv.titech.ac.jp
3正会員 東京工業大学特任助教 環境・社会理工学院(〒 152-8522 目黒区大岡山 2-12-1
E-mail: nakanishi@plan.cv.titech.ac.jp
4学生会員 東京大学大学院 工学系研究科 博士後期課程(〒 153-8505 目黒区駒場 4-6-1
E-mail: kouki@iis.u-tokyo.ac.jp
5正会員 首都大学東京大学院助教 都市環境科学研究科(〒 192-0397 八王子市南大沢 1-1
E-mail: yanagihara@tmu.ac.jp
本稿では,道路上の交通流ダイナミクスを記述する標準的な枠組みである Kinematic Wave (KW) 理論の近年
の発展について解説を行う.具体的にはまず,KW モデルの従来の解析法を概説しその限界を述べた上で,交
通流の変分理論(VT)を解説する.また,様々な座標系(Euler 座標系,Lagrange 座標系)で記述される交通
流モデルが VT の枠組みにより相互に関係づけられることをみる.続く章では,上記の単一道路区間(リンク
でのモデルをネットワークに拡張するための理論について記述する.ここでは,多車線道路や交差点を対象に,
複数のリンクの境界面における交通流を決めるための条件や手法を解説する.
作成日:2017.2.24,最終改訂日:2017.2.25
Key Words: traffic flow, kinematic wave theory, variational theory, network flow, multi lane model, node model
目次
1. はじめに 2
2. KW モデルの概説と交通流の変分理論 2
(1) 時空間図・累積図・交通流の三次元表現 2
a) 時空間図と交通状態量 ...... 2
b) 累積図と交通流の三次元表現 .. 3
(2) Lighthill-Whitham-Richards モデル .... 4
a) LWR 方程式 ............ 4
b) 特性曲線法 ............. 4
c) 衝撃波と膨張波 .......... 5
(3) Newell KW 理論 ............. 5
a) 累積曲線と Hamilton–Jacobi 方程式 6
b) 特性曲線法 ............. 6
c) 最小包絡線原理 .......... 6
(4) 交通流の変分理論 ............. 6
a) 基本理論 .............. 7
b) 解法 ................. 8
3. 様々な座標系における KW モデル 8
(1) VT としての表現 .............. 9
a) N モデル .............. 9
b) X モデル .............. 9
c) T モデル .............. 10
(2) N, X, T モデルの等価性 .......... 10
(3) 各モデルの意義 .............. 11
(4) 様々な交通流モデルの関係 ........ 11
4. Demand/Supply アプローチ 11
(1) CTM Demand/Supply 関数 ....... 12
(2) リンク端における適切な境界条件 .... 12
5. 多車線道路における KW モデル 13
(1) 離散ネットワークアプローチ ....... 13
a) 状況設定 .............. 14
b) Incremental Transfer Principle ... 14
c) 多車線モデルへの拡張 ...... 15
(2) 単純連続アプローチ ............ 16
6. KW モデルのネットワーク拡張 16
(1) 分合流部におけるモデル ......... 16
a) 分流部におけるノードモデル .. 17
b) 合流部におけるノードモデル .. 17
(2) Invariance Principle ............. 18
(3) 一般的なノード .............. 19
1
7. おわりに 20
1. はじめに
交通流理論は,道路上の様々な交通現象を記述・解
析・予測するための枠組みであり,分析目的や時空間
スケール,表現する走行挙動の詳細度に応じて多数の
モデルが開発されている.これらは主に,車群を流体
として近似して交通状態の時空間進展をモデル化する
巨視的なモデルと,車両の走行挙動や車両間の相互作
用を直接モデル化する微視的なモデル,に大別される.
その歴史は,1930 年代の Greenshields1),2) の交通状態
量の間の関係のモデル化FD: Fundamental Diagram)ま
で遡ることができるが,1950 年代になると微視的・巨
視的モデル双方で現在の標準的な道具立てとなる理論
的枠組みが複数の研究者から独立に提案された 1.前者
が追従理論であり,後者が本稿で対象とする Kinematic
Wav eKW)理論(衝撃波理論)である.
KW 理論は,モデルが簡潔であり解析的にも数値的
にも取り扱いが容易でありながら,いくつもの交通現
象をよく表現することができるという特徴を持つ 2.そ
のため,多くの応用や交通シミュレーションとしての
実装が存在する.しかし,その理論の現在に至るまで
の発展は連続的なものというよりは,(多くの理論がそ
うであるように)重要な ジャンプによってなされて
きたとみることができる.
実際,Lighthill and Whitham3),4) Rihards5) により
独立に提案された KW 理論は,提案された 1950 年代
から長らく大きな理論的な発展は見られなかった.し
かし,1990 年代になって,その応用範囲は大きく広げ
る画期的な解析法・数値計算法が提案される.それが,
Newell6),7),8) による最小包絡線原理と,Daganzo9),10),11)
Lebacque12) による Cell Transmission Model (CTM)
ある.さらに,2000 年代に入ると,Daganzo13),14) の交
通流の変分理論VT: Variational Theory)の 提 案 に よ り ,
KW 理論の基本的な枠組みは完成しつつある.本稿 3
第一の目的は,この発展の経緯を踏まえつつ,交通流
の変分理論およびその応用を解説することである 4
一方,上記の単一道路における交通流ダイナミクス
解析のための方法論とは異なり,ネットワーク上の交通
1こうした世界的な交通研究への関心の高まりを受け,1959 年に第
1回の国際交通流シンポジウム(International Symposium on the
Theory of Traffic Flow開催された.以来,より広範な交通理論
を扱う国際運輸・交通流シンポジウムInternational Symposium
on Transportation and Traffic Theory, ISTTT)と し て ,現 在 に 至 る
まで交通分野の理論の発展に貢献している.わが国では,7
京都1977), 第 11 回横浜1990), 最 新 の 第 21 回神戸2015
と計 3回開催されている.
2KW 理論は現実の交通現象の第一次近似であり,交通流の不安
定性など,この理論では説明ができない重要な現象もある.
3本稿は和田ら 15) に大幅な加筆と修正を加えたものである.
4VT の近年の解説としては,Kuwahara16) もある.
位置
時間
x
t
車両速度
(地点計測)
(空間計測)
t=T
x=L
車両
i+1
i
xi(A)
0
A
領域
–1: 時空間図(time-space diagram
流の記述手法については,先の Daganzo10) による CTM
以来,大きな注目を集めてこなかった.しかし,2000
年代になり,Lebacque and Khoshyaran17) により,ネッ
トワーク上のノード(分流・合流・交差点)での交通流
を適切にモデリングすることの重要性やそのための条
件が指摘され,2010 年代に入るとその理論の体系化が
急速に進んでいる.本稿の第二の目的は,この体系の
解説である.また,ここでは,同様の手法による KW
理論の拡張とみなせる多車線道路におけるモデルにつ
いても紹介する.
なお,本稿は以上の理論に関係する文献を網羅的に列
挙することが目的ではなく,その基本的なアイディアや
枠組みを簡潔に解説することを目標としている.また,
数値計算法やシミュレーション手法についてはあまり
扱っていない.こうしたシミュレーション法に関する
研究やその他の交通流モデル(ミクロモデルや高次の
マクロモデルなど)については近年の教科書 18),19) を,
ここでは扱わない最新の研究については Hoogendoorn
and Bovy20) Mohan and Ramadurai21) などの近年のレ
ビューを参照にされたい.
2. KW モデルの概説と交通流の変分理論
本章では,まず (1) で,交通流の表現法や交通流分析
に必要な諸量の定義を与える.本章ではまず,(2)(3)
KW モデルの従来の解析法を簡単に解説する.その
上で,(4) で交通流の変分理論について述べる.
(1) 時空間図・累積図・交通流の三次元表現
交通流分析の最も基本は,その流れを描くことであ
り,この代表的な道具となるのが,時空間図time-space
diagram)と累積図(cumulative plot)である.
a) 時空間図と交通状態量
–1 に示す時空間図は,時間空間の二次元平面上で
車両軌跡を表したものである.横軸が時刻 t,縦軸
2
次元の道路上の位置 xであり,実線で描かれた各線が
各車両の走行軌跡を表している.走行軌跡の傾きは車
両速度を表し,連続する 2台の車両の水平距離を車頭
時間(headway), 垂 直 距 離 を 車 頭 距 離 ( spacing)とい
う.これらが個々の車両の動きを表す微視的な状態量
である.
交通流の平均的な状態を表現する巨視的な状態量に
ついては,交通流率,交通密度,速度がある.いま,
x=Lにおける水平方向の点線(地点計測)を考え
る.このとき,その地点を単位時間当りに通過する車
両台数を交通流率traffic flow rate), あ る い は 交 通 量 と
いう.一方,時刻 t=Tにおける垂直方向の点線(空間
計測)を考える.このとき,その瞬間に単位距離当た
りに存在する車両台数を交通密度traffic density)と
う.平均速度は,地点断面での車両速度の算術平均で
ある時間平均速度と,時間断面での車両速度の算術平
均である空間平均速度があるが,一般に後者が利用さ
れるため,単に「速度」といった場合には「空間平均速
度」space mean speed)を指す.
これら三つの状態量の関係を示すために,まず,交通
流率と交通密度のより一般的な定義を与えよう 22).い
ま,時空間図上の任意の領域 Aを考える–1 では長
方形).このとき,その領域の交通流率 q(A),密 度 k(A)
は以下のように定義することができる.
q(A)!ixi(A)/|A|,k(A)!iti(A)/|A|(1)
ここで,|A|は領域 Aの面積(=TL), ti(A)xi(A)はそ
れぞれ,各車両 iが領域 Aで費やす走行時間と走行距離
である.一方,空間平均速度は次のように定義される.
v(A)!ixi(A)/!iti(A)(2)
これらの定義式より明らかに,
q=kv (3)
が成立する.これは,交通流に関する最も基本的な関
係式の一つである.なお,(1) が,上述した各状態量
の定義の一般化となっていることは,微小な幅を持つ
地点断面(領域 A), 時 間 断 面 ( 領 域 A+)を考えるこ
とで確認することができる:
q(A)=(n·dx)/(T·dx)=n/T
k(A+)=(n+·dt)/(L·dt)=n+/L.
最後に,全ての車両n台)がある区間(距離 L)を
走行するような時空間領域 Aを考えてみよう.このと
き,定義式 (2) より,
v(A)=n·L
!iti(A)!iti(A)
n=L
v(A)
が成り立つ.ここから,区間の平均旅行時間が空間平
均速度から自然に導出されることがわかる.空間平均
時間 t
累積台数
x=L
x=0
自由旅行時間
車両
i
待ち時間
交通流率
旅行時間
待ち行列台数
存在台数
–2: 累積図(cumulative plots
速度が一般的に利用されるのは,(3) が成立すること
に加え,サービス指標の導出に適しているためである.
b) 累積図と交通流の三次元表現
–2 に示す累積図とは,ある地点 xを通過する累積
車両数の時間推移(累積曲線)を表したものである.横
軸は時刻 t,縦軸は累積交通量 N(t,x)"t
0q(t,x)dt
あり,実線で描かれた滑らかな各線がそれぞれ x=0,L
での累積曲線を表している.累積曲線は,本来,車両が
通過する毎に 1増加するという階段関数となるが,この
図では車両を連続体(流体)として近似している(従っ
て,出入りがない限り累積交通量がジャンプすること
はない).このとき,累積曲線の時々刻々の傾きは交通
流率を表す.また,異な2地点の累積曲線の垂直方
向の差は,(出入がなければ)その区間に存在する車両
存在台数を表しており,交通密度を算出可能である.
累積図は,時空間図のように 11台の詳細な車両
軌跡を把握することはできないが,渋滞現象(待ち行
列現象)を分析するための強力なツールである.いま,
出入りや追い越しのないFIFO: First–In–First–Out)道
路区間を考える.このとき,道路区間の最上x=0
最下流 x=Lの車の順序は保存されるため,各累積曲
線の同じ高さは同じ車両を表す.従って,2本の累積曲
線の水平方向の差はその高さに対応する車両の旅行時
間を表している.また,最上流の累積曲線を自由旅行
時間だけシフトさせた点線の累積曲線を考えると,そ
の区間を通過するために余分に費やした待ち時間,待
ち行列台数もわかる.–2 の網掛け部分はこの待ち時
間を車両について積分したものであり,その区間の総
待ち時間を表している.
最後に,時空間図と累積図の関係について述べてお
く.Moskowitz23), Makigami et al.24) は,累積曲線を
置について連続的に描いたときに現れる曲面を用いて
交通流を三次元表現する手法を提案した–3 .この
図において,位置断面は累積曲線を表しており,累積交
3
位置 x時間 t
累積台数
車両軌跡
(等高線)
累積曲線
–3: 交通流の三次元表現
通量軸方向から見ると時空間図が現れる.つまり,累
積交通量の等高線が車両軌跡となる.この表現は,待
ち行列現象と車両挙動を関係づける上で極めて有効な
手法である.なお,この局面 N(t,x)が微分可能である
とすると,交通流率,密度は,それぞれ,
q(t,x)=N(t,x)/t,k(t,x)=N(t,x)/x(4)
と表すことができる.
(2) Lighthill-Whitham-Richards モデル
a) LWR 方程式
Lighthill and Whitham3),4) の有名な論文 “On kinematic
waves” は,流体や交通流などに適用可能な一次元上の
波動理論を記述したものである.Richards5) は,独立に,
同様の流体力学的交通流理論を提案している.これら
の理論は,次の 2つの要素から構成されている:
1. 微分形式の車両数の保存則(連続式)
2. Fundamental DiagramFD
1. の保存則は,対象の道路区間に出入りがなければ,
時刻 tと位置 xについて滑らかな交通量 q(t,x),密度
k(t,x)を用いて以下のように記述される:
k(t,x)
t+q(t,x)
x=0.(5)
2. FD は,交通流観測から経験的に得られている交
通量と密度の関係であり,一般に交通量 q(t,x)が密度
k(t,x)に関する凹関数になることを仮定する(–4 ):
q(t,x)=Q(k(t,x),t,x).(6)
FD k[0,κ]で定義され,ある密度(臨界密度)で
最大交通量(容量)qmax をとる.また,(3) から明ら
かなように,この図の原点から FD 上の点の傾きは空間
平均速度となる.
–4: Fundamental Diagram
ここで,式 (6) を式 (5) に代入すると,密度 kのみの
方程式が得られる:
k(t,x)
t+x(k,t,x)k(t,x)
x=Q(k,t,x)
x(7)
x(k,t,x)Q(k,t,x)/k.(8)
(7) LWR 方程式 5と呼び,FD の接線の傾きを表す
(8) wave speed と呼ぶ.Wave speed のうち,特に
uを自由流速度(あるいは Forward WaveFW)速度
wBackward WaveBW)速度と呼ぶ.
b) 特性曲線法
LWR 方程式 (7) の標準的な解法は特性曲線法 (method
of characteristics) である.この方法は,偏微分方程式を
連立常微分方程式に帰着させるものである.
まず,wave speedi.e., dx/dt=x(k,t,x))で走行す
る移動観測者の軌跡 x(t)(特性曲線あるいは wave path
と呼ぶ)に沿った密度変化を考える:
dk(t,x(t))
dt=k(t,x)
t+x(k,t,x)k(t,x)
x.(9)
この式は,密度 kに関する常微分方程式であり,右辺
は式 (7) そのものに一致する.そして,移動観測者の速
度とそれに沿った密度変化を合わせることで,LWR
程式は以下の連立一次常微分方程式:
dx(t)/dt=Q(k,t,x)/k(=x(k,t,x))
dk(t,x(t))/dt=Q(k,t,x)/x
(10)
に帰着する.この方程式を与えられた初期条件・境界
条件の下で解くことにより(次節の例を参照),特性曲
x(t)および特性曲線上の密度 k(t,x(t)) が求まる.す
なわち,全ての初期条件・境界条件から特性曲線に沿っ
て密度 kを決定することができる.
FD が地点や時刻により変化しない一様な道路区間の
場合i.e., Q(k,x,t)=Q(k))は ,特曲線 沿った
変化は 0となる.すなわち,
dk(t,x(t))
dt=0dx(t)
dt=Q(k)
k=const.(11)
であり,特性曲線が直線となるため解析が容易となる.
5非線形双曲型偏微分方程式 (nonlinear hyperbolic partial differential
equation) である.
4
–5: リーマン問題(k1<k2:衝撃波の例
c) 衝撃波と膨張波
以上で求められる各地点の密度は,特性曲線が交わ
らない限りにおいて LWR 方程式の 正しい解である.
しかし,特性曲線が交わる場合,その地点において密度
が複数の値をとるという問題が生じる 6.つまり,この
地点で微分形式の保存則 (5) はもはや成立しない.ただ
し,この道路区間で出入りがない以上,車両数の保存則
は満たされるべきである.そこで,交通量・密度が微
分可能であるという仮定を緩め,再び保存則を導こう.
いま,密度の不連続点が速度 ωで移動するとし,そ
の上流の状態を (q1,k1,v1),下流の状態を (q2,k2,v2)
する.このとき,速度 ωで走行する移動観測者が不連
続点の上下流近傍で観測する交通量は一致しなければ
ならない.ここで,移動観測者が上流側で観測する相
対交通量 r1は,以下のように表される:
r1=(v1ω)k1=q1k1ω.(12)
また,r1=r2であるので,不連続点の移動速度 ωは,
q1k1ω=q2k2ωω=q1q2
k1k2
=
q
k(13)
と求まる.この速度 (13) に沿って進む曲線を衝撃波
(shock wave) と呼ぶ 7.衝撃波速度FD 上における
上下流の 2つの状態を結ぶ傾きに一致する.
その具体例をみるために,–5 ,–6 に示すリーマ
ン問題(Riemann problem8を考えてみよう.ここで
は,一様な道路区間を考えるi.e., 特性曲線は直線であ
る).第一の例は,密度 k1(x<0) が密度 k2(x>0) より
も小さい場合である.このとき,上流側の境界から生
じる特性曲線はどこかのタイミングで必ず下流側の境
界から生じる特性曲線に追いつく.そして,特性曲線
が交わる地点で衝撃波が発生し,特性曲線は消失する.
6このとき,LWR 方程式を満たすで連続かつ微分可能な(いわゆ
る古典的な意味での)解は存在しない.衝撃波等の不連続性を
伴う解を 弱解という.
7このような不連続面で満たされるべき条件は,一般に,ランキ
ン・ユゴニオ条件(Rankine–Hugoniot condition)と呼ばれる.
8初期条件に 1つだけジャンプを持つような初期値問題である.
リーマン問題は,対象とする偏微分方程式の解の特徴をつかむ
ために有用なほか,LWR 方程式の解析解を得る場合や適切な数
値解法を開発する際に重要な役割を果たす 12)
時刻
t
初期密度
k
k1
k2
k1
k2
Q(k)
–6: リーマン問題(k1>k2:膨張波の例
第二の例は,密度 k1が密度 k2よりも大きい場合であ
る.このとき上流側の境界から生じる特性曲線は,
流側の境界から生じる特性曲線に追いつくことはでき
ない.従って,時空間図上に,空白領域が生じること
になり,この領域では特性曲線法は何の情報ももたら
さない.さらに,困ったことに,この空白領域を覆う
ことができるランキン・ユゴニオ条件を満たす非物理
的な解は唯一ではない(e.g., 膨張衝撃波).では,その
ような物理的に不自然な解を排除する他の基準はどう
いうものであろうか?
ここでもう一度,–5 の衝撃波と特性曲線の関係を
思い出そう.特性曲線は時間に前向きに進むとき,衝
撃波と交わる点で消失する.逆に時間を遡ると,この
特性曲線はどの衝撃波とも交わることはない.つまり,
x(k1)>ω>x(k2)(14)
の条件を満たしている必要がある.これは,Lax の)
エントロピー条件(entropy condition)と呼ばれるもの
であり,大雑把に言えば,衝撃波から特性曲線が生じな
いこと,つまり,時間についてのある種の不可逆性(時
間の矢)を述べる条件である 25).そのため,熱力学の
第二法則とのアナロジーからその名がついたという.
この条件 (14) を考えると,空白領域の任意の点から
時間を遡るとき,特性曲線は衝撃波と交わるべきではな
い,ということになる.これを満たすのが–6 の点線
で示した扇型の膨張/希薄波 (expansion/rarefaction wave)
である.この解は,初期状態の密度の不連続性が崩れ
ながら時間が進展していくことを表している 9
(3) Newell KW 理論
前節において LWR 方程式の解は,特性曲線,衝撃波,
膨張波から構成されることをリーマン問題を通して見
た.しかし,一般の初期条件(や境界条件)を考えた場
合,上記の 3種類の波を組み合わせてその解を求める手
続きは非常に煩雑となる.本節では,そのような手続
きを全く必要としない手法「最小包絡線原理 (minimum
9なお,–4 中の三角形の FD7),26) を考えた場合,このような膨
張波は発生せず,空白領域との境界で 2本の衝撃波が発生する
i.e., 車群を保ったまま時間が進展する)
5
envelop principle)6)」について解説す る.Newell KW
理論では,先に紹介した三次元累積曲面の枠組みを用
いて LWR モデルを拡張することにより,待ち行列現象
と車両挙動を見事に統合している 16)
a) 累積曲線と Hamilton–Jacobi 方程式
LWR 方程式では密度 k(t,x)が未知変数であったが,
ここでは,累積交通量 N(t,x)を未知変数として考える.
対象とする時空間上に連続な三次元累積曲面が存在す
るとすると,必ず車両数の保存則は成立するため,この
理論で考えるべき要素は,FD けである.いま,累
交通量 Nと密度 k,交通量 qの関係 (4) を思い出せば,
FD は以下のように与えられる:
N(t,x)/t=Q(Nx,t,x).(15)
ここで,NxN(t,x)/x.この形式の偏微分方程式は,
Hamilton–JacobiHJ)方程式と呼ばれる.
b) 特性曲線法
特性曲線 x(t)に沿った累積交通量の変化を考える:
dN(t,x(t))
dt=N(t,x)
tx(k,t,x)N(t,x)
x
=Q(k,t,x)k(t,x)x(k,t,x)(16)
この式は,累積交通量 Nに関する常微分方程式であり,
右辺は移動観測者が観測する相対交通量 r(k,t,x)であ
る.そして,HJ 方程式は移動観測者の速度と密度およ
び累積交通量の変化に関する連立常微分方程式:
dx(t)/dt=x(k,t,x)
dk(t,x(t))/dt=Q(k,t,x)/x
dN(t,x(t))/dt=r(k,t,x)
(17)
に帰着する.この方程式を初期条件・境界条件の下で解
くことにより特性曲線 x(t),特 性 曲 線 上 の 密 度 k(t,x(t))
累積交通量 N(t,x(t)) が求まる.なお前節と同様に,
様な道路区間を考えたとき特性曲線は直線となり,そ
の直線に沿った累積交通量の変化は(密度が変化しな
いので)一定となる.
c) 最小包絡線原理
LWR モデル同様,特性曲線法により求められる累積
交通量は,特性曲線が交わらない限りにおいて HJ 方程
式の 正しい解である.しかし,ここでも特性曲線が
交わる場合に,累積交通量が複数の値を持つという問
題が生じる.そのため,物理的に尤もらしい解を得る
ためには,複数の累積交通量値のうち唯一な値を決定
するルールを特定する必要がある 10.結論を先に述べ
るならば,このルールは次のように表される 11:「 あ る
地点で実現する累積交通量は,初期・境界からその地
10 LWR 方程式に対するルールは,衝撃波および膨張波(ランキン・
ユゴニオ条件およびエントロピー条件)の導入である.
11 Luke27) は,同様の原理を土壌侵食に関する文脈で提案している.
点に到達する特性曲線上の累積交通量のうち最小のも
のである」.これを最小包絡線原理と呼ぶ.
なぜこのような原理が導かれるのであろうか? これ
は以下のように説明される.道路上での車両の動きは
より下流側の車両(累積台数の小さい車両)の動きに
影響を受ける.従って,ある地点のある時刻までにそ
こを通過することができる車の数は,より早い時刻に
そこを通過する車両の 制約(累積台数の上限値)を
超えるべきではない.この自然な因果関係を実現する
ものが,最小包絡線原理である.なお,最小包絡線原
理をとるとき,求まる累積交通量は時間的に空間的に
も連続的に変化するので車両数の保存則は満たされる
i.e., 累積交通量のジャンプが生じない)
最小包絡線原理の最大の利点は,その結果として衝
撃波経路が自動的に決まることである.より具体的に
は,複数の特性曲線上の累積交通量が同じ値になった地
点を衝撃波は通過するi.e., 累積曲面が微分不可能にな
12.これにより,特性曲線・衝撃波・膨張波を組
合わせて解を構成するという LWR 方程式の手続きが,
大幅に簡略化される.ただしそれでもなお,一般的な
状況設定に対しては面倒さが残る.というのも,特殊
な場合を除いて,特性曲線は 曲線となり,その全て
求める(連立常微分方程式を解く)ことは簡単ではない
ためである.実際,最小包絡線原理の適用が効果的な
のは,特性曲線が直線となる場合である.そして,この
ような一般的な状況下での KW モデルの解析法が,次
節で示す交通流の変分理論である.
最後に,交通流の変分理論との比較のため,最小包絡
線原理を数学的に表現しておこう.いま,一様な道路に
おける時空間上の地点 P=(tP,xP)の累積交通量 NP
求めたい.–7 に示すように,wave speed で地点 P
到達できる初期・境界上の点 B=(tB,xB)Bの累積交
通量 NBと密度 kBは与えられているとする.このとき,
累積交通量 NPは,地点 Pに到達する特性曲線(wave
path)群 WPの累積交通量値のうち最小のものである:
NP=min
WWP
.'NB(W)+
W(.(18)
W)tP
tB(W)
r(k,t,x)dtWWP.(19)
ここで,Wは境界から地点 Pまでの特性曲線上で予
測される累積交通量の変化である.
(4) 交通流の変分理論
交通流の変分理論 (variational theory of traffic flow) 14)
(以下,この手法を VT と呼ぶ)は,時空間上の各地点
の累積台数を求める問題を変分問題(最適制御問題)
して定式化するものである.この手法の交通解析上の
12 衝撃波上で交通量・密度が不連続になることに対応する.
6
位置
時間
x
t
到達可能な境界 の範囲
NP
wave path
NB(W)
B
valid path
u
w
境界密度に依存
kB(W)
W
(P)
境界条件と独立
–7: Wave path valid path
交通流率
密度
q
k
相対交通量
(q,k)
相対容量
x0(k)
移動観測者速度
–8: 相対交通量と相対容量
意義は様々であるが,大きく以下の点が挙げられよう:
1. 複雑な境界条件下の KW モデルを解析する統一的
な方法を与える(本章の a)
2. Dynamic Programming (DP) 原理に基づく効率的な
解法を与える(本章の b)
3. 様々な交通流モデルの関係づける統一的な見方を
与える(次章)
よりテクニカルな点としては,この手法により最小包
絡線原理の解の安定性を証明することができる 13
a) 基本理論
VT でも,状態変数は累積台数 N(t,x)であり,HJ
程式 (15) によりそのダイナミクスが記述される.
いま,時空間図上を速度 x(t,x)[w,u]で走行する
移動観測者を考える.このとき,移動観測者が実際に
観測する累積交通量の変化量(相対交通量)(16) を知
るためには,その移動軌跡上の密度 kが必要であり,
節ではそのために特性曲線法を用いたのであった.し
13 このことをイメージするには(第二の意義とも関連するが),こ
こでの変分問題が KW モデルの 等価最適化問題と考えるとよ
い.交通量配分理論の発展からもわかるように,Wardrop 均衡
モデルに対する Beckmann の等価最適化問題が見つかったこと
で,解の性質(存在,一意性,安定性等)を調べやすくなり,
た,問題を解く効率的なアルゴリズムも構築可能となった 28)
かし最小包絡線原理で見たように,特性曲線法で求め
られた累積台数値は(一旦,特性曲線が交われば)
限値として用いられるのであり,実際に実現する値を
知ることは必ずしも重要でない,とも考えられる.
そこで,移動観測者が観測可能な累積交通量の 最大
変化量を考える.これが,相対容量(relative capacity
と呼ばれ,VT において中心的な役割を果たす概念であ
る.相対容量は,以下のように与えられる 14
R(x,t,x)=supk[0,κ].{Q(k,t,x)kx(t,x)}.(20)
Qkについての凹関数であるので,(20) の最大化条
件は Q/k=xであり,移動観測者の速度 xFD
傾きが並行となる密度 kで最大値をとる(–8 .ま
た,移動観測者の速度 xwave speed x(k)に一致す
るとき,相対交通量と相対容量は一致する.
相対容量を導入する最大の利点は,相対容量 R(x,t,x)
が密度 k(初期条件や境界条件等のインプット・データ)
に依存しないことである.このことにより,[w,u]
の任意の速度 xで走行する移動観測者の軌跡valid path
と呼ぶ)に沿った累積交通量の変化の 上限を,その
軌跡に沿った密度変化と独立に評価することができる:
dN(t,x(t))/dt=r(k,t,x)R(x,t,x).(21)
いよいよ,ある地点 Pの累積交通量 NPを求める問
題を考えよう(–7 .まず,初期・境界 Bから速度
x[w,u]で点 Pに到達する valid path 群を VPとお
く( 当 然 ,WPVPの関係が成り立つ).ある valid path
Pを考えたとき,相対容量を用いれば,ある境界 B
ら地点 Pの累積交通量の変化の上限 (P)は,
(P)=)tP
tB(P)
R(x,t,x)dt(22)
である.ここで,(P)は経路 P関数である 15.こ
の累積交通量の変化の上限 (P)を用いれば,地点 P
累積交通量 NPの制約は以下のように書ける:
NPNB(P)+(P)PVP.(23)
さらに,交通流の自然な特性として,制約の中でなる
べく多くの交通が流れると仮定する:
sup
PVP
.NPs.t. NPNB(P)+(P)
NP=inf
PVP
.'NB(P)+(P)(.(24)
これが HJ 方程式 (15) の解を与える変分問題(最適制
御問題)である.より具体的には,目的関数は経路 P
の関数であり,NB(P)R(u,t,x)コストとみなせ
ば,問題 (24) は連続時空間上の最短経路問題と見るこ
とができる.また,この理論で求められる累積台数値
は,wave path 群が valid path 群に含まれること(i.e.,
14 RQFenchel-Legendre 変換である.
15 前節で定義した Wは経路の関数ではなく,特性曲線法(連立
一次常微分方程式)の結果として導かれる である.
7
WPVP), 特 性 曲 線 上 の 相 対 容 量 は 相 対 交 通 量 に 一 致
すること(従って,(W)=
W)を考 れば ,最小包
絡線原理で求めた累積台数値に一致することが容易に
示すことができる 13)
さらに,この理論では複雑な境界条件や状況を相対
容量という概念で統一的に扱うことができる.例えば,
時間や位置により FD が変化する場合は,その時刻・
置を移動観測者が横切る際の単位時間当たりの累積台
数の最大変化量(例えば,信号を考えるのであれば,
現示のときは飽和交通流率 qmax,赤 現 示 の と き は 0)を
与えてやるだけでよく,問題 (24) の複雑さ自体は変わ
らない.またプローブ車両の軌跡データのような(流
体ではない)境界条件も容易に扱うことができる.例
えば,この軌跡データを初期条件として考えるのであ
れば,その軌跡 Bに沿った累積台数値 NB=1とすれ
ばよい.そのため,多様なソーe.g., 感知器,プロー
ブ車両,bluetooth)か ら の 情 報 を 融 合 す る 手 法 と し て も
応用されている(例えば,文献 16),29) を参照)
b) 解法
三角形の FD が与えられている状況を考え,最短経路
問題 (24) を解くことを考える(より一般的な状況に対
する解法は Daganzo14) を参照)
VT では,問題 (24) を時空間上に構成した 離散的な
ネットワークにおける最短経路問題に帰着させ問題を
解く.このネットワークが持つべき性質は,
1. 各ノードからでるそれぞれのリンクの傾きは wave
speed(ここでは,w,uのいずれか)である
2. そのリンクのコストは相対容量で与える(ここで
は,FW 速度 uの傾きを持つリンクのコストは 0
BW 速度 wの傾きを持つリンクに沿って移動する
際の単位時間当りのコストは wt(=κx)である)
である.より具体的には,–9 に示すような FD を敷
き詰めたネットワークVT ネットワークと呼ぶ)を構
築すればよい.なぜなら,このようなネットワークに
は,(区分線形近似された)wave path が必ず含まれる
ためである.そして,ネットワーク上のノード Pの累
積台数値 NPは,問題 (24) と同様に,到達可能な境界
ノードからそのノードまでの多起点 1終点の最短経路
問題を解くことにより与えられる.
この解法は,LWR モデルの差分法Godunov 11),12)
である CTM9) に比べていくつもの優位性を持ってい
16.まず,一つは,計算効率が高いという点である
これは,DP 原理に基づくアルゴリズム(e.g., Dijkstra
16 CTM VT の解法の関係は赤松・和田 28) を参照.
–9: 時空間上の VT ネットワークと境界条件
17)が利用可能であるためである 18 .二つ目は,計
算精度が高いという点である.CTM FW 速度を基準
にセルを分割するため 19,下流側から BW 速度で伝わ
る波の伝播i.e., 特性曲線)が正確に表現できない.こ
れに対して VT に基づく解法では,それぞれ wave speed
に沿ったネットワークを考えているため,より正確な
計算が可能となる.
3. 様々な座標系における KW モデル
本章では,主に Daganzo31) Laval and Leclercq32)
基づき,3つの座標系における KW モデルについて解
説する.これらのモデルは,先述した tnxの三次元
累積曲面で表される交通流をそれぞれ異なる座標系に
おいてモデル化するものである.
より具体的には,この曲面を,tx座標系における状
態量 n」とした表現 N(t,x)によるモデルがここまでで
説明してきた KW モデルである.この座標系は時間・
空間に対して固定されており,Euler 座標系と呼ばれ,
古くから広く用いられる古典的な考え方といえる.一
方,同じ交通流に対し,tn座標系における状態量 x
とした表現 X(t,n)や,nx座標系における状態量 t
とした表現 T(n,x)も可能である.これらは車両と共に
(空間・時間に対して)移動する座標系であり,移動座
標系や Lagrange 座標系 33) と呼ばれる.同一交通流を
以上の 3つの座標系で表現したものを–10 に示す.ま
たここでは,Laval and Leclercq32) に従い,それぞれの
座標系におけるモデルを以下のように呼ぶ:
Nモデル N(t,x)を求める Euler 座標系のモデル
17 このネットワークはループを含まないため directed acyclic graph),
Dijkstra 法より高速なアルゴリズムも利用可能である(ヒープ・
ソートではなくトポロジカル・ソートに基づく)
18 さらには,一様な道路区間を全く分割しないリンク単位の解法
も容易に構築可能であり 14),ま た,離散的な ネッ トワークを
要としない解析的アプローチ(Lax-Hopf formula25))に基づ
効率的なアルゴリズムも提案されている 30)
19 差分法が不安定になることを防ぐためであり,一般に CFL (Courant-
Friedrichs-Lewy) 条件あるいはクーラン条件として知られている.
8
(a) tnx空間 (b) tx平面(Euler 座標系)
(c) tn平面(Lagrange 座標系) (d) nx平面(Lagrange 座標系)
–10: 様々な座標系での交通流の表現
Xモデル X(t,n)を求める Lagrange 座標系のモデル
Tモデル T(n,x)を求める Lagrange 座標系のモデル
3つの座標系における KW モデルは,同一の物理現
象を記述する様々な手法を提供しており,理論上興味
深い含意を見出せるほか,実用上有効な手段となりう
るといえる.例えば,問題としたい交通現象に応じて,
その表現を得意とするモデルを選択することができる.
さらに,これらのモデルを VT の枠組みで記述すること
により,従来提案されてきた交通流モデルを相互に関
係づけることができる.
(1) VT としての表現
a) N モデル
Nモデルは,先述したオリジナルの KW モデルと同
一である.比較のため再掲すると,
N(t,x)/t=Q(Nx).(25)
また,VT による表記は以下であった:
NP=infPVP.*NB(P)+(P)+
(P)="tP
tB(P)R(u,t,x)dt
(26)
–11: 速度車頭距離関係を表す FD
–10 (b) は解 N(t,x)の例(i.e., 累積台数の等高線,つ
まり,車両の軌跡)である.
b) X モデル
Xモデルにおいて,Nモデルの(q,k)に対応する変
数は,速度と車頭距離(v,s)である:
v(t,n)=X(t,n)/t,s(t,n)=X(t,n)/n.(27)
いま,q=v/sk=1/sの関係式を,式 (25) に代入して
整理すると,Xモデルは下式で表される:
X(t,n)/t=V(Xn)(28)
9
–12: 車頭時間ペース関係を表す FD
X(t,n)は車両 nの時刻 tにおける位置 (km)Vは速度
車頭距離関係を表す FD であり,V(s)=Q(1/s)sである
–11 を参照)
(28) Hamilton–Jacobi 方程式であるので,前章で
示した要領で変分問題を構成することができる.
XP=infPVX
P.*XB(P)+
X(P)+
X(P)="tP
tB(P)RX(q,t,n)dt
(29)
ここで,RX(η,t,n)
RX(q,t,n)=sups[1/kj,).{V(s,t,n)sq(t,n)}.(30)
で定義され,その意味は相対速度の最大値である.
変分問題 (29) の意味は以下のようになる.tn平面上
の点 P,す な わ ち ,nP番目 20 の車両の時刻 tPの位置 XP
を求めたい.この位置は,境界から点 Pに到達するす
べての valid path P群による制約:XPXB(P)+
X(P)
i.e., 時刻 tPに先行車両よりも進んだ位置にいない)
満たす必要がある.ここで,Nモデルが制約条件の中
で最も多く交通を流すと仮定したのと同様に,車両が
前に進める限り移動すると仮定する.すると,式 (29)
の第一式が得られる.–10 (c) は解 X(t,n)の例(i.e.,
位置の等高線,つまり,各位置の累積曲線)である.
c) T モデル
Tモデルにおいて,Xモデルの変数(v,s)に対応す
る変数は,車頭時間とペース(単位距離を進むのに要
する時間)h,p)である:
h(n,x)=T(n,x)/n,p(n,x)=T(n,x)/x.(31)
いま,v=1/ps=h/pの関係式を,(28) に代入し
て整理すると,Tモデルは下式で表される:
T(n,x)/n=H(Tx)(32)
ここに,T(n,x)は車両 nが位置 xに存在する時刻 (h)
Hは車頭時間ペース関係を表す FD であり,H(p)=
V1(1/p)pである(–12 ). Tモデルでは累積台数 n
が,Nモデル,Xモデルにおける時間 tに相当する.
20 ここでは,実数である.
(31) もまた Hamilton–Jacobi 方程式であるので,
下の変分問題を構成することができる 21
TP=supPVT
P.*TB(P)+
T(P)+
T(P)="nP
nB(P)RT(s,n,x)dn
(33)
ここで,RT(s,n,x)
RT(s,t,n)=infp[1/vf,).{H(p,n,x)+ps(n,x)}.(34)
と定義され,相対車頭時間の最小値を表す.
変分問題 (33) の意味は以下のようになる.nx平面
上の点 P,す な わ ち ,nP番目の車両の位置 xPの到達時刻
TPを求めたい.この位置は,境界から点 Pに到達する
すべての valid path P群による制約TPTB(P)+
T(P)
i.e., 先行車両よりも早い時刻に位置 xPに到着できな
い)を満たす必要がある.ここでも,車両がなるべく
く位置 xPに到達するように走行するとすると,式 (33)
の第一式が得られることになる.–10 (d) は解 T(n,x)
の例である.
(2) N, X, T モデルの等価性
以上の 3つのモデルは,等価な境界条件と FD が与え
られれば,それぞれが ntx空間内で構成する曲面が
(基本的には)互いに一致する 32) .例えばNモデルと
Xモデルでは,
N(t,X(t,n)) =n,X(t,N(t,x)) =x(35)
がほとんど全ての x,tで成り立つ 31).例外は,Nモデ
ルにて k=0となる場合であり,そのとき Xモデルに
s=な特異点が生じ,式 (35) の後者の式が成り立
たない(Xが多価関数になる).ただし,そのような場
合でも,Xモデルに新たな弱解 22e-solution と呼ばれ
る)を導入することで,Nモデルと等価な解を得るこ
とができる 34).従って,Nモデルと Xモデルは厳密に
等価 23 である 34),35)
一方,Tモデルは,Nモデルとの厳密な等価性は示
されていない.つまり,車両が停止した場合(特異点
p=), そ の 位 置 の Tは複数の値をとり,Tが多価関
数になる–10 (d) 中の不連続線).このような特異点
は,Xモデルの特異点とは異なり,頻繁に生じうる.た
だし,この問題も(理論的には未解決であるが),実際
上は数値計算法の工夫で回避できると考えられ 24,大
きな問題とはならないであろう.
21 Nモデル,Xモデルと Tモデルで最大/最小が逆転しているのは,
FD が凸関数であるためである.
22 LWR モデルにおける特異点(密度の不連続点)の問題を解決す
るのが衝撃波であった.また,衝撃波上の点は Nモデル(およ
X, T モデル)でも特異点である(i.e., 微分不可能).この問
題に対しては(実は)粘性解という弱解が導入されている.
23 Daganzo31) ではこの等価性を「双対性(duality)」 と 呼 ん で い る .
24 例えば,Tモデルの解を与件として,Xモデルにより停止挙動を
補完することもできるであろう.
10
(3) 各モデルの意義
NXモデル間の等価性の重要な含意として,交通流
の流体近似に基づくマクロモデルと,追従モデルに基
づくミクロモデルの等価性がある 25.つまりKW
論において,マクロな交通流の挙動がミクロな各車両
の行動原理によって基礎づけられるという意味であり,
物理モデルとして非常に好ましい性質である.
具体的には,–11 に示した区分線形の FD を考え,
Xモデルの VT 表現 (29) を適当に離散化すると,
X(t,n)=min .
X(tτ,n)+vfτ,
X(tτ,n1) 1/kj
.(36)
が得られる.これは,車両 nの時刻 tにおける位置は,
その τ時刻前の交通状態に基づき決まる,という追従
モデルとして解釈できる.つまりτは反応遅れ時間に
相当する変数であり,車両 nは自由流時には速度 u
走行し(min 内第一項),渋滞時には先行車両 n1
対し安全車頭距離を確保するよう走行する(同第二項)
(36) からも明らかになようにこれは,Newell の単純
追従モデル 38) そのものである.
交通流モデリングの柔軟性という観点からはこれら
のモデルには違いがある.すなわち,モデルによって,
容易に考慮できる異質性が異なる.現実の交通流には,
様々な要素に依存した異質性があるが,実際上重要な
異質性の例として,位置固有の要素としての地点ボト
ルネックや,車両固有の要素としての運転挙動が挙げ
られよう.これらの異質性を,KW 理論においては基
本的に FD の変化によって記述するため,Nモデルは位
置・時刻に依存した異質性を扱うことができることに
なる.それに対し,Xモデルでは位置固有の要素の考
慮は難しいが,車両固有の要素を容易に考慮できる 39)
Tモデルは位置・車両固有の要素を容易に考慮できる.
さらには,解法という意味でもそれぞれのモデルで
異なる特徴を持つ.例えば先にも述べたように,LWR
モデルの Godunov 法である CTM VT に基づく解法
は一般に一致しないが,Xモデルでは,保存則形式:
s(t,n)
t+v(t,n)
n=0(37)
Godunov 法により離散化したモデルと,VT を離散
化したモデル (36) が比較的緩い現実的な条件のもとで
互いに一致する.これは,Xモデルの FD が単調であ
るという特徴によるNTモデルでは成立しない)26
25 なお,マクロとミクロの等価性はある種の高次交通流モデルの場
合にも議論されており(e.g., Aw et al.36)), よ り 一 般 な 流 体 近 似
モデルと追従モデルを相互に変換する手法も提案されている 37)
26 この特性は,データ同化による交通状態推定 40) への応用の際
に有用となる.なぜなら,Xモデルでは Godunov 法がより簡便
な風上差分法に帰着され,微分可能となるためである.つまり,
計算コスト・精度の観点から効率的な推定が可能となる 33),41)
一方,Nモデルは微分不可能であり,推定上の問題e.g., Monte
Carlo 法の必要性)が生じる 42)
(a) Xモデル
(b) Tモデル
–13: X, T モデルの VT ネットワークと境界条件
すなわち,特性曲線の傾きが非負であり,情報が時間経
過により一方向(nが減少しない方向)にのみ伝わる.
これを可視化したものとして,–13 (a) Xモデルの
VT ネットワーク(および境界条件)を示す((b) T
モデルのネットワークである)
(4) 様々な交通流モデルの関係
ここで述べてきた N, X, T モデルの関係を用いると,
従来提案されてきた様々な交通流モデルの関係性を整
理することができる 31),32).より具体的には,様々な数
値計算・シミュレーションモデルやセルオートマトン
モデル(e.g., 有名な Nagel–Schreckenberg モデル 43)
特殊ケース)が,採用する座標系(あるいは状態変数
N,X,T)と 離散化する変数の数t,x,nのいずれか
または全て)という 2つの軸を用いて分類される.す
なわち,VT は交通流モデルに対する統一的な見方を提
供しているとも言えるであろう.
4. Demand/Supply アプローチ
ここまでの章でみてきたモデルは,単一道路区間・単
一車線の交通流を対象としていた.本章の後に続く 2
つの章では,KW モデルを空間的に拡張する手法につ
いて解説を行う.より具体的には,次章では,複数車
線を持つ単一道路区間のより現実的な交通流ダイナミ
クスを記述するための KW モデルについて述べる.ま
11
–14: 道路区間のセルによる表現
6. では,KW モデルを用いてネットワーク交通流を
記述するために必要不可欠である交差点のモデリング
(以下,ノード・モデルと呼ぶ)について解説を行う.
これらの拡張の動機や問題とする交通現象は当然異
なるが,拡張の基本的なポイントは「リンクダイナミク
スとの整合性を保ちながら,どのように複数のリンクの
境界を互いに結びつけるのか?」という点で共通してい
る.そしてその問いに答えるための基本となる枠組み
が,CTM の構築に際して導入された “Demand/Supply
アプローチである 11),12).本章では,以降の章の準備と
して,このアプローチを概説する.
(1) CTM Demand/Supply 関数
CTM27 は,LWR モデルに対する Godunov 法であり,
道路区間を長さ xのセルに分割し,セル単位での交通
流をモデル化する.セルは単位時間 tに自由流速度で
進む距離 utで分割される:x=ut.この離散化さ
れた時空間上の点 (t,x)において,LWR モデルにおけ
る交通流率 q(t,x),密k(t,x)に対応する変数を次のよ
うにそれぞれ定義する:
ni(t):時刻 tにセル i内に存在する車両台数,
yi(t):時刻 tt+tにセル iを流出する交通量.
ここで,ni=kix,yi=qitである.
これらの状態変数のダイナミクスを記述するための
要素は,LWR モデル同様,交通量保存則と FD であり,
FD としては区分線形のもの(ここでは三角形)を仮定
する.具体的には,セル iの交通量保存則は,
ni(t+t)=ni(t)+yi(t)yi+1(t).(38)
と表される.一方,セル断面を流れる交通量 yi(t)は以
下のように与えられる:
yi(t)=min /ni1(t),qmaxt,(w/u)[nni(t)]0(39)
=min /uki1(t),qmax,w[κki(t)]0t.(40)
(40) より,yi(t)FD によって決まっていることが
見てとれる.この式の重要な点は,FD の自由流部分は
セル断面の上流側交通状態 ni1(t)にを用いて表されて
27 同種の方法は,日本では 1970 年代にブロック密度法として開発
されていたが,1990 年代に Daganzo9),10),11) によって LWR
デル (5) に対する Godunov 法としてフォーマライズされ,その
存在が広く知られるようになった.
–15: FD Demand/Supply の関係
おり,渋滞流部分は下流側交通状態 ni(t)で表されてい
ることである.これは,交通密度が wave speedi.e.,
由流時は正の速度,渋滞流時は負の速度)で進展する
ことと整合的である(2. (2) b) 特性曲線法を参照)
より直感的には,右辺第一項(および第二項)は上流側
からセル断面に流入可能な交通量を表しており,第三項
(および第二項)はセル断面の下流側で受け入れ可能な
台数を表す.これらはそれぞれ,“demand” D“supply”
Sと呼ばれ 28,次のように定義される(–15 ):
D(k)Q(min{ko,k}),S(k)Q(max{ko,k})(41)
ここで,koは臨界密度である.これらを用いると,上
述の CMT(39) は,上流側需要制約と下流側供給制約の
下での交通量最大化として解釈することができる:
max .yi(t)s.t. yi(t)D(ki1(t))t,yi(t)S(ki(t))t.
以上の Demand/Supply アプローチは,LWR モデルの
リーマン問題(2. (2) c) 衝撃波と膨張波を参照)を
解くことと等価であり 29,かつ,交通流モデルの分析
にあたって極めて直感的な解釈を可能とする.そのた
め,交差点など空間的に不連続な地点(境界)での交通
流モデリングにおける有用なツールとなる.
(2) リンク端における適切な境界条件
Demand/Supply アプローチのもう一つの重要な役割
は,リンク内の交通状態を唯一に定めるための適切な
境界条件を与えることである.すなわち,ここまでは
初期条件とリンク上下流端の境界条件が与えられれば
KW モデルによりリンク内の交通状態を一意に決定で
きるとしてきたが,そこには暗に初期・境界条件が互
いに整合していることが仮定されていた.しかし現実
には,データの観測誤差やデータソースの違いなどか
ら初期・境界条件が整合しない状況は容易に生じうる.
28 Daganzo11) では,これらをそれぞ“sending flow”“receiving
flow”と呼んでいる.
29 初期密度を ki1(t),ki(t)としたリーマン問題を解いた結果,セル
断面の交通流率として qi(t)が得られる 12)
12
–16: Demand/Supply とリンク端の境界条件
そして,そのデータの下では KW モデルは ill-posed
問題となるe.g., 解が唯一でない,解が存在しない等)
そこで,与えられたデータをそのまま KW モデルへ
の入力とするのではなく,リンクの demand/supply
介して適切な境界条件に変換するというのが,ここで
の問題解決手法である 17).そしてこの手法は,次章以
降の KW モデルの空間的な拡張の基礎とも言える.な
ぜなら,Demand/Supply アプローチを用いている限り,
リンクの KW モデルには適切な境界条件が与えられる,
すなわち,車線間や交差点における交通流モデルを考
える際に,リンクの KW モデルとの整合性を心配する
必要性が(基本的には)なくなるためである.
具体的にその手法を記述しよう.いま,時刻 tにお
いてリンク x(0,l)上に密度 k(t,x)が与えられている
とする.また,リンク上流端の交通量データ q(t,0),リ
ンク下流端の交通量データ q(t,l)が与えられたとする
–16
30.このとき,適切なリンク上流端・下流端の
密度(境界条件)は,リンクの demand/supply を用いて
以下のように与えられる 12),17)
k(t+,0) =
D1(q(t,0)),q(t,0) S(k(t,0+))
k(t,0+),q(t,0) >S(k(t,0+))
(42)
k(t+,l)=
S1(q(t,l)),q(t,l)D(k(t,l))
k(t,l),q(t,l)>D(k(t,l))
(43)
ここで,+/は右側/左側極限を表す.この条件は一見
複雑であるが,この境界条件を交通量で表示すると,
q(t+,0) =min{q(t,0),S(k(t,0+))}(44)
q(t+,l)=min{D(k(t,l)),q(t,l)}(45)
であり,CTM と同様の条件を表していることがわかる.
5. 多車線道路における KW モデル
実際の道路は複数の車線からなる場合が多く,多車
線ならではの現象が実際上重要となることがある.例
えば,高速道路での織り込み区間や出口付近での車線
変更による交通流の効率低下や,通常車線と追越し車
線の性質の違い,車線毎の交通運用・制御などがある.
こうした車線変更を伴う多車線道路の交通流のモデル
化は,主に 2つの観点からなされてきた(a) 車線変更の
30 ここでのデータは 観測データのみを意味するのではなく,リ
ンクの KW モデルとは別のモデル(e.g., ノード・モデル)によ
り決まる交通量とも解釈される.
各車線に対応するリンク
車線間をつなぐ仮想的なノード
・・・
・・・
–17: 離散ネットワークによる多車線道路の模式図
意思決定モデリング;(b) 車線変更が周辺交通へ与える
影響のモデリング.このうち,(a) は微視的なモデルに
基づくものであり膨大な研究蓄積がある 44).一方,(b)
はその重要性にも関わらずその研究は限られている.本
章ではその数少ない (b) に関するモデルを解説するが,
その概要は以下の通りである:
離散ネットワークアプローチ(本章 (1)): 多 車 線 リ
ンクを,車線を明示的に考慮してモデル化する 45)
数値計算により解を求める際には,短い単一車線
リンクが並列に並び,かつそれが直列に並んでい
るネットワークとして離散化する 46).それぞれの
車線の交通流は通常の KW モデルで記述されると
いう意味で,KW モデルと整合的である.ノード
部における車線変更の動機や,車線の性質の考え
方に応じて異なるモデルが提案されている 47),48)
単純連続アプローチ(本章 (2):車線を明示的に
考慮せず,車線変更による交通流の効率性低下の
みを表現する 49).織り込み区間などでの現象を簡
潔に表現するために提案されたものであり, KW
モデルと整合的である.
(1) 離散ネットワークアプローチ
多車線リンク内の車線を考慮する離散ネットワーク
アプローチでは,それぞれの異なる車線に,異なる別々
の状態を割り当てることで車線の区別を明示的に行う.
CTM のように)道路を空間的に離散化した場合
17 のように,各区間内の各車線がリンクとなり,区間
間でノードを介して接続されたより高次のネットワー
クとして交通流がモデル化される.このモデリン・ア
プローチの利点は,車線別の交通量や平均速度などを
扱うことで車線別の交通管制・交通制御などに応用が
できる点にある.
より具体的には,このアプローチでは,各車線 l毎に
区別して微分形式の保存則を考える 50)
kl(t,x)
t+ql(t,x)
x=1
l!l
[ΦllΦll]l=1,...,n(46)
ここで,Φllは車線 lから車線 lへの車線変更流率であ
り,この特定化により様々なモデルが考えられる.
以降では,まず,本アプローチの根幹となる Φllの計
算原理 “Incremental Transfer (IT) Principle”2車線道
13
C: 2-pipe congested
B: semi-congested
A: free flow D: 1-pipe congested
ko
(fpko/n,frko/n)
(fp/n,fr/n)
fr/fp
kp
kr
–18: 2種類の車両・車線における交通状態
路を例に説明する.その上で,3車線以上の拡張や Φll
の様々な特定化例について説明する.
a) 状況設定
Daganzo et al.46) に基づき,2種類の車両が 2種類の
車線を走行する単純な状況を考える.2種類の車線は通
常車線と優先車線,2種類の車両は,通常車線のみを走
行できる通常車両,どちらの車線も走行できる優先車
両として区別される.通常車線と優先車線の車線数を
それぞれ fr,fpとし( fr+fp=n), 全 車 線 の 密 度 を kT
全車線の通常 車両の密度を kr,優先 車両の密度を
kpとする.また, fr本の通常車線群の密度を ˆ
krfp
の優先車線群の密度を ˆ
kpとする.さらに,車線変更
ない定常流における車線種類別の速度は,車線種類別・
1車線あたりの密度 ˆ
kr/fr,ˆ
kp/fp(あるいは車頭距離)
関数である FD (28) を用いて,
vr=V(ˆ
kr/fr),vp=V(ˆ
kp/fp)(47)
と表せると仮定する.
以上の状況設定の下,優先車両はより速く移動でき
る車線を選ぶことができるため,車線変更のない定常
流においては優先車線の速度は通常車線の速度以上と
ならなければならない:vrvp.また,優先車両はよ
り速く走行するという原理により車線選択を行ってい
るのであれば,定常流における車線選択均衡条件は次
のように述べることができる:優先車両が存在するす
べての車線において速度は均一である.この条件を定
式化すると,
ˆ
kr=kr,ˆ
kp=kpif vr<vp
ˆ
krkr,ˆ
kpkpif vr=vp
(48)
vr<vpの状態は通常車両と優先車両が分離している状
態であり,“2-pipe regime”と呼ばれ,vr=vpの状態は,
通常車両と優先車両が混在した 1つの流れであること
から “1-pipe regime”と呼ばれる.
定常流で実現するすべての4つの)状態を 2種類の
車両の密度ペア (kp,kr)平面で表現したものが–18
ある 31.自由流状態 Aでは,各車両が自由流速度 u
走行する.通常車両が優先車両より比率が高くi.e.,
kr/kp>fr/fp,かつ,通常車両の密度がその臨界密度
frko/nよりも高い状態 B, C では,優先車両と通常車両
2種類の車線へ分離する.優先車両の比率が通常車
両より高く,かつ,臨界密度より密度が高い状態 D
は,2種類の車両の速度が一致する.
最後に通常・優先車両それぞれの交通量:
qr=krvr,qp=kpvp(49)
について述べておこう.–18 における破線は総交通量
qr+qpの等高線を示しており,状態 Aと状態 Dの境界
(太線)において,総交通量は最大となる.この交通量
1-pipe regime の交通容量を表している.一方,状態
Aと状態 Bの境界では,優先車線の交通量 qpが一定の
とき,通常車両の交通量 qrが最大となり,2-pipe regime
における交通容量を規定することになる.
b) Incremental Transfer Principle
さて,いよいよ式 (46) を時空間に離散化し,計算す
ることを考える.より具体的には,–17 で示したよう
なネットワークを考え,微小区間・微小な時間間隔の間
において実現される(ノードを通過する)車線別交通量
(qr,qp)(および,車線間の遷移交通量 Φll)を求める.
いま,ノード上流側の通常・優先車線の demand
(Dr,Dp),ノード下流側の通常・優先車線supply
(Sr,Sp)とする.これらの値は,2種類の車両密度 (kp,kr)
に応じて与えられる(–18 .すなわち,交通状態が
1-pipe regime にあるときは,
Dr=Q(min{ko,kT})kr/kT,Dp=Q(min{ko,kT})kp/kT
Sr=Q(max{kT,ko})fr/n,Sp=Q(max{kT,ko})fp/n
と定義され,2-pipe regime では次のように定義される:
Dr=Q(min{frko/n,kr}),Dp=Q(min{fpko/n,kp})
Sr=Q(max{frko/n,kr}),Sp=Q(max{fpko/n,kp}).
IT principle はこの demand をある特定のルールに従っ
て徐々に下流側の supply に流していき 32,最終的に実
現する交通量を求めるものである.いま,–19 の上図
の灰色領域に demand ペア (Dr,Dp)があり,それぞれの
軸に示した supply (Sr,Sp)が与えられていたとしよう.
この状況を模式的に表したのが,–19 の真ん中の図で
ある.Supply 側はそれぞれの車線数に対応した幅を持
つ( 高 さ は 同 じ )貯 水 槽 と し て 表 現 さ れ ,灰 色 で 表 さ れ
る流体の高さが混雑度,残りの部分が受け入れ可能な
supply を表している.この状態に対して,以下のルー
31 通常の交通量密度曲線が,密度によって交通状態を自由流/渋滞
流と判別するのと同様に,この図も密度ペアによって交通状態
を判別することができる.従って,この図は 2種類の車両・車
線に対する一種の FD とみなすことができる.
32 ここで,徐々に流すとは,FIFO あるいは車両の構成比を保ちな
がら流すことを意味している.
14
Dr
Dp
Sr
Sp
Sr+Sp
Sr/Sp
fr/fp
Dp
Dr
Sp
Sr
fr
fp
qp
qr
–19: IT principle の模式図
Dr
Dp
Sp
Sr
Sr+Sp
Sr/Sp
(Dp,Dr)
(qp,qr)
–20: IT principle により実現する交通量
ルに従って demand を流したとき,最終的に実現する交
通量が–19 の下図の濃い灰色で表される部分である.
通常車両の demand は通常車線の貯水槽に流す
優先車両の demand は通常・優先車線のより空いて
いる(流体の高さが低い)貯水槽に流す
すべての demand が流し終わるか,いずれかの sup-
ply が満たされた場合にその手順を終了する
また以上の手順を様々な demand ペア (Dp,Dr)に適用
し,最終的に実現する交通量 (qp,qr)をまとめたのが
20 である.この図では,白丸が与えられdemand ペア,
矢印の先が最終的に実現する交通量を表している.つま
り,demand supply を下回るi.e., 交通容量以下の)
色領域に与えられたとき,demand がそのまま交通量と
して実現する.一方,demand supply を超える領域で
与えられたとき,2-pipe regimei.e., Dr/DpSr/Sp)で
は各交通量はそれぞれの supply に一致し,1-pipe regime
i.e., Dr/DpSr/Sp)で は 総 supply が各車両の demand
比でそれぞれの車両に割り当てられる状態が実現する.
ll
x1+
!"
ll
x1!
"#
l
q
x!
ll
Lx 1+
!
ll
Lx 1!
"
l
T
l
S
Dl+1
Dl
Dl1
TDl
–21: 多車線区間の Demand/Supply
またこのルールは以下の式でも表すことができる:
qr=min{Dr,Sr},qp=min{Dp,Sp}if Dr/DpSr/Sp
qp+qr=min{Dr+Dp,Sr+Sp}and qp/qr=Dp/Dr
if Dr/DpSr/Sp
後者はさらに,次のように書き換えられる:
qr=Drmin 21,Sr+Sp
Dr+Dp3,qp=Dpmin 21,Sr+Sp
Dr+Dp3
(50)
IT Principle に基づく実現交通流は,すべての車両の
車線選択が走行速度をより高くしようと走行するとい
う仮定に矛盾しない状態を保持している.加えて下流
の車両から車線変更の状態が決定されていく場合には,
上述した仮定に矛盾しない状態の交通流が常に実現さ
れる.なお,IT principle は,(46) Godunov 法と等
価であり,数学的に(あるいは機械的に)実現交通量を
決める式を導くこともできる.ただし,IT principle
物理的な意味が直感的に分かりやすく,また,ここの状
況設定に限らず応用可能な基礎原理として重要である.
c) 多車線モデルへの拡張
次に,3車線以上に対応可能な交通流モデルについて
Laval and Daganzo47) に基づき説明する.まず,各車線
demand/supply –21 のように定義する.具体的に
は,単位距離当たりの車線 lから車線 lへの demand
Lll,車線を推移しない demand Tl,車線 lsupply
Slとする.また,車線 lへの demand の合計は下式
のように表せる.
TDl=Tl+!l!lxLll(51)
一般的な多車線の場合,すべての車両はすべての車
線に移動可能であり,2車線の例における車両が混在
している状態が常に実現されると考えられる.従って,
交通流が IT principle に従うとき,実現する交通量は式
(50) に類似した以下の式で与えられる.
ql=Tlmin
1,Sl
TDl
,Φll=Lllmin
1,Sl
TDl
(52)
ただし,この時点ではまだモデルは完全に指定されて
おらず,車線変更の demand Lllをどのようにモデル化
するかがモデリングの主なポイントになる.
15
この demand には,速度などに基づくドライバの車線
選好のほか,下流の分合流の影響などさまざまなもの
が影響するため,そのモデル化には様々なものが考え
られるが,以下では車線間の速度や車線選好に基づい
た代表的な例を 2つ紹介する.
Laval and Daganzo47) では,速度差に従うモデルとし
て,以下のような Lllを提案している:
Lll=Dl
x
vll
uτ(53)
ここで,vllが車線間の速度差であり,車線変更の de-
mand が速度差に比例する.また,τはドライバが車線
変更を決め,実行するまでにかかる時間に相当するパ
ラメータである.この研究ではさらに,車線変更する
車両を moveing bottleneck となる粒子として扱い,後続
車両への影響も考慮している 33
Shiomi et al.48) では,車線利用率の均衡状態を表現す
るために,以下のような関係式に基づくモデリング手
法を提案している:
Lll=1
τx
exp(θc(kl))
!l!lexp(θc(kl))Dl(54)
ここで,θは分散パラメータであり,c(kl)は密度 kl
ついての単調増加な車線コスト関数である.そして,
れらのコストとパラメータに従う選択モデルに従う均
衡車線選択確率に比例して Lllが決まるとされる.
(2) 単純連続アプローチ
前節で解説したアプローチでは,いわゆる discretionary
な車線変更行動の下での多車線交通流のモデル化が主
眼に置かれており,その動機を記述するためにモデル
が複雑化していた.一方,mandatory な車線変更行動の
みを考慮する単純なモデルも提案されている.
Jin49) は,単一リンク中の OD の異なる車両群を想定
し,多車線交通流をモデル化した.このモデルでは,
車両がリンク下流端で所定の車線を走行する必要があ
ると仮定し,その必要を満たすための車線変更(錯綜)
行動により交通流の全体的な効率性が低下する現象を
表現している.より具体的には,車両が車線変更中は
2車線を占有し(–22 ,見かけ上の密度が 2倍にな
ることに着目している.なお,常に 1-pipe 流であると
仮定されており,discretionary な車線変更は生じない.
本モデルは,保存則形式で
k
t+kV(k(1 +ϵ(t,x)))
x=0(55)
と定式化される.ここに,ϵ(t,x)は時刻 tの位置 xにお
ける車線変更の激しさを表す.つまり,式 (55) は,車
線変更する車両が多ければ多いほど見かけ上の密度が
33 前節のような流体モデルでは,車両は無限大の加速度で車線変
更できることになっており,車線変更時の後続交通への影響を
過小評価していた.
–22: 単純連続アプローチでの車線変更の模式図
大きくなり流率が低下することを意味している.ϵは全
車両数,車線変更する車両数,一台の車両が車線変更
に要する時間(これは車両速度,車線幅,車線変更時の
車両移動方向によって決まる)によって現象論的にモ
デル化されている 34
以上のように,本モデルは,KW モデルに特定の位
置・時刻 依存 FD を導入して多車線交通流を表現してお
り,扱い易いシンプルなモデルである.そのため,織
り込み区間がボトルネックとして働く現象や,その緩
和策(例:ϵ(t,x)x方向に均一にする)の検討に力を
発揮するといえる.一方で,常に 1-pipe 流であるとの
仮定は,車線毎の密度は同一であることを暗に要求し
ており,車線毎に交通状態が大きく違う状態(例:出口
付近の渋滞,分流部での queue spillover)は扱えない.
6. KW モデルのネットワーク拡張
KW モデルをネットワークに拡張するために必要不
可欠なノードモデルの役割は,ノードに接続するリン
クの demand/supply に基づき,実際にノードを通過する
交通量を決定することであり,この点では 5.(2) で解説
した IT principle と変わりはない.しかしながら,一般
的な交差点では,実現しうる交通状態は組み合わせ的
に増加するため5.(1) では高々 4つであった),その中
から物理的に意味のある解を絞り込むための条件を適
切に設定する必要がある.本章では,最も単純な分合
流モデルからより一般的なノードモデルへと解説を進
めながら,それらの条件を順に述べていく.
なお,多くのモデルにおいて,ノードは point-like に,
すなわち,物理的な領域を有しない点として扱われて
おり,本章で説明するモデルもこれに該当する.この
場合,ノードを介して衝撃波が上流に伝播するのは,
流側リンクの容量が上流側リンクからの交通に対して
不足しているためである 35.一方で,現実には,ノー
ド内での交錯により制約が発生する場合もある 36.こ
の影響を扱うモデルは,本章の最後で簡単に述べる.
(1) 分合流部におけるモデル
本節では,ネットワーク交通流の最も基本的な要素
である分合流部を対象に,各ノード上で満たされるべ
34 Jin51) は,この ϵを行動論的にi.e., ドライバの運転挙動特性に
より)定める手法を提案している.
35 高速道路における合流や分流が該当する.
36 都市部の平面交差,ラウンドアバウト等が該当する.
16
–23: 分流部を持つネットワーク
き(エントロ ピー)条件と 代表的なモ デルを概説 する
ここでは,単路のモデルに対して追加的に必要となる
パラメータ(分流における分岐率および合流における
優先率)を導入する.
a) 分流部におけるノードモデル
–23 に,分流部を持つネットワークを示す.このネ
トワークにおいて,ノード上流(下流)リンク i{i=1,2,3}
で実現する流出(流入)交通量を qidemand Disupply
Siとする.このとき,交通量 qiが満たされるべき制
約条件は次のようにまとめられる:
1. 車両台数の保存則:q1=q2+q3
2. Demand/supply との整合条件 &非負条件:
0q1D1,0q2S2,0q3S3.
3. 分岐率の条件(FIFO 原則 52) の成立)
q2=f12q1,q3=f13 q1,f12 +f13 =1.
ここで,fij は上流リンク iから下流リンク jへの分
岐率を表す(ここでは簡単のため fij >0とする)
ここで導入された分岐率は,ネットワークにおける経
路選択から決まってくるものであり,交通流モデルの
中では基本的には外生的に与えられる 10)
この制約を満たす交通量は一般にいくつも考えられ
るが,その中でどのような解が交通流として自然であ
ろうか.その答えの 1つは,交通流の変分理論や CTM
の解説で度々言及してきた「制約条件下での交通量の
最大化」によって選ばれる解である 37.ただし,ここで
の交通量とは,ノードを通過する(リンク)交通量の総
和ではないことに注意が必要である.むしろ,ここで
の「 交 通 量 の 最 大 化 」の 正 確 な 意 味 は ,各 リ ン ク の 局 所
的な交通量の最大化,言い換えれば,3. Xモデルや
Tモデルの説明で述べたような「前方が空いている限り
進む」(逆に言えば,理由もなく止まらない(“holding-
free”)というものである.従って,以降ではこの条件
を「holding-free 条件」呼ぶことにし,ノードを通過す
る交通量の総和を最大化する条件を述べる場合は「総
交通量の最大化」という用語を用いる 38
37 従来の文献で提案されたモデルには,この条件を満たさないも
のも存在する 53)
38 単路においては「holding-free 条件」と「総交通量の最大化」は
等価である.
–24: 合流部を持つネットワーク
Holding-free 条件は,次のような相補性条件として記
述することができる:
q1=D1if q2<S2and q3<S3
q1D1otherwise
(D1q1)(S2/f12 q1)(S3/f13 q1)=0
D1q1,S2/f12 q1,S3/f13 q1
q1=min /D1,S2/f12,S3/f13 0(56)
2行目への変換では上記の制約条件 3を,3行目への変
換は相補性条件と minimum 操作の等価性を用いた.こ
れにより q1が定まれば,q2,q3は分岐率により決まる.
b) 合流部におけるノードモデル
–24 に,合流部を持つネットワークを示す.分流
と同様に,このネットワークにおいて満たされるべき
条件は次のようにまとめられる:
1. 車両台数の保存則:q1+q2=q3
2. Demand/supply との整合条件 39 &非負条件:
0q1D1,0q2D2,0q3S3.
次に,ここでも解を絞り込むために,holding-free
件を考えてみよう.リンク 1について,
q1=D1if q1+q2<S3
q1D1otherwise
q1=min{D1,S3q2}(57)
また,リンク 2についても同様に,
q2=min{D2,S3q1}(58)
が成立する.このとき,D1+D2S3であれば,q1=
D1,q2=D2となる.しかし,これらの条件は互いに他
方の交通量を含んでおり,その値を決定することがで
きないケースが存在する.それは,q1=S3q2<D1
または q2=S3q1<D2が成立するとき,すなわち,
下流の supply が上流からの総 demand に対して不足す
るケースである(i.e., D1+D2>S3).
このケースでは,q1+q2=S3であるので,残る作業
S3をどのような割合で上流リンクに割り当てるかで
39 異なる条件を考えるモデルも存在する 12)
17
ある.この比率を定めるのが優先率である.いま,リン
iからリンク jへの優先率を pij とするとΣjpij =1),
q1=p13S3(<D1),q2=p23 S3(<D2)
q1=D1(p13S3),q2=S3D1(<D2)
q1=S3D2(<D1),q2=D2(p23S3)
(59)
のいずれかが実現することになる.後の 2ケースはそ
もそもリンクに割り当てられた supply よりも demand
が小さい状況である.これらをひとまとめにすると,
q1=min{p13S3,D1},q2=S3q1.(60)
優先率については,様々な設定法が提案されている.
Daganzo54) では,オン・ランプでの合流を想定し,上
流リンクの車線比に応じて優先率を静的に与えている.
同様の方法として,Ni and Leonard55) はリンクの容量に
基づいて優先率を決定する方法を提案している 40
p13 =qmax,1
qmax,1+qmax,2
,p23 =qmax,2
qmax,1+qmax,2
.(61)
一方,Jin and Zhang57) では,上述の式 (59) の場合分け
を減らすために,優先率を交通状況に応じて(demand
比率で)設定することを提案している:
p13 =D1/(D1+D2),p23 =D2/(D1+D2)(62)
これはある種の公平性を考慮したものであると言えよう.
(2) Invariance Principle
前節(あるいは前章の IT principle の節)で示した条
件は,ある瞬間においてリンク交通量を一意に定める
ための静的な要件であり,時間軸については考えてこ
なかった.これは,ある交通状態がリンクを伝わる速
度( i.e., wave speeds)は 有 限 で あ り ,ノ ー ド は リ ン ク の
交通ダイナミクスとは独立に(瞬間瞬間で)考えても
問題がないとの考えに基づくものである 53)
しかし,ある種のノードモデルは,リンク上での無
意味な衝撃波の発生(i.e., ノード上を通過する交通量
が不自然に変化する)など,不自然な(リンク/ノード)
ダイナミクスを招くことが,Lebacque and Koshyaran17)
により指摘されている.また同時に,この問題を回避
するためにノードモデルが満たすべき条件 “invariance
principle”を提示している.厳密に言えば,この問題お
よび invariance principle は異なる時刻でのフローに関連
するものであり,本稿で説明する 静的なノードモデ
ルでは取り扱うことができない 41.ただし,invariance
principle を満たすための十分条件は示されており,現
在の多くのモデルはこの十分条件を採用している.
以下では,具体例を通してこの問題を見ていく.
24 において,リンク 12の上流端から一定の交通が流
40 Kuwahara and Akamatsu56) でも同様のモデルが想定されている.
41 ノードを通過する衝撃波の挙動を動的に解析するアプローチと
しては,Jin58) などが挙げられる.
–25: 交通状態の FD 上での推移(リンク 2
–26: 交通状態推移のイメージ図(リンク 2
入する状況(初期は空の状態)を考えよう.それらを,
それぞれ,d
1=1,d
2=1/4とし,全てのリンク容量
1とする.また,ノードはモデル (62) に従うものと
し,ある時刻に実現する状態を demand/supply の関数
U:(D1,D2,S3)(q1,q2)で表す.
以上の設定の下,ノードモデル (62) demand/supply
を逐次代入することでノードにおける状態の推移を見て
いこう.まず,交通がノードにちょうど到達した初期状
態( 状 態 1)は ,U1(q1,q2)=(1,1/4) であり,両リンク
とも自由流状態である.次に,このときdemand/supply
を代入することで,U2=U(1,1/4,1)(状態 2)が微小
時間後に実現する.具体的には,下流側の supply が不
足している状況であるので,
q1=p13S3=4/5,q2=p23 S3=1/5,(63)
計算され .そし ,上流リン はと qa<
Da(a={1,2})の渋滞流となり,demand は容量値 1
に修正される(式 (41) を参照.さらに,この修正
れた demand/supply に基づき,再び新たな状態 U3
(1/2,1/2) =U(1,1,1)(状態 3)が実現する.
この例は,単純な先詰まり現象であるにも関わらず,
交通量が時々刻々不連続に変化することを示しており,
このことだけでも直感的に不自然であることがわかる.
しかし,このときのリンク上のダイナミクスを考える
と,さらにその不自然さを理解することができる.
リンク 2に着目して,以上の交通状態の推移を FD
で示したものが–25 であり,リンク上で 3つの状態が
空間的にどのように広がっているかのイメージを示し
たものが–26 である.これらの図を見ると,リンク 2
18
上では,次のような現象が起きていることがわかる.ま
ず,速度 ω12 衝撃波が上流に伝播する.その直後に
速度 ω23 の衝撃波も上流に伝播するが,|ω12|<|ω23|
あるため,微小時間経過後に状態 2は消失することに
なる.その結果,–26 の下図のように,リンク上には
状態 1と状態 3のみが存在することになり,今度は衝撃
波が下流に伝播し始める.そのため,さらに微小時間
が経過したとき,状態 3消失してしまう.このよう
に,1つの衝撃波が上流に伝播するだけ(であるべき)
単純な先詰まりにも関わらず,微小時間に(ほとんど
無意味な)衝撃波が複数生じることになる.
これは「実現する交通状態(i.e., 自由流,渋滞流)に
応じて修正される demand/supply がその交通状態と整
合的しない」ことに起因して生じる問題である.従っ
て,この問題を回避するための invariance principle は次
のように与えられる:あるノードの上流リンク i,下流
リンク jの交通量 qi,qjは,次の demand/supply の変化
によって変化することはない:
Diqmax,iif qi<Di,
Sjqmax,jif qj<Sj.
(64)
つまり,上流リンクが渋滞流のとき,そのリンクの de-
mand の増加によりリンク交通量は変化せず,また,下
流リンクが自由流のとき,そのリンクの supply の増加
によりリンク交通量は変化しない.これは結局,衝撃
波が物理的に不自然な向きに向かわないための条件と
言える.なお,この条件を満たすための必要十分条件
は明らかではないが,優先率を demand と無関係に与え
ることが十分条件であることは知られている.
現在,前節の静的な条件に加え,動的な条件である
invariance principle 十分条件的に満たすモデルを,
適切なノードモデルとする立場 59) が大勢である 42
しかし,先の例で言えば,上流需要が渋滞時の優先率に
影響を与えることは,現実には十分あり得るであろう.
そのため,現象/行動論的に妥当な non-invariant モデル 43
invariant 化する方法の研究も進められている 60)
(3) 一般的なノード
これまでの議論をより一般的なノードに拡張する.
ノードおよびそこに接続するリンクの一般的な構造を
–27 に示す.すなわち,ノードには m+n本のリンク
が接続している.i={1,2, ..., m}m本のリンクから
ノードへ交通が流入する.また,ノードから j={m+
1,m+2, ..., m+n}n本のリンクへ交通が流出する.
前出の単純な分流は m=1,n=2,合 流 は m=2,n=1
42 この十分条件を満たさないモデルは,“non-invariant”なモデルと
呼ばれることもある.
43 例えば,IT principle の結果として導かれた式 (52) demand
率に応じて優先率を決めており,non-invariant なモデルである.
–27: ノードの構造と変数
であり,一般的な十字路は m=4,n=4の場合である.
以下で,一般の m,nの場合にノードモデルが満たす
べき条件を説明する.まず,前節までに見た分合流モ
デルの素直な拡張として考える.すなわち,
1. 車両台数の保存:Σiqi=Σ
jqj
2. Demand/supply との整合性 &非負条件:
0qiDi,i0qjSj,j
3. 分流部における分岐率条件:qj=!ifijqi,j
4. Holding-free 条件 44
(Diqi)4j,fij>0(Sjqj)=0i(65)
の下で得られる解のうち物理的に意味を有する,つまり
5. Invariant principle
を満たすものを見つければ良い 53),59)
しかし,(1) の合流モデルで見たように,条件 1–4 だけ
では上流の demand に対して下流側の supply が不足す
る場合に実現する交通量を一意に決めることはできな
い.そのため,優先率の設定を含めた supply の上流リ
ンクへの配分ルール(アルゴリズム)を特定化する必要
がある.このルールは,Supply Constrained Interaction
Rule (SCIR) と呼ばれ 59),そ の ノ ー ド に お け る 幾 何 構 造
や車両挙動特性を表現することになる.
この SCIR の特定化にあたっては,主に 2つの困難
性がある.1つ目は,このルール次第では,invariance
principle(の十分条件)が満たされないことである.こ
れは,前節で見た通りである.2つ目は,一般的なノー
ド場合,式 (59) では高々 3つであった状態が膨大な数
となることである.すなわち,すべての上下流リンクを
結ぶ mn 通りの交通量の組み合わせが demand supply
のどちらに制約されているかを判断する必要があり,
つ,その際にすべてのリンクにおける分岐率と優先率
が影響するという相互作用が存在する.そのため,単
純な分合流と比較すると問題は桁違いに難しくなる.
現在のところ,invariance principle を満たす SCIR
一般形は見つかっていないが,(紙面の制約上その詳細
は省略するが)具体的な形式として 5種類が示されてい
44 総交通量の最大化で代替することもあるが 59),61),意図してい
る条件はすべて holding-free 条件である.
19
59),61),62),63).また,これらのルールの背後にある車両
挙動を,先に示した KW モデルと等価な Tモデル(ミ
クロモデル)により調べ,整理することが試みられて
いる 62).さらには,ノード自体の容量を制約internal
supply constraint と呼ばれる)を組み込んだモデル化も
進められている 64)
7. おわりに
本稿では,道路上の交通流ダイナミクスを記述する
標準的な枠組みである Kinematic Wave (KW) 理論の近
年の展開に関するレビューを行った.具体的には,ま
ず,KW 理論に関する従来の解析法を概説しその限界
を述べた上で,交通流の変分理論 (VT) を解説した.ま
た,この理論の応用として,様々な座標系(Euler 座標
系,Lagrange 座標系)が VT の枠組みにより統一的に
記述されることをみた.後半では,上記の単一道路(リ
ンク)上での理論をネットワーク拡張するための理論
を解説した.ここでは,CTM の開発と同時に提示され
Demand/Supply アプローチにより,多車線道路や交
差点など複数のリンクの境界面で物理的に意味のある
交通流を決める手法および条件について整理を行った.
本稿では紙面の制約上触れることができなかった要
素として,多クラスの KW モデル 65),66) や確率的な KW
モデル 67),68),69) がある.前者は,交通流の異質性の導入
により,逆 λ型の FD やヒステリシス現象などの交通
現象を表現しようとするものであり,後者は不確実性
を考慮した短期的な旅行時間予測や頑健な交通制御に
繋がるものである.これらについては,現在レビュー
を進めており,今後追加する予定である.
なお,本稿では基本的には理論のみを解説したが,
の数値計算法や実データへの適用は極めて重要なテー
マである.特に後者については,現在,様々なデータが
取得可能になっており,それらのデータによる理論の
検証が期待される.さらに,動的なネットワーク問題
や交通管理・制御問題のサブモデルとしても交通流理
論は重要な役割を果たしており,その発展のインパク
トは小さくないと考えられる.実際,和田ら 70) では,
交通流の変分理論により系統信号制御問題の新たな定
式化に成功している.従って,以上のような,(本稿で
解説した近年の)理論の実証や応用に関しては改めて
別の機会に報告したい.
引用.和田健太郎,瀬尾亨,中西航,佐津川功季,
柳原正実Kinematic Wave 理論の近年の発展に関
する研究解説,Working Paper, ResearchGate, 2017.
[https://www.researchgate.net/publication/313985673]
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(2017. 2. 25 改訂)
REVIEW ON RECENT ADVANCES IN KINEMATIC WAVE THEORY OF TRAFFIC
FLOWS
Kentaro WADA, Toru SEO, Wataru NAKANISHI, Koki SATSUKAWA and Masami
YANAGIHARA
This paper summarizes recent advances in the kinematic wave (KW) theory of traffic flows. First, we
review the variational formulation of kinematic waves and its application together with pointing out the
limitations of its conventional analysis methods. Second, the KW theories for the network traffic are intro-
duced. Specifically, we review and summarize the methods/conditions to determine boundary flows of links
at multi-lane roads and intersections.
22
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Article
Full-text available
First-order network flow models are coupled systems of differential equations which describe the build-up and dissipation of congestion along network road segments, known as link models. Models describing flows across network junctions, referred to as node models, play the role of the coupling between the link models and are responsible for capturing the propagation of traffic dynamics through the network. Node models are typically stated as optimization problems, so that the coupling between the link dynamics is not known explicitly. This renders network flow models analytically intractable. This paper examines the properties of node models for urban networks. Solutions to node models that are free of traffic holding, referred to as holding-free solutions, are formally defined and it is shown that flow maximization is only a sufficient condition for holding-free solutions. A simple greedy algorithm is shown to produce holding-free solutions while also respecting the invariance principle. Staging movements through nodes in a manner that prevents conflicting flows from proceeding through the nodes simultaneously is shown to simplify the node models considerably and promote unique solutions. The staging also models intersection capacities in a more realistic way by preventing unrealistically large flows when there is ample supply in the downstream and preventing artificial blocking when some of the downstream supplies are restricted.