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■ 研究発表論文
居住者の生物に対する嗜好か らみたニュータウンの緑地保全 に関
する研究
Study on the Residents' Taste for Coexisting with Nature Life in the New Town
澤木 昌典* 上甫木昭春*
Masanori SAWAKI Akiharu KAMIHOGI
摘要:本 研究 では,今 後のニュータウン開発において重要な課題 となる生物の生息にも配慮 した緑地
保全に際 して,生 物と共生しつつ快適で魅力ある居住環境形成のための緑地保全の方向 をさぐること
を目的として,兵 庫県三田市の神戸三田国際公園都市フラワータウン地区及び周辺居住者に対して意
識調査を実施 した。その結果,生 物の生息範囲についての願望 による居住者の類型化 を通じて,生 物
との共生に好意的な人 ・嫌いな生物への疎遠化傾向の強い人などの存在が明らかになり,今 後のニュー
タウン開発 での緑地保全 に関 して,生 態 学的 調査 ・検 討に 基づ く生 物 との共生に配 慮 した土地利用 ゾー
ニング,居 住者の生物嗜好による住み分け等の検討の必要性を論じた。
1. は じめ に
近年 のニュー タウ ン開発 は,大 都市 の30∼50km圏 とい った比
較的自然度 の高い地域 で進め られつつ ある。そ こで は,地 形条件
の制約 ・緑 地 保全 とい った観 点か ら大規 模 な造成 は 困難で あ り,
数個 の住 区を単位 としたクラス ター型 の開発が なされている。 こ
の開発手法 に よる と,住 区の内部や周辺 に傾斜地 を中心 として緑
地が保全 され,従 来のニュータウンに比べて緑地率の高い緑豊か
な住環境が形成される可能性が高まり,昨 今の都市住民の自然志
向の強 まりと相 まって,こ う したニュー タウンで は自然 や緑が居
住環境の快適さの一つのセールスポイントとなってきている。
しか し,こ う した緑地につ いてはその保全 ・活 用 の重要 性が 指
摘 される1)と ともに,生 物 の生息空 間の確保,す なわ ち ビオ トー
プの保全の重要性が指摘 されている2)よ うに,今 後 の 自然 度の高
い地域に立地す るニ ュー タウ ン開発 においては,生 物 の生息空 間
の確保を含めた緑地保全が重要な課題となってくると考えられる。
これ まで生物の生息環境 の側面 か らの研 究3)は 蓄積 されて きてお
り,他 方,居 住者の側面か らは緑 と居住環境 につ いての研 究は数
多いが,劇 居 住者 と生 物 との共存 に 関す る研 究蓄積 は まだ 少な い。
澤木(1994)5)は,兵 庫県 に建 設中 のニ ュー タウ ン,神 戸 三田 国
際公園都市のフラワータウン地区の戸建て住宅居住者を対象に,
生物 に対す る嗜好 と宅地選択 ・庭 の好 み などの居 住 行動 の分 析 を
通 じて今後のニュータウン整備の方向性を考察したが,本 研究で
はこれ を発展 させ て,同 地区お よび周辺住民を対 象 と した生物の
生息場所に対する居住者の意識の分析から,住 区構成や緑地配置
な ど,今 後 のニュータウン開発 にお ける居住者に とっで 映適で魅
力があ り,か つ生物との共存が図れるような緑地保全の方向性に
ついて検討す る ことを 目的 としてい る。
2. 研 究 方 法
(1) 調 査 方 法
本研究では上記の目標を達成するために,神 戸三田国際公園都
市のフラワータウン地区の居住者と,同 地区に隣接する既成市街
地および農村 集落居住者 を対象 に2度 のアンケ ー ト調査 を実施 し
た。両調査 とも郵送配布 ・郵 送 回収 によ った。
1次 調 査 は,1993年8月 下旬 ∼9月 上旬 に実施 し,単 純 無 作
為抽出に よる成人1,500名 を対象 に,自 由想起方式 に よる好 きな
生物 ・嫌 いな生物な どをたず ね,51。9%に あたる779名 か ら有効
回答 を得 た。地区別の内訳は,ニ ュー タウン492(回 収率54。6%),
既成市街地209(同48.8%),農 村集 落78(同45.6%)で ある。
2次 調 査 は,上 記回答者に対 して1994年3月 に実 施 し,特 定
の20種 の 生物 に対 す る(1)好き嫌い,(2)望 む生 息範 囲,(3)生 物
との共生への考え方 などをたずね,74.2%に あたる578名 か ら有
効回答 を得た。地区別の内訳は,ニ ュー タウ ン297(回 収 率60.4
%),既 成市街地150(同71.8%),農 村 集落74(同94.9%)で ある。
(2) 分 析 方 法
1次 調 査の 結果 か ら,住 民 が好 む生物 ・嫌 う生 物 ・地 区 によ り
好悪が分 かれる生物 など20種 を2次 調査 の ため に選定 した 。
2次 調 査の 結果 か ら,これ ら20種 の 生物 に対 す る嗜好 を回答 者
の属性 な どで分析 し,さ らに望 ましい生 物の生息範囲に対す る回
答 か ら居住者 を類型化 した。類型化 には,数 量化 皿 類 とク ラス
ター分析 を用い,数 量化 皿 類で算出 され た3軸 に対 す るサ ンプ
ルスコアにクラスター分析を適用して7つ の類型を抽出した。こ
の類型 に基づいて,回 答者 の属性,生 物 の嗜 好,生 物 との共生へ の
考 え方 な どを分析 し,今 後の緑地保全の方向性 について考察 した。
3. 調査対象地の概要 と回答者の属性
(1) 調 査対 象 地 の 概 要
神戸三田国際公園都市は,兵 庫県および住宅 ・都市整備公団に
よ り1971年 か ら建設 され てい るニ ュー タウ ンで,総 面積2,016h
a,計 画 人口139,000人,8つ の クラス タ ーか ら構成 され てい る。
フ ラワー タウ ン地 区はその中央部 に位置 し,三 田市の既成市街
地の南西部に隣接す る独 立丘 の頂部 を造成 して,新 住宅市街地開
発 事 業 に よ り兵 庫 県が 建設 して いる 。面積339ha,計 画 人 口
34,000人(戸 建 て14,000人,集 合住 宅20,000人)で,1985年
か ら分譲 を開始 している。北東側 の既成市街 地のほか,南 北 を農
村集落 に,西 を中国 自動車道神戸三 田ICに 隣接 して い るが,南
側の農村集落は山林を隔てておりニュータウンとの連絡道路もな
いため,今 回の調査 対象か らは除外 している。
(2) 回 答 者 の 属性
以下で は,地 区区分 については,ニ ュー タウン居住者 を戸建 て
住宅お よび集合住宅 に分 け,既 成市街地,農 村集落,ニ ュータウ
ン(戸 建 て),同(集 合住 宅)の4つ 区分 で分析 して いる。
回答者 の属性について は,以 下の ような特徴 がある。年齢では,
中心 となる年齢区分が農村集落が60代 と高 く,既 成市 街 地 が50
*姫路 工 業大 学 自然 ・環境 科学 研究 所
133
代,ニ ュータウン(戸 建て)が40代,同(集 合 住 宅)が30代 で
あ る。戸建て持 ち家の割合は既 成市 街 地 では82.1%,農 村 集落
で は73.1%で あ る。居住年数 は,20年 以 上が 農村 集落 で76.8%,
既成市街地で56.1%で あるが,ニ ュー タウン(戸 建 て)で は5
∼10年 が47 .3%,同(集 合住 宅)で は1∼3年 が46.6%と 多 い 。
勤務地は,農 村集落で70.5%,既 成 市 街 地で54.2%が 三 田市内
であ るが,ニ ュー タウンでは戸建 て で66.6%,集 合住 宅 で65.7
%が 大阪 ・神戸 ・阪 神地 域に通 勤 して いる。 また,ニ ュ ータ ウン
で は戸建てで62.6%,集 合住宅 で も56.8%が,大 阪や 神戸.阪
神地域からの流入者である。同地域か らの流入者は,既 成市街地
では17.6%,農 村集 落 で は14.1%で あ る 。
4. 調 査 結 果 お よび 考 察
(1) 生 物 に 対 す る好 き嫌 い
1次 調 査 におい て,自 由想 起方 式で あ げられ た好 き な生物 ・嫌
いな生物の主な もの を表1に 示す。 これらの1次 調 査の結果 か ら,
人気 ・不人気の生物や,好 悪の分かれる生物などを,そ の生息場
所が草地や樹 林 ・水 辺.市 街地 と変化 をもつ ように勘案 して,表
2に 示 す20種 の生物 について2次 調査 を実 施 した。
2次 調査では,再 度,嫌 い∼好 きを1∼5の5段 階で評価 させ
た。表2は その平均 と分散 を示 してい る。好 き嫌いの度合いが強
いほ ど回答の分散が小 さい傾向があ り,20種 の生物 の 中 には住
民が共通して好む傾向の生物 ・嫌 う傾向の生物がある。
(2) 生 物 の 嗜 好 と生 息範 囲
2次 調査ではこれらの生物がどこに生息するのが望ましいかを
自宅との関係で図1縦 軸に示す5段 階でたずねている。いずれの
生物 について も,好 き嫌いと望 む生息範囲 には,好 きな 生物 ほ ど
近 くに,嫌 いな生物 ほ ど遠 くに とい うあ る程度の相関がある。図
1は,こ の 関係 を4地 区区分 ご とに簡 略化 して示 して いる 。図 で
は横軸に好 き嫌いの平均点をとり,縦 軸で生息範囲の最頻値の区
表-1 1次調 査 で の 好 き な生 物 と嫌 い な生 物(上 位5種)
表-2 2次 調 査 で の20種 の 生 物 へ の嗜 好(平 均 は好感度 を表 す)
分の回答率を○印の大 きさで表している。
ニュータウンの集合住宅居住者では,ウ グイスな ど他 の区分で
「どこにい て も構 わ ない」 が 多 い生 物種 の生 息 範囲 の最頻値 が
「歩いていける公園や雑木林」となっているのが特徴的であ り,
好感度の高い生物の生息場所としては身近な公園緑地を望む人が
多いことがわかる。また,戸 建ても含めてニュータウン居住者で
は,疎 遠傾向の生物 の中でモグ ラやハチ ・カ ラス な どが 「遠 く離
れた公園や雑 木林」 とな り,既 成市街地 ・農村集落居住者 に比べ
疎遠願望がやや薄れている。また,キ ツネはどの区分でも 「遠く
離 れた公園や雑 木林」で あ り,カ ブ トム シ ・セ ミ ・リ ス につ い て も
「歩 いていける公園や雑木林」となってい るよ うに,こ れ らの生物
種についてはふさわしい生息場所が居住者に共通に認識されてい
る と考え られる。「自宅 の庭 やベランダ」に生息 して欲 しい生物 と
しては,ス ズムシ とい う回答 が既成市街地 と農村集落でみ られる。
(3)生 息範 囲による分類
図-1 4地 区 区 分 で み た生 物 へ の 嗜 好 と望 む生 息 範 囲
図-2 第1軸 ∼第3軸 のカテ ゴリー分布図
134 J. JILA 58 (5), 1995
図-3 類型化の樹状図 図-4 類型 別にみ た望 む生物の生息範囲
次に,こ の生物の生息範 囲に対す る回答 について,数 量化 理論
III類と クラス ター分 析 を適用 して,居 住 者の 類型 化 を試み た。
数量化理論III類 に用 い たカ テゴ リー は,20種 の 生 物 につ い て
の5区 分の生息範囲 に対す る回答(択 一式)で,カ テ ゴ リー数 は
回答のなかった4区 分 を除 く96カ テ ゴリー,サ ンプ ル数は20種
の生物すべてに回答のあった469サ ンプルである。
数量化 皿類 の適用の結果得 られた3つ の軸の 固有値 ・寄 与 率,
3軸 上のカテゴリースコア分布等を示 したものが図2で ある。第
1軸 は 正方 向が 人気の あ る生物 も寄 せつ け ない傾 向,負 方 向が 嫌
われる生物を身近にという個性的な生物の嗜好の傾向を表してい
るため 「生物 好悪 性向 の軸 」 と解釈 した 。第2軸 は,正 方向 か ら
負方向へと生息範囲の段階区分の身近さが高まっていることから
「空間的親疎 感の軸」 と解釈 した。第3軸 は正 方向 はは っ き りし
ないが,負 方向は自宅 の庭 やベ ランダに嫌 われる生物 をとい う傾
向 を表 してお り,「 自宅 と生物 の関 係の 軸」 と解 釈 した。
次 に,こ れ ら3軸 に対 す るサ ンプル ス コア に,ク ラス ター 分析
(距 離計 算は ウ ォー ド法 に よる)を 適 用 し,居 住者 を7つ の 類 型
に分類 した。図3は クラス タリングの最終6段 階の樹状 図であ る。
各類型の生息範 囲への 回答 の傾 向を図4に 示す 。ここでは便 宜的
にそれぞれ を,図 で左か ら順 に,ど ん な生 物 もど こにい て も構 わ
ない 「全 生物派 」(4.7%),こ れについで生 物 への好 感度 の高 い
「生物好感派」(15.4%),好 きな生物 を 自宅 近傍 に 寄せ た い 「自
宅誘引派」(7.2%),中 庸 的な傾 向の 「平 均 派 」(21.1%),生 息
場所の多 くを公園緑地 に期待す る 「公 園緑 地派 」(25.4%),好 き
な生物 はどこで もい いが嫌 いな生物 はい らない という 「好 悪選 択
派」(17.7%),好 きな生物 は公 園緑地 に,嫌 いな生 物 はい らな い
とい う 「遠 隔分離 派」(8.5%)と 名 付 けた 。()内 はそれぞ れ
の構成比を示している。
(4)類 型による特徴 と考察
図-5 類型別 にみた生物 への嗜好(好 感度 の平 均 点)
図-6 類型別 にみた生物 と共生 するまちづ くりへの考 え
図5は 類型別 に生物 ごとの好 き嫌いの平均点 を表 した ものであ
る。好感度の高い生物については類型によるばらつきが少ないが,
カエル(30.9[=F値:以 下同 じ])・ カラス(28.4)・ スズメ(26.3)・
モ グラ(25.2)・ ハチ(24.7)な ど を中心 に類 型に よる ば らつ きが み
られる。 カラス ・ハ チ.モ グ ラにつ いて は好悪 選択 派 と遠 隔分離
派が,ス ズ メ.カ エ ルについては この2派 に加 えて公園緑地派が,
それぞれ他派に比べて好感度が低い。
また,こ れか らの 「生 き物 と共 生す る まちづ く り」の 考え方 を
問 う設問 につ いてみ ると,図6の ように全生物派 ・生 物好 感派 ・
自宅誘因派で は「可能な限 り多様な生息環境 の確保」 が70%以 上
を占めてい るが,「 場 所 を限定 して 」が好 悪選択派 で42.0%と もっ
とも多 くなってい るの をは じめ,公 園緑 地派 で も38.5%,遠 隔
分離派で も33.3%と 多 くなっている 。 また「好 ま しい生物 だけ」
が好悪選択派で19.8%,遠 隔分 離 派 で17.9%を 占 め て い る 。
これ らの結果か ら,居 住地区周辺での生物 との共存 を考える場
合,好 悪選択派や遠隔分離派のように生物があまり好 きでない人
人に対する配慮が必要であると考えられるが,そ の方法の一つと
してカ ラス ・ハ チ など特 定の 居住 者層 に とくに好 感 度の低 い種 類
の生物な どは「場所 は限定 して」とい う考え方 もあ りるだろ う。
地区別 には,図7の ように,農 村集落 に遠 隔分離 派が多 く(28.
6%),既 成 市街 地 に好悪 選択 派(23.4%)が 多 い。 ニュ ー タウ ン居
住者では,集 合住宅居住者 に公園緑地派が多 く(36.9%),生 物好
感派が少 ない(6.2%)傾 向 が,戸 建 て住 宅居 住 者 に好 悪 選択 派 が
やや少な く(14.7%),好 感 生 物 派 が や や 多 い(17.1%)傾 向が ある 。
回答者の前住地別では,図8に 示す ように,ニ ュー タ ウン以外
の居住者で継続居住 している人 に遠隔分離派が多 く(26.8%),ニ ュー
タウン居住者で は,三 田市か らの転入者 に好悪選択 派が多 く(23.
0%),神 戸 市や 阪神 地域 か らの転 入者 に生 物好 感派 が多 い。
次にニュータウン居住者について取得住宅の種類別にみると,
図9の ように,高 層集合住宅の居住者 に公園緑 地 派が 多 く(46.5
%),図1で 示 した傾 向が 現れ てい る ほか,生 け垣 な ど ある 程度
の外構 が整備 されてい る建物付 き分譲住宅取得者(戸 建て)に 自
図-7 4地 区 区 分 で み た各 類 型 の構 成 割 合
図-8 前住地別にみた各類型の構成割合
ラ ン ドス ケ ー プ研 究 58 (5), 1995 135
図-9 取得住 宅の種類別 にみ たニ ュータウ ン居住者の類型
図-10 居住 年 数 別 に み たニ ュ ー タ ウン居 住 者 の 類 型
図-11 ニ ユータウンの一地区 での特定の類型 の回答者の分布
宅誘 引派が多い(11.6%)。 また,ニ ュー タウ ン居住者の居住 年 数
別 には,図10の ように,1年 未満の居住者に全 生物派 ・生物 好感
派 ・自宅誘 引派 がお らず好 悪 選択 派 が 多 く(31.3%),10年 以上
の居住者 に生物好 感派(22.0%)お よび遠隔分離 派(14.6%)が 多い。
以上 か ら,既 成市街地 ・農村集落居住者 お よびニュー タウン周
辺地域 か らニュー タウンに入居 した人には,特 定種 の生物 の生息
を嫌 う類 型の人が都市 圏か らのニュー タウ ン入 居者 に比べ多 いこ
とが わかる。 また,ニ ュータウン居住者では居住 年数 を1年 以上
経 た り,入 居時か ら自宅の庭 に緑があ り生物 との接 触機会 に恵 ま
れ れば,生 物に好感 的な類型の人が増える と推 察 される。
他方,ニ ュータウ ン居住者 について,生 物 の生 息場所 として重
要で ある樹 林 と住宅 との距離関係 を類型別に分析 してみる と,こ
れらには有意な関係がみられない。ニュータウンの一地区につい
て,自 宅 誘引派 ・公 園緑地派 ・好 悪選択 派 ・遠 隔 分離 派の4類 型
の分布例 を図11に 示す が,現 状 では 図の よう に 自宅 誘引派 が樹
林か ら離 れて住 んでいた り,好 悪選択 派が樹林寄 りの区画 に住 ん
でいたりする。つまり,大 都市の通勤圏の縁辺部に位置する自然
度の高いニュータウンに入居する居住者の多 くは,漠 然と緑豊か
な環境 を求めて入居 しても,日 常生活の中で の生 物 との関わ りま
でをイメージして宅地や住宅を選択していない。今後,生 物の生
息 を も考慮 した緑地保全 を行ってい く場合,特 定種 の生物 との共
存が苦手な居住者にとって,そ の生物の生息がその人の住宅など
生活領域に及ぶことが居住環境の快適性 を損なう要因になる場合
がある一方 で,比 較 的恵 まれた自然環境 の中で生物 との接 触機会
を多 く持つ こ とを通 じて,生 物 に好感 を持 ち,多 くの生物 と共存
で きる考 え方 を持 つ居住者 も増加す る と想定され る。緑地の保全,
さらに生物 の生態系 を考慮す れば,居 住者を後者 に誘導 するのが
望 ましいが,前 者 の ような居住者へ の配慮 も必要で ある。
5. 緑 地 保 全 の方 向性
今後 の比較 的 自然 度の高 い地域で のニュータウン開発 での緑地
保全 につ いては,生 物 の生態系 を考慮 した生物の生息へ の配慮が
ますます重要 になる と考 える。その ためには,従 前 の緑 地をその
自然度等 に応 じて可 能な限 り大 きな規模 で保全す るこ とや,小 規
模 であって も従前 の樹林 を残 した り,新 たな緑地 を積極 的に創 出
して,井 手(1992)6)が 指摘 してい るよ うな生物の移動等 の経 路 に
な りうる緑 地配置を してい く必要が ある。また,入 居者 に対 して
も,宅 地選択 の際,さ らに入居後 も生物 の生息 に関す る情報 を提
供 して,生 物 との共存へ の理解 を求 めるこ とが必要 である。
さらに,土 地利 用計画 の中で,居 住者 の好 ま ない生 物 ・人間 と
の接触 を嫌 う生物 についてはその生息 範囲を限定 した り,居 住地
区 と遠 ざけて人間 との接触機会 を減 らすこ とや,生 物 の生息範囲
近傍 の街 区については,生 物 との共存 に好意的 な人の入居 を促 し
て生物 と共生 する地区を形成す るこ と,ま たその共生 の仕方 にも
い くつかの段 階を設 けるなど,生 物 との共生 を考慮 したある種の
ゾーニングを行 うこ とが,今 後のニ ュー タウン開発 にお ける緑地
保全 の一つ の方 向であると考 える。 た とえば,自 宅誘引派 の人の
住 む戸建て住宅 を集合 させ,庭 を共 同化 して,自 然林 に近 い庭の
作 り方 を した り,そ れらを残存す る樹林 と連結する緑地配置 をす
ることによ り,そ こで は居住者が 自然 や生物 に親 しむ生活 を享受
で き,か つ多様 な生物が生息す る街 区形成が可能ではなかろうか。
しか し,こ のように開発側.居 住者側 に都合の よい場所 にだけ
生物の生息場所を配置 して多様な生物を保全することや好感度の
低い種類の生物についてのみ生息場所を限定するといったことが
生態学的に可能かどうか検討する必要があり,上 記のようなゾー
ニングはニュータウンの立地環境やそこでの生物の生息環境につ
いての十分な調査 ・検討のもとに実施する必要があると考える。
今後 は,実 際 に生息が確認あ るい は想定 される生物種 とその生
活型を考慮 した上で,居 住者の意識調査 ・戸建て住宅の私的な緑
空間の実態調査等 の実施等 にもとづ き,よ り具体 的 な緑地保全の
方向性 ・住 区整 備の あ り方 を検討 して い くことを 課題 と したい 。
最後 に,兵 庫県北摂整備 ならび に三 田市の関係 部局 にアンケー
ト調査実施の協力を得たことに厚 く謝意を申し上げる。
参考文献
1) 権 奇燦 ・安部大就 ・増田昇 ・下 村泰 彦
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トープ-復元 と創 造-: 信 山社
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4) 田畑貞寿 ・井手久登 ・輿水 肇 ・田代 順孝
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5) 澤 木 昌典 (1994): 居 住 者 の 生 物 に対
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ワー タ ウ ン地 区 を対象 と して-, 第
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村緑地配 置に関する生態学 的研 究: 緑
地学研究11, 1-120.
Summary : This study is based on the two surveys for residents in and around the Flower-town district of Kobe-Sanda
International Garden City. These surveys were concerned with residents' taste for nature life, especially for coexisting
with nature life.
From the 7 types classification by residents' idea for nature life's habitat, it shows that some residents hope to live more
separated from nature life. Residents of high-storied flats in new town hope to limit the habitats into near park and
coppice. And it's guessed that ripe experience of contact with nature life make residents like it.
We suggest a new zoning system of coexisting with nature life by considerate green conservation in the future new town
development. But its ecological founded study is a subject to solve.
136 J. JILA 58 (5), 1995