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佐世保紀要38:9-11,2012
AcaseofPOEMSsyndromewithoutMproteinemia
DepartmentofNeurology'),Hematologya,Internalmedicine3),SaseboCityGeneralHospital
ToshiakiNonaka'),TakeshiFujimoto'),YasuoFukuda'),
YasushiSawayama2),KatsumiEguchi3)
Keywords:POEMSsyndrome,polyneuropathy,plasmacytosis,vascularendothelialgrowthfactor
A59-year-oldmandevelopeddysesthesiaofbothdi、allegssinceJuly2011.Thenmildweakness
withsIightedemainbothlowerlegsanddysesthesiaofiefthandhaveappeared,andhewasreferred
toourhospitalinSeptember2011.Neurologicalfindingssuggestedsensory-dominantpolyneuropathy,
butit'scausewasunclear.Ashislowerlegs'weaknesswasprogressive,hevisitedourhospitalagain
complainingofgaitdisturbance.PretibialedemagotworsewithincreasedproteinuriainJanuary2012.
POEMSsyndromewassuspectedandseverallaboratorytestswereadded.BIoodM-proteinwasnegative
intheimmunoelectrophoresis,buturineM-proteinwaspositive.SerumVEGFwaselevatedandmild
plasmacytosiswasobservedinbonemarrow.SowediagnoseddefinitePOEMSsyndromeandstarted
ThalidomideandDEXAtherapy・ThisisararecaseofPOEMSsyndromewithoutM-proteinemia.
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M蛋白血症を伴わなかったPOEMS症候群の1例
佐世保市立総合病院、)神経内科、2》血液内科、動内科
野中俊章')、藤本武士l)、福田安雄l)、澤山靖2)、江口勝美3)
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要旨:症例は59歳男性。2011年7月より両足の異常感覚が出現。軽度の両下浮腫や左手の異常感覚、両
下肢脱力を伴うようになり、9月当科紹介され、感覚優位の多発ニューロパチーが示唆された。2012年1
月外来再診時に両下浮腫と歩行障害の増悪、蛋白尿の増加(10mg/dl→200mg/dl)を認めたことから、
POEMS症候群が疑われた。免疫電気泳動検査で血中M蛋白は陰性であったが、尿中M蛋白が陽性ならびに
血清VEGF高値であった。骨髄刺では軽度の形質細胞増多を認めた。M蛋白血症を伴わなかったPOEMS
症候群は稀であり、文献的な考察を加え報告する。
索引用語:POEMS症候群、多発神経炎、血管内皮細胞増殖因子
(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)
l.はじめに
Crowは多発性骨髄腫に末梢神経障害を
の血管内皮増殖因子(VEGF:vascularendothelial
growthfactor)が異常高値となっていることが報告
されて以来、VEGFが多彩な症状を惹起していること
が推定されている。
今回我々はM蛋白血症を認めなかったPOEMS症候
群の1例を経験したので報告する。
1956年、Crowは多発性骨髄腫に末梢神経障害を
合併した2例を報告した。本邦では1968年に深瀬らに
より「多発性神経炎及び内分泌異常を惹起した孤立
性骨髄腫」として報告されたが、その後に相次いで
同様の多発性神経炎、内分泌異常を伴う形質細胞増
殖症の症例が報告された。その後、これらの特徴を
持つ症候群は、POEMS症候群と呼ばれるようになり、
本邦では別名クロウ・フカセ症候群とも呼ばれてい
る。POEMSとは、多発神経炎(polyneuropathy)、
臓器腫大(organomegaly)、内分泌異常
(endocrinopathy)、M蛋白(M-protein)、皮膚
症状(skinchanges)といった臨床的特徴の頭文字
をとった呼称である。1997年に本症候群患者血浦中
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ll.症例
症例:59歳、男性。
主訴:両下肢の異常感覚、浮腫
現病歴:2011年7月より両足の異常感覚が出現
し、軽度の両下浮腫や左手の異常感覚、両下肢脱
力を伴うようになったため近医を受診し、9月当科紹
介された。感覚優位の多発ニューロパチーが示唆さ
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入院時現症(神経学的所見):意識清明。脳神経
に異常なし。運動系は両下肢遠位優位の筋力低下
(MMT近位4/5,遠位1/5)、鶏歩様歩行で、つぎ
足歩行は軽度の動揺あり。明らかな筋萎縮なし。ロン
ベルグ徴候陰性。感覚系は両足で中等度の痛みを伴う
異常感覚、全感覚鈍麻あり。自律神経障害なし。協調
運動障害なし。深部反射は下顎反射土以外は全般性
に消失していた。
検査所見:初診時(2011年9月)と入院時(2012
年2月)血算や凝固系の異常なし。初診時、総蛋
白7.2mg/dl(蛋白分画Albumin58.6%、a1-
globulin3.2%、a2-globulin7.5%、βglobulin
9、9%、γ-glObulin20、9%)、尿蛋白10mg/dl、入
院時、総蛋白6.5mg/dl(蛋白分画Albumin56.4
%、a1-globulin3、4%、a2-globulin7.5%、β一
glObulin9.9%、γ一globulin22.8%)と大きな変化
は無かった。血清IgG1330mg/dl,IgA302mg/dl、
IgM98mg/dlと正常範囲であった。その他、CRP
陰性、血沈2mm/時と炎症所見なく、TSH及びFree
T4正常、抗核抗体()、HbA1c4.7%であった。
髄液検査:細胞数3/uL(全て単核球)、蛋白
224mg/dl,糖70mg/dl,オリゴクローナルIgGバ
ンド陰性であった。
免疫泳動検査は、血液検体では非特異的な慢性炎症
型パターンを呈するのみで、M蛋白を指摘できなかっ
たが、尿検体ではBence-Jones蛋白及びIgA一入型M
蛋白を認めた(図.2)。
れたが、原因不詳のまま対症療法で外来経過観察と
なった。平成24年1月外来再診時に両下浮腫の悪
化と両下肢筋力低下による歩行障害の進行、蛋白尿
の増加(10mg/dl→200mg/dl)を認めたことから、
POEMS症候群が疑われた。免疫電気泳動検査で血清
M蛋白は陰性であったが、尿中M蛋白は陽性であった。
2012年2月精査目的に当科入院となった。
既往歴:うつ病で入院歴あり
生活歴:喫煙なし、機会飲酒
家族歴:特記事項なし
入院時現症(理学的所見):身長167cm,体
重67kg,体温37.4℃、脈拍86回/分、血圧
146/88mmHg・頚部、胸部、腹部に異常を認めない
(女性化乳房なし)。全身皮膚に軽度の色素沈着あ
り。四肢に剛毛を認め、両下、足背に浮腫あり(図
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重67kg,体温37
146/88mmHg・頚部
(女性化乳房なし)。
り。四肢に剛毛を認磁
.1abc)。
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図1a両上肢の剛毛
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図2尿中IgA-入型M蛋白の検出
図1b両下肢の剛毛
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骨髄刺:形質細胞5.4%と軽度細胞増多がみられ
た。
胸腹部CT:肝臓、脾臓の軽度腫大と少量の心嚢水、
両側胸水を認めた。
神経伝導検査:初診時(2011年9月)腓骨神経は短
趾伸筋記録の遠位刺激では誘発不良。前脛骨筋記録の
近位刺激で誘発可能だったが、2012年2月では振幅
低下を呈した。また、運動神経伝導速度は34.3m/sec
から12.8m/secと低下を認めた(図.3)。
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図1c両足の浮腫
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みた場合、血清免疫グロブリン高値ないしはM蛋白血
症が認められない場合でも、POEMS症候群の可能性
も念頭において、尿中免疫泳動検査や血清VEGF測定
を行うことが重要である。
さらに、POEMS症候群患者では主症状は末梢神
経障害であり、ADLを悪化させる最大の要因である。
現在の治療法は、骨髄腫の治療に準じたサリドマイド、
レナリドマイド、自家末梢血幹細胞移植などであり、
神経障害と生命予後が改善する。最近の治療法の進歩
にもかかわらず病態生理の解明はほとんど進んでいな
い。今後病態生理の更なる解明が望まれる3)。
20ユユ.09 諏鶉B位 2012.02
…虚・一マヨー丁玩̅-4
短趾伸筋
前脛骨筋
ーし*ー
12.8m/s34.3m/s
図3神経伝導検査(腓骨神経刺激)短趾伸筋記録で
は導出不良で、前脛骨筋記録で振幅低下ならび
に運動神経伝導速度低下の進行がみられた
ll1.臨床経過
初診時には多発神経炎、臓器腫大、皮膚症状(剛
毛、色素沈着)を認めたが女性化乳房やM蛋白血症を
認めなかった。しかし、尿中M蛋白血症を認め、血清
VEGFは666pg/ml(正常34pg/m1以下)と異常高
値を呈していた。骨髄刺で軽度の形質細胞増多を
認めたことから、本症例をPOEMS症候群と診断した。
2012年3月よりサリドマイド、デキサメサゾン療法
を開始した。両下の異常感覚や浮腫は軽度改善した
が、歩行障害(鶏歩)は変わらなかった。2012年4
月血清VEGF122pg/mlまで低下していた。
V.まとめ
M蛋白血症を伴わないPOEMS症候群の1例を報告
した。血中M蛋白が検出されなくても多発神経炎や皮
膚症状など、POEMS症候群を示唆する臨床症状を呈
する症例では、本疾患を積極的に鑑別に挙げて尿中免
疫泳動検査や血清VEGF測定を考慮する必要がある。
文献
1)DispenzieriA.KyleRA,LacyMQ,Rajkumar
SV.ThemeauTM,LarsonDR.etal:POEMS
syndrome:definitionsandlong-termoutcome.BIood
2003;101;2496-2506
2)JiZF,ZhangDY,WengSQ,ShenXZ,LiuHY,DongL:
POEMSSyndrome;AReportofl4CasesandReview
oftheLiterature,ISRNGastroenterology:2012;
584287,5pages
3)中世古知昭.原発性アミロイドーシス.POEMS症候群の
治療.臨床血液2011:52(10)i1496-1506
Ⅳ、考察
POEMS症候群は形質細胞腫による様々な症候を来
たす症候群であり、症状は多発神経炎、臓器腫大(肝
脾腫)、女性化乳房、M蛋白血症、皮膚症状を呈す
る。これらの症状のうち、多発神経炎とM蛋白血症は
Dispenzieriらの報告では必発とされている')。しか
し、最近ではM蛋白血症陰性例も報告されるようにな
り、Zongらはその陽性率を76.9%と報告した2)。本
症候群の多彩な病像の根底にあるのは形質細胞の増殖
であり、M蛋白血症もまたそれを反映しているものと
思われる。一方、浮腫や胸腹水、臓器腫大には形質
細胞から分泌されるVEGFの関与が考えられる。同症
候群でほぼ全例に認められる末梢神経障害について
は、血管透過性冗進により血液神経関門が破綻し、通
常神経組織が接することのない血清蛋白が神経実質に
移行することや神経血管内皮の変化を介して循環障害
がおこるなどの仮説があるが、実証には至っていない。
我々の症例では骨髄での形質細胞数が軽度の増加にと
どまっていたことから全身の形質細胞増殖もまだ軽度
であり、血清において電気泳動法で検出されるような
M蛋白の増加を確認しえなかったと推測される。しか
しながら血清VEGF増加の存在が、前述したような機
序で浮腫や末梢神経障害を惹起したものと考えられた。
尿として排泄されたM蛋白は一定の時間、膀胱内に蓄
えられているために濃縮され、血清よりも検出感度が
高くなるものと思われる。浮腫を伴う末梢神経障害を
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